見出し画像

【ショートショート】100人斬りを目指した少女


少女の家はごく普通の一般家庭だった。
無口な父と朗らかな母とやさしい姉、そしてペットの犬と一緒に暮らしていた。

5歳の夏に近所のお祭りで迷子になって騒ぎを起こしたり、12歳の冬にペットの犬が死んで学校に行けなくなった時期もあったが、特に大きな病気もせずに育った。


少女が17歳になった時、初めて彼氏ができた。
手を繋いで登下校し、毎日のように電話し、そして夏休みのある日、とうとう彼の家を訪問することになる。
その前日に親切な彼はこう言った。

明日、親は出掛けてるから。

少女は勘が良かったので、それが何を意味しているかに気付き、慎重に下着を選んだ。

迎えた当日、少女は無事に彼と結ばれた。

そして天啓を受ける。

この行為のために自分は生まれてきたのだと。
世の男女が何故結婚し子供を作るのか一瞬で理解したが、同時に疑問も浮かんできた。

どうしてみんなひとりの相手で満足できるのだろうか。


少女はまだひとりの男を知ったばかりだったが、すでに他の男の体を知りたくなっていた。

好奇心の強い少女はすぐに行動に移す。
幸か不幸か少女は男に好かれる容姿をしていたので、相手はすぐに見つかった。

4人目の男と夜を共にした翌日、少女は男たちの日記を付けることを思いつく。
こうすれば自分がどんな男と出会い、何人の体を知っているかを数えられる。
そして最初の1人目を書こうとした時、ようやく彼氏のことを思い出した。

ああ、そういえば付き合っていたんだっけ。



30人の男を知った時、少女は19歳になっていた。
高校はかろうじて卒業したが、大学には行かずアルバイトをしていた。

ある時バイト先の友達に、100人斬りを目指してみたら、と提案される。

目標を作るのは良いことだ。
そうだ、100人斬りを目指そう。

少女は自分の人生に初めて目標ができたことが嬉しかった。


50人の男を知った時、少女は23歳になっていた。
ようやく目標の半分を達成した少女は、ひとりの男性にプロポーズされる。

それは46人目の男だった。
目標には達していないが、結婚も悪くない。
そう考えた少女はプロポーズを受けて婚約し、46人目の男は夫になった。

けれど目標も諦めきれなかった少女は、婚約中にも結婚後にも数を増やし、27歳には70人まで到達する。
家事が好きな少女は毎日家を磨き、手の込んだ料理を作り、夫が出張する日には夜の街へ出かけた。




90人の男を知った時、少女は35歳になっていた。
少女はもう自分が少女ではないことを知っていたが、ゴールは目の前だ。

しかしそれまで一度もバレていなかった嘘が、ついに夫にバレてしまう。
離婚することになり、家を出た。

子供がいないため身軽だった少女は、いちばん最近会った男に連絡し、相手の家へと転がり込んだ。

それは88人目の男だった。
88人目の男はやさしく、少女にいつまでも居ていいと言ってくれた。
だが、少女は目標を達成しなくてはならない。
そのことを正直に話すと、88人目の男は少し悲しそうな顔をして見送った。



100人斬りの目標を達成した時、少女は39歳になっていた。

これでようやく終わりだ。

一人で住むアパートで、静かにお祝いをした。
明日からは新しい仕事も始まる。

少女は101人目の男が満足してくれることを願いながら、ゆっくりと眠りについた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?