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不確実性とリスク管理

 カーリング女子🥌銀メダル🥈!!!
おめでとう!!


 あと一歩だったけど、それでもすごい!!お疲れ様でした!!!





と、まあひとまずは日本人選手の健闘を讃えた上で、北京五輪のカーリング女子の戦いを見ていて感じたことを書きたいと思う。

 無論、私は投資やトレードのことを中心に書くので、日本人選手の試合についてはなるべく触れないでおきたい。

 ただ、スポーツにほとんど興味のない私でも、カーリングという種目は特殊な競技だなと感じた。スポーツはド素人だけれど、普段からリスク管理の重要性と不確実性の中での戦術については身銭を切って学んで日々研究している者として感じたことをまとめるので、どうか目を通してくれると嬉しい。



カーリングのルールの特殊性


 特筆すべきは、カーリングは1回(エンド)に複数得点をすることができるゲームだということだ。こういうルールのゲームは結構珍しい。

 盤上にボールが1個しかない競技の多くは、普通1プレイにつき1点しか得点できない。

サッカー
バレー
ホッケー
卓球…

 アメフトやバスケのように1回のゴールの価値が1点ではない競技は別としても、それぞれの持ち石を得点をガードに使ったり、得点の源にできるというのは変わったルールの競技である。

 それに「的の中央に石を狙って置く」ことを目指すのに、アーチェリーや弓道、ダーツとも違っている。
 的の中心を狙いながらも対戦者を妨害したり、相手の次の手を予測したりと、明らかにカーリングは「精度を競う」というより、対戦相手と戦う「組手」の要素が大きい。

 こんな風に考えると、カーリングに一番近いのはメジャースポーツでは野球ではないかと思う。


 それでもカーリングには唯一無二の特殊性があって、つまり1エンドに大量得点できるチャンスがあると同時に、大量失点をするリスクがあるゲームである。こういう得点方式のスポーツは非常に珍しい。(強いて言えば、運動会の玉入れくらいかな…)

 野球も満塁であれば、1プレイで最大4点までスコアが動くが、野球はターン制で両者に守備と攻撃の機会が平等に与えられているためカーリングのように毎回点数状況が変動することはないだろう。




失点を防ぐゲームであること

 カーリングは後攻が得点しやすいが、得点した後のエンドでは先行後攻が入れ替わってしまう。

 つまり1エンドごとに1点失うのは手数料みたいなもので、これは仕方がない。(ポーカーでいうアンティのようなもの)
 交互に1点のやり取りをしているうちは、卓球やバレーのようにサーブ権が移動しているだけで痛くも痒くもない。


 ゲームが動くのは、後攻のチームがミスして点を取り損ねる(ブランクまたはスティール)か1エンドで複数得点をする場面である。(素人考えなので間違ってたら申し訳ない)


 ここで、トレーダーの端くれとして考える。

 
 カーリングで勝つための戦略を考えた場合、最優先で考えるべきは、自分たちが先攻の時に大量失点を防ぐこと

 いかに得点をするかということではなく、大きな損失を出さないようにすることが勝利の鍵だということだ。
 

 つまり、リスク管理がめちゃくちゃ大事だと思った。



ダークサイドを限定していく


 「カーリングは失点を防ぐゲーム」


 私がそう思う理由を以下に書く。



ショットの成功率は8割

 五輪に出るレベルの選手でも、ショット(投石)の成功率が8割程度ということは、失投は”結構多い”ということ

 成功率8割を「精度がいい」と感じるか「まあまあ外す」と感じるかは人によると思うが、5投中1投は外すと考えると、個人的には「微妙」だと思う。

 確率論では、10エンド中、双方2回ずつくらいはミスする。(ブランクまたはスティールを許す)
ストーン単位では毎エンド1回〜2回失投すると考えると多いように感じないだろうか?

 つまり得点すべき後攻で点を失う場面は多い。



1つの石が動かせる石は2個が限度

 これも「違うよ!」という意見もあるかもしれないので、カーリングに詳しい人がいたら先に謝っておく。素人考えで申し訳ない。

 ただ、慣性の法則を考えると、投げた石のエネルギー(運動エネルギー)は、別の石にぶつかった瞬間にその石に移動し、最初に投げた石はそこで停止する。
 言い換えると、投石者がコントロールできるのは最初の石だけであって、いわゆる「跳弾」の動きは操作することはない。ただ氷面の摩擦で止まるまで滑るだけである。(この摩擦を減らして石の運動を「伸ばす」のが「スウィープ」である。)

