夏目ゆきお

作家(自称) 作品 流行作家(のみ) 信条 小説は、読まれなければただの紙 小説を…

夏目ゆきお

作家(自称) 作品 流行作家(のみ) 信条 小説は、読まれなければただの紙 小説を自費出版した体験記を公開しています 執筆体験を共有したい方大歓迎です

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  • 小説自費出版体験記 夏目ゆきお

    『流行作家』という小説を自費出版しました。(幻冬舎 2020/9/11) 「成功」を巡り、理想と現実の狭間でで揺れ動く友情、家族愛に加え、文壇の裏側も描いています。 この創作体験を通じての学び、気づきや小説に対する自分なりの考えを綴っています。

最近の記事

小説自費出版体験記第27回 章見出しとエピグラフその3

前回はエピグラフの例として『ノルウェイの森の森』を取り上げました。今回は章見出しについての例を見ていきます。 第25回で章見出しは次のパートの内容を反映したものと書きましたが、見出しは有機的な意味を持つ言葉に限りません。第一章、第二章、第三章……(ノルウェイの森)、上、中、下(こころ)、あるいは単に1,2,3……というように無機的な見出しを順番に並べた作品もあります。 実例として、少し不思議な見出し構成の作品を見てみましょう。 『月の満ち欠け』佐藤正午 冒頭に掲げた画像はそ

    • 小説自費出版体験記第26回      章見出しとエピグラフその2

      今回は、『流行作家』の次章に進む前に少しだけ他の作品を鑑賞してみましょう。 多くの祭り(フェト)のために ノルウェイの森 村上春樹 ご存知、村上春樹の金字塔的ベストセラーのエピグラフです。 『華麗なるギャツビー』の作者フィッツジェラルドの言葉は冒頭に置かれ、作品全体にかかります。そして作品全体の見出しであるタイトルの『ノルウェイの森』はビートルズの初期ナンバーの曲名です。非常に短い曲でメロディーはいたