タンポポの綿毛ではいられない

昔から、ひとりで出掛けるのが好きです。

計画を立てるのも計画に沿って行動するのも苦手で、その場の思いつきで行動するほうが性に合うのです。映画、演劇、美術館、コンサート、買い物、公園、喫茶店……どこへ行くにも。
時間がたくさんあった大学生の頃は特に、タンポポの綿毛のようにふわふわ外へ出ていました。

ただ、気をつけなければならないことがあります。
女がひとりでいると、声をかけてくる輩がいるのです。

これは、いわゆるナンパのことではなくて。年下の女性に対し、上から目線で「己の知識自慢」を繰り広げてくる男性がいるのです。

オペラを観に行った時、展覧会に行った時、ライブハウスに行った時、はたまた政治デモに参加した時……あらゆる出掛け先に、奴らはいました。

「この作品は実は○○でさ…」とか「ぼくが若い頃に見た○○は…」とか「○○の醍醐味、わかる?」とか。教えてくれなんて微塵も頼んでいないのに。しかもタメ口。本当にうんざりします。私がその相手と同じ量の知識を持っていようがいまいが、ただの迷惑。

でも、相手があからさまに失礼な態度を取ってくるわけではないので、こちらも毅然とした態度で断るということが難しいのです。もちろん、トラブっているわけではないので、周りの人も助けてはくれない。気のない返事をしてその場を離れようとするのに、ずーっとついてくる。駅のホームまでついてこられた時は、映画『サムライ』の、アラン・ドロンの手口(発車寸前の電車から素早く降りるやつ)で撒きました。映画観ておいてよかったー。その後、私は、新たに殺しの依頼を受け、ターゲットが働くナイトクラブへ向かい……じゃないや、これはドロン演じる殺し屋ジェフ・コステロ。


この「男性が女性に対して一方的に説明をする行為」、実は名前があり、「マンスプレイニング」というのです。本当にうんざりします(2回目)。

とはいえ、話しかけられるのは断固拒否、というわけではありません。「一方的に知識自慢をして自分だけ気分良くなりたい人」が嫌なだけです。もし、「その場で生まれた感想を対等に共有したがっている人」だったら、快く、同じ量の言葉を交わします。もちろん、年上の男性であっても。


そして、こんな経験をし続けた私が、どうなったかというと。

数年前まで、「ロングヘアにワンピースに小さなイヤリング」だった私は、今では、「ベリーショートヘアにメンズ服にでっけえピアス」で出掛けるようになりました。タンポポの綿毛は、アザミの葉っぱになるしかなかったのです。見た目だけでなく、中身も。
(ただ、自然とそうなったのか、意図的にそうしているのか……自分では、もはやよくわかりません。過去の自分を否定したくはありませんが、今は、今の自分を肯定するしかないのです。)


武装しないと、気晴らしの散歩もできないなんて。
何なんだ、このジレンマ。


同じ経験をしている人は、きっとたくさんいると思います。女がひとりで、タンポポの綿毛のように出掛けられる場所はないのでしょうか。


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