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【小説】 夢枕

てざわりの残る夢を見た。
それはどんな夢よりも夢らしくなく、現実と錯覚したくなるほどに、切なかった。

はじまりは今朝見た夢だった。
その夢の中には昔飼っていた猫が登場したのだ。
彼女は私を見つけると嬉しそうに尻尾をピンと立てる癖があり、それがとても可愛くてよく名前を呼んだ気がする。
夢に出てきた彼女も、昔と同じように私を見つけるとトトトトっと駆け寄ってきた。
「ニケ?元気だった?」
そう問いかけると、お決まりの癖で尻尾が伸びる。
無意識に、私は彼女が亡くなっていると夢の中でも気づいてしまったが、「触れる?」と聞き手を伸ばすと、確かに彼女に触れられた。あのさらさらとした艶やかな毛並みともっと撫でてと言わんばかりの丸い背中と尻尾の付け根のぴんと張った感覚が、ふっと手に宿ったのだった。驚きと安堵の気持ちで彼女をゆっくりと撫でていると、彼女も喜んでくれている気がした。

パチリと目が覚めて見た夢を思わず反芻する。随分と長いこと彼女に会いに行っていない為か、彼女から会いにきてくれたようにも思った。夢の中から会いにきてくれるだなんて、健気な子なのだ。
カレンダーを眺めてみると、彼女が亡くなって49日が明けた時期だったので、次の休みの予定を確認する。
まだお寺に納められていない彼女に会いに、実家へ帰る算段をつけることにしたのだ。今度はちゃんと、私から会いにいくよ。
そう心の中で呟くと、朝ごはんの準備をした。
ふんわり漂う鰹節の香りの横で、彼女の写真が微笑んでいる気がした。

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