夏凪

戯言

夏凪

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最近の記事

Malaga

記憶は不確かだけど、なんとなく右足から飛行機を降りる。昔から飛行機が大の苦手で、いつも不安剤を飲むから、飛行機を降りる時の記憶は毎度ほとんどない。それでも決まって、千鳥足でスーツケースを片手にその国の匂いを肺いっぱい吸い込む。 文句がないほどにカラッとした空気。 肌を突き抜けるような力強い日光は、血管の中をドクドクと健康的に、リズミカルに流れる血液の芯まで真っ直ぐと届いた。私はそこに言葉にできないほどの強いエネルギーを感じた。 手のひらを太陽に透かしてみると、真っ赤に流れる

    • 水面とイチョウ

      風を見たくなったら、水面を眺める。 木の枝を離れ、ひらひらと舞うイチョウを凝視し、そこに風の存在を、空気の存在を、重力の存在を認識する。見えないということは、無ではないということ、わかってるけどさぁ。目に見えないくせに、それなのにそこに存在しているなんて、ずるいなあと思う。 側から見たら、水面、イチョウを見つめる人に見えるのだろう。結局その行為の目的を知るのは私だけだと思うと少し誇らしい、得意げな気持ちになる。あなたにはわからないでしょ、と。そうやって私は私自身を確立させる

      • The world without me

        この世界は常に、私以外で成り立っている。 何千年も前から、何億年先まで。時間という絶対的な概念のもと、ただその流れに身を任せるように、生まれて死んでを繰り返す。生産性だとかそんな話を誰かがよくしてるけど、え、あんたが言う?って。 何者かになろうと、何かを掴もうと、四方八方に手を伸ばすと、待ってましたとでもいうように、その反動を利用してそれらは逆方向へと向かっていく。慣性運動の法則はここにも存在するようで、そいつらは一周まわるまで戻ってこない——もしくは球体の上でなければ、永

        • 家出

          20歳の夏。 基本的にポジティブな性格でタフな私、そんじゃそこらのことであまり落ち込んだりしない。困難とか苦難に直面したら、よくある啓発本の思考回路モードに切り替えることで必死に心が落ち込まないように、常に気を張っている。 でもそんなことばかりしていたせいで、本当に落ち込んでしまった時の対処法を知らないまま大人になってしまった。気づいたら二十歳になっていた。 去年の6月頃、それは突然やってきた。いつものことですが、また家庭の問題。尽きない問題や争いには小さい頃から慣れて