 試合を見ていると、女子の筋力では1つの石で弾くことのできる石は最大で2つまでが非常に多い。(氷面の摩擦と石自体の重さで運動エネルギーがゼロになるのが大体この辺という意味)

 無論、助走をつけて最大限の力で投げればもっと動かせるのかもしれないが、「軌道をコントロールできない」という意味では失投と同じことである。

 つまり1投で2個相手の石を弾き出せるのは「スーパーショット」であり、成功率は8割を大きく下回る。

 単純に考えて0.8×0.8=64(%)以下の精度に落ちるだろう。5割程度と考えても、失敗率が5割では「安定しない」と言わざるを得ない。これでは手法としては使い物にならない。
 

 故に五輪選手といえど、「確実に動かせる石は1個につき1個」なのである。


すべての石が潜在的に失点材料である

 これが面白い。

 カーリングでは、 仮にカード(壁)として置いた石であっても、最終的に円の中にあれば、得点に変化し得る。

 つまり、防御と攻撃が一体になっているのだ。

 この「一線を越えるとプラスがマイナスに転じる」というのが、めちゃくちゃトレードに似ている。
 エントリーラインを破ると、今まで含み益だったポジションが一気に損失に転じる、あの感覚だ。この時、ポジション(石)が多いことは「大損失」を意味する。


先攻の時は完全なる受け身

 これも恐ろしい。先攻のチームは、後攻のチームが石を投げる時には妨害できない。

 トレードで言えば、流動的なポジションが相場の揺らぎの中に漂っているのに、損切りも利益確定もできないのだ。
 ただエンドがクローズするのを待つだけ。バイナリーオプションみたいな感じだろうか。


リスク管理

①成功率は8割
②1個の石で動かせる石は1個
③石は損失に変化し得る
④先攻では損失に対して受け身

 これだけ見ても、かなり不確実性に左右されるゲームだと思えるだろう。

 失投することを除いても「偶然」の要素がかなり多い

 カーリングに限らず、こういう運の要素が大きいゲームの場合、得点の方法うんぬんより、自身のダークサイドを限定していかなければならないと思う。



 結論である。


戦略1
なるべく相手の石(失点のリスク)を枠外に出す

 相手の石がなけれは失点しないのだから、これが最優先である。一投ごとに確実に相手の石を外に出していき、損失のリスクを減らさねばならない。

戦略2
失投をしない

(スーパーショットを狙わない)

 自分の石1個につき1個しか相手の石を弾き出せない前提で考えると、石が同数なのだから、本来は「そもそも無理に複数得点を獲ろうとしてはならない」のである。


 「それじゃ勝てないじゃん!」

 そう思うかもしれないが、プロ選手でも失投率が2割近くあるのだから、そもそもカーリングというゲームは、放っておいてもミスが出るのだ。
  
 であるならば、自分からスーパーショットを狙う場面を作るといずれ確実に負けるということなる。なぜなら、ダブルテイクアウトのような奇跡のショットは絶対的に成功率が低いからである。

 
技術的な問題を度外視して確率だけで考えると、カーリングとは、2点以上点差が離された時点で相当逆転するのが難しいゲームとして設計されているのだ。

 そういう場面で成功率の低い技巧的なショットを狙わざるを得なくなった時点で遅かれ早かれ負けることが運命づけられている。

そう思った。



トレードとカーリングは似ている


 カーリングは守備を固めて、相手のミスを待つゲームだと感じた。


 この「守備を固める」という部分と「待つ」というのがトレードとすごく似ている。

 勝とう勝とうと焦ると損失につながり、ボコボコ新しい玉(石)を入れると一気に大負けする。ハウスに石を集める手法はレバレッジをかけ過ぎたトレードと同じで、ある日突然破産する。

 だが、トレードの手法の精度(勝率)が高い人ほどこれがわかっていないことがある。
 あまり負けない人は、普通に取引を繰り返していれば自然とお金が増えていくから、レバレッジをかけて一気に利益を取って行くほうが効率がいいように思ってしまう。

 そして信用取引に手を出して、ある日追証を食らって相場から退場していく。

 大勝ちするということは大負けするかもしれないということだ。トレードもちょっとずつ勝っていくのが必勝法だ。

 どんなに上手い人でも成功率は8割程度というのもリアルだ。8割は勝てると信じられるが、残りの2割は「わからない」。それが相場である。きっとカーリングも同じだと思う。


 氷の上とローソク足、見ているものは違うが、とてもシンパシーを感じた瞬間であった。


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