見出し画像

#2経験の蝶番

割引あり

前回、私がとある物理学者に出会い、フランスに移住することになった経緯について話をした。不安で仕方のない私がそれでも「彼について行く」と決めた理由や、それによって起きたよもやま話を今回はお話ししよう。

なぜ、それでも行くのか

「自分の仕事の都合がつかなさそうだから待つ」という決断をしたって、特に問題はないはずだ。むしろ将来家庭を築く上でも研究者である彼の給与を一切当てにできない分、私がモリモリ働いておく必要があるのだから、日本に残った方が安全策に決まっている。

ではなぜ、それでも行くのか。

それは「ちゃんとそばにいた」という経験が、いつか2人の大きな財産になるからだ。

仮にどうしてもままならなくなり、一人で帰国しなければならい状況になったとしても、一度決断して実行したということが大切になる時がくる。

彼にとってもこれは大きなターニングポイントだ。その不安定な時期に、一緒に居ることを選んだこと、その地で2人だけの肌感覚を共有したことが、必ず2人を繋ぐ大切な蝶番になる。だからこそ、多少の犠牲はあっても、ついて行かないという選択肢は私にはなかった。

現実は甘かったし夢はほろ苦かった

渡航に際して最も気にしていたこと。
それは教室の生徒が受け入れてくれるかどうかということ。

もちろん、結婚へのお祝いの言葉はくれると思うけれど、実際に教室に通うことが楽しみで来ていた生徒たち。コロナも明けて人との触れ合いに喜びを感じている人たちがリモート授業になって残念に思わないだろうか、そのせいで大半が辞めてしまったりしないだろうかと不安だった。

だが現実は甘かった。

数日間に渡り、生徒たちに結婚の報告とこれからの教室のやり方を丁寧に説明する会を設けた。毎回イヤな冷や汗をかきながら不安で仕方のない状態で説明を始めるのだが、揃いもそろってこう言ってくる。

「フランスなんて先生のセンスにますます磨きがかかっちゃいますね!」
「先生だけリモートの書道教室なんて面白すぎる!」
「時差あるし稽古時間も先生に合わせますよ!」

こちらの不安を完全に吹き飛ばす100%ポジティブな言葉で祝福し、満面の笑みで私を包み込んでくれる。本当に優しい生徒の皆さんに恵まれたし、改めて、彼らにとっての豊かな時間をしっかり守るのだ!と心に誓った。


逆にほろ苦いこともそれなりにあった。

半年前から始動していたYouTube番組「ゆる書道学ラジオ」はオーディションで決まった相方との対談形式で、学問の話をゆるく楽しく話す番組だ。この続行がなかなか難儀だった。数ヶ月に1回日本に帰国し撮りためてからフランスに戻るというのは非現実的。往復に30万以上かかるし、その1回に40本近く撮影しないとコンテンツが足りなくなる。(なので却下)

ではリモート撮影はどうか?それはそれで面白いのではないか?画像などは見せやすくなるし、たまにフランス在住のひろゆきさんのオマージュなどやっても楽しそう!などと妄想して、楽しいことがやれそうだと夢見心地に考えていた。

…がそうはいかなかった。

「リモートだと会話のリズムの面白さが担保できないかもしれない。」
一度はリモート撮影の方向で決まりかけたが、色々な問題が生じ、白紙に戻った。
長時間の話し合いでベストを模索したが、会議はかなり難航した。

最終的には社長の提案と2人の希望を合わせ見て、コンビは解散することに。相方は別の相手を募集するという結論になってしまった。

お互い舞台馴れしている者同士、彼との公開ライブはお客さんを巻き込んでとにかく楽しいものになる。阿吽の呼吸で場を回せる感じは彼としか生み出せない価値だと思っている。解散はしたが、いつか何かのタイミングでまた一緒にライブがしたいし、今後決まる彼の新しい相方さんとのラジオも楽しみに応援していきたい。

公私ともにパートナー

では「ゆる書道学ラジオ」はどうなるのか?
私の一人語りになるのか?

そうではない。思い出してもらおう、私は彼氏とどこで出会ったのか。

そう、まさにその番組のオーディション過程で出会ったではないか!

彼氏のいないミーティングで「夏生さんはフランスで彼氏とラジオ撮って!断られたらそこらへんのフランス人捕まえて。」と社長に言い渡された。

彼に会議の事後報告をすると、こう答えた。

ここから先は

2,849字

よろしければサポートお願いします!いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に当てさせて頂きます!今後の活動も応援・フォローよろしくお願いいたします。