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【小説】 わかるまで

何がわからないのか、わからない。

そんな気持ちに苛まれる時がある。

周りから見れば「当たり前」と呼べる代物も、私にとっては「当たり前」ではなくて、だから「遅れている」とレッテルを貼られて冷やかされる。

「お前は脳死している」

そう言われてしまった言葉が刺さって抜けない。

「まだ終わってないの?」「どうして出来ないの?」「これは当たり前のことなんだけど」「確認するようにしてよ」「このくらい出来てくれなきゃ」

耳を塞いでも隙間からするする入ってきて刺していく。

わかってる。

自分が出来ていないことは自分が一番わかってる。

それでも出来ない、わからない。何がわからないのさえわからない時があって、どうにか解りたいのに、解りたいところではないところに転がったりして迷子になって、気がつけばまた同じことの繰り返し。

自分という人間が嫌いでしょうがない。

どうして出来ないのか、なぜ考えていないのか、考えていたはずなのに、結局考えていないじゃないか、考えるってどこから、何がわからないのか、私にはもう何もわかることが出来ないのか、考えることを放棄するな、何を考えたらいいの、、、

心の深淵を除いた時の悍ましい感情が渦となって締め付ける。いつまでも繰り返していては何も始まらないと知っているのに。じゃあ、どうしたらいいのかと出口の探し方から考えればいいのに。ただ、それだけなのに泣きそうなくらい出来なかった。あの人と出会うまでは。

「出来ないなら何度でもやろう。繰り返して覚えるまでやろう。無意識にでも分かるくらい何度もやれば覚えるさ」

そう言ってくれた言葉が暖かくて思わず泣いた。否定から入らない言葉が心に沁みた。

出来ないなら出来ないなりに、ジタバタするしかない。

腹をくくって階段を登った。



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