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【小説】 早起き

この頃、弛んでるんじゃないかと思うことがある。
そう、目覚まし時計が鳴っていると耳にしてその後にまた止めて眠りに付いてしまうからである。
そんな二度寝なんて誰でもするでしょうよと言われたらその通りかもしれないけれど、でもやっぱり思うのだ。弛んでる。

「早寝早起きは基本!全ての基本なのよ!」
ってすぐ怒られる。
なぜ起きれないのか、なぜ前日早く寝るということができないのか、なぜ翌日のことを考えられないのか。
「ずっと1から10まで言わなきゃいけないなんて!」
ヒステリックに叫ばれた私は心の中で思ってた。
『別に言ってなんて頼んでないのに』

「あなたのことを思って…」
そう言われることも多々あった。
でもそのうちの何パーセントが「私のため」になるのだろう。
私は私の思うことで行動しているわけで、全て自分に跳ね返ってくるわけで。勝手にのたれ死ねって思ってくれて構わないのにいつもうるさい。
ああだのこうだの、こうしろああしろ。感謝しろ、感激しろ。
どれもこれも耳障り。
こんなにたくさん、耳にぶら下げても何にもならないのにいらない言葉ばかりがぶら下がる。幾重にも重ね着された自分はいつまで経っても自分なんて出てきそうになくて、引きこもってばかりいる。
そして引きこもるとすぐにまた、こういうのだ。
「社会に出て苦労するわよ」
誰も彼もが離さない。私という人間が彼らのいう「ふつう」にならなければ気が済まない。どこからでも監視して「ふつう」でいることを強要する。
「朝も起きられないようじゃだめね。人間失格!」
あっさり烙印を押していく。言葉の暴力なんてものはないと涼しい顔して刺していく。お前はダメな人間なんだと。
「そんなこと、言った覚えはないわ。あなたのことを考えて言っていたの」
そういえば、免罪符になるらしい。
本人たちは口を揃えて罪を逃れる。
「あなたのことを思えばこそだったのよ」
震えながら縋る様が滑稽で、絶望した目で見上げる姿は蝋人形と変わらない。結局、誰しも自分が一番可愛くて仕方ないことを証明しているかのような喚き声ばかりにはうんざりするし、逆上するのだって見飽きた。
そろそろ終わりにしたい頃。パンっとクラッカー音が鳴ったかと思えば、音が消えた。
誰かを悪人に仕立て上げたくなるのがサガだとしたら、私は。私も。私だって。私こそ。私には。私とは。わたしは。

いつになったら早く起きれるのかは分からない。
きっと起きると自覚した時だけど、今はまだ起きずともいいはずだから。
寝覚めの悪い夢を上書きしたくて、今日も布団に潜ってく。

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