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キレイな大人になんてなれない

2020年が終わってしまう。
今年、自分のnote全然書いてないじゃないか。

年を越す前にせめてあと1本。近所のスタバにやってきて、スタバで流れているクリスマスソングメドレーは無視してノイズキャンセリングイヤホンでクラシックをかける。歌詞のある音楽は文章を書くのに向かない。

Spotifyの検索画面でたまたま目についたヨーヨー・マのアルバムだ。

さて、何をテーマに書こう。
iPhoneのメモ帳に、アイデアの切れ端ばかりは溜め込んでいるのだが、そこから長文に発展させるまでが一苦労だ。


・・・ヨーヨー・マ、いいなあ。

そうだ、私は弦楽器の音色が好きなのだ。

弦楽器の響きは、なぜだか私の琴線に触れる。


あの時もそうだった。

***

18歳で、宝塚受験に失敗して上京して、演劇科のある芸術短期大学に入学した私は学校のロビーで雷に打たれたのだった。
その学校では練習室を取れなかった音楽科の生徒が廊下やロビーで自主練習をするのが日常的な光景だった。その日も、美しいバイオリンの音色が響いていた。

たしか曲は『チャルダッシュ』。

後から分かったがその曲は彼の十八番だった。

2歳年上の、黒スーツと黒縁眼鏡でキメた、モジャモジャ頭の長身のバイオリニスト。

私は生まれて初めて一目惚れをした。

まるで少女漫画のようなシチュエーションだった。

今思えば、宝塚ファンで夢見がちな上京したての田舎娘に、全身黒づくめ頭モジャモジャバイオリニストは刺激的すぎた。しかもその田舎娘は高校の3年間、宝塚受験のために恋愛を封印していた。その反動もあった。田舎娘の猛烈な片思いが始まるにはあまりにも条件が揃いすぎていた。

私は彼のことを「先輩」と慕い、その後2年間の短大生活を苦しい片思いに捧げることとなる。

とにかく私の恋にかけるエネルギーたるや凄かった。先輩に呼ばれれば何時だろうと駆けつけた。入浴を済ませてさあ寝るぞというタイミングでも、「皆で遊んでるんだけど今から来れる?」と言われれば化粧をし直し終電に飛び乗った。
演劇科の舞台発表会に生演奏のゲストとして先輩が参加した時には、率先して橋渡し役を務めた。普段はスタッフ業に全くやる気を出さないくせにものすごい熱量で完璧に仕事をこなし、演劇科の同期たちには呆れられた。
私は完全に公私混同するタイプだし、彼氏ができたら友達との約束をキャンセルするタイプなのだ。

学校中に私の思いは知れ渡っていた。当然先輩本人も私の思いを知っていた。今思うと不思議だが、当時は全く恥ずかしくなかった。

何人かの音楽科の生徒に「やめておけ」と忠告された。

いつも相談をしていた女友達が見かねて「もし先輩がバイオリンをやっていなくても好きって言える?」と説得してきた。

わからない。先輩とバイオリンはセットだ。先輩はバイオリンでバイオリンは先輩だ。他人から見て不毛な恋だろうと、どんなに痛々しかろうと、その思いが尽きることはなかった。


片思いは唐突に終わる。

いや、唐突だったわけじゃないのかもしれないが。
自分の行動を客観視するなんて術を持たなかった私は、ある日呼ばれてもいないのに先輩の家を訪ねた。何か用事があったわけではなかった。ただ、会いたかったのだ。

中にいる気配がしたから呼び鈴を鳴らした。何度も鳴らした。だけどいくら鳴らしても出ないので、とうとう諦めて差し入れのお菓子をドアノブに引っ掛けて帰った。
今思えばホラーだ。
だが当時の私にとっては純粋な恋ゆえの所業。
しかし残念なことに、彼にとってもホラーだった。

その夜、メールでフラれた。
「ずっと君との関係をどうしようかと思ってたけど、やっぱり無理だ。」
そんな内容だった。

後々、友人に「あの時のナツコは怖かった」と言われた。


***

なんでこんなことを書こうと思ったのか。


そうだ、この後私はだんだんと大人になってしまった。

「好きってことをがバレたら引かれるだろう」

「急に会いたいだなんて言ったら重い女だと思われるだろう」

客観視客観視。カッコ悪いことはしたくない。
嫌われないように、引かれないように、
「私は物分かりのいい女」「冷静な大人の女」のフリ。
そうやって自分がどう見られるかばかりを考えて行動していたら、いつの間にか恐ろしく恋愛ベタになっていた。

あれ?それが「大人」なの?


最近気づいたのだ。

たぶん私の熱量は、あの頃とさほど変わっていない。

でも自分のことを知ってしまった分、自分の見せ方を学んでしまった分、それを隠そうとして、でも結局うまくいかない。

結局隠しきれない。隠し続けて人と向き合うなんてできないんだ。

もうちょっと、カッコつけるのやめたらいいんじゃないか。

引かれても嫌われても、正直でいた方がいいんじゃないか。

18歳から倍、歳を取った今、1周回ってそんなことを思ったので書き留めたくなった。書いている間ずっと、弦楽器の音をエネルギーに、羞恥心を拭い去ってなんとか投稿ボタンを押す。



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