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"世界一優しい裁判官 Frank Caprio"に学ぶこと

テレビの仕事を離れると、テレビを見ることを避けるようになって、ここ1年はもっぱらYouTubeウォッチャーと化している。
最近ずっと見ているのが”Caught in Providence”

アメリカ ロードアイランド州プロヴィデンスにある地方裁判所の裁判長、フランク・カプリオ氏の裁判の様子を見ることができるYouTube。
何の演出も作り込みもない本物のノンフィクション映像。
彼が「世界一優しい裁判官」と呼ばれるのには、その裁判で被告にあたる人たちとのやりとりと愛のある言葉、その判決にある。

動画に登場するのは、スピード違反や駐禁違反を繰り返し罰金を払っていない人が主で、被告となった人たちそれぞれの背景や深刻な事情が明らかになっていく。

駐禁チケットを何十枚も貯めて違反金を払っていない男性は、数ヶ月前にホームレスになり、停めたままの車は故障して動かせない。動かすお金もない上、孤児のため頼る家族もいなかったり。

3か月前にインドから引っ越してきた女性は、スクールゾーンのスピード超過運転で違反切符を切られた。上手く英語が理解できない女性に、8歳の娘が裁判官の言葉を母国語に通訳してママを救おうとしたり。

様々な事情で違反をしたり罰金を払えない人が登場し、フランク裁判長は罰金を払えない人には、自身の母親の名前を冠した基金からまかなうこともある。

子どもを連れて出廷した被告が嘘をついたり苦しい言い訳をしたりすると、その子どもを裁判長席に呼び寄せ「君のママはこう言ってるけど、ママは有罪だと思う?無罪だと思う?」とジャッジを委ねたりもする。
傍聴席には裁判を見守るたくさんの人たちがいて、笑いや拍手が起こる。こんな裁判見たことない。

ある交通違反の裁判では、心の病気でほとんど学校に通えず、お金もなく1日1食しか食べていないという若い女性が出廷した。
「ポケットに5ドルしかないから今はお金を払えない、ごめんなさい」
すると、傍聴席にいた男性が「私が経営するレストランで、彼女に毎日フリーミールをご馳走します」と約束してくれた。
女性は泣きながら感謝を表し、フランク裁判長は「ちゃんとデザートもつけてあげてね」と優しい笑顔でジョークを飛ばしていた。

それぞれが10分弱の動画なのにドラマがあって、最後には心が温かくなる。

日本でこんな裁判があったら、きっとSNSやヤフコメで袋叩きに遭うんじゃないかと思う。「違反は違反だ!優しくしたらつけ上がるぞ!」と。

でも、フランク裁判長の優しさは決して甘やかしではなく、ちゃんとその人に(時にはその人の子どもにも)これからの道を示してあげているし、「優しさを受け取ったら他の人に優しくしてあげて」と言う教えが詰まっている。

人と人とのつながりや関係性、人間同士はこうあるべきだと教えられているような裁判。相手のことを理解して、相手に寄り添うことができる彼の言動に心が洗われる。

ちなみにアメリカの裁判や警察の取調べは可視化され、逮捕の瞬間だって警官のBody Camで記録されている。さすがの訴訟大国。
そしてその映像がそのままエンタメとして番組になるほど、報道やドキュメンタリーの自由があって本当にうらやましい。

Frank Caprio氏は昨年裁判官を引退している。彼のInstagramでは、4年前に出廷した男性の100歳の誕生日をサプライズでお祝いする様子が見られたりと、彼の優しさも人気も衰えていないようだ。

ただ、先月から彼は膵臓がんと闘っている。現役時代からは考えられないほど痩せていて、私はその姿にショックを受けた。今は化学療法治療を受け、病気と闘う宣言をした彼に世界中の人からメッセージを届いている。
彼が世界中の人たちに与えた愛が、いま彼のもとに集まっている。

日々たくさんの人たちに寄り添って職務を果たしてきた彼が、引退してわずか1年弱、人生の余暇を楽しもうとしていたところでガンが発覚するなんて本当にやるせなくなるけれど、どうか病を克服してほしい。

私にできることはないけれど、悪意のある言葉や鋭い刃を向け、歪な正義感を振りかざすツールとしてSNSを使っている人たちに、愛に溢れる温かい世界もあることを知ってほしい。気づいてほしい。
Frank Caprio氏のSNSに集まる人たちは直接的ではなくとも彼の闘病を支え、生きる意欲を保つのに十分な力がある。

きれいごとでもなんでもなく。
悲しいニュースも、人間の醜い一面も、もう見たくない。

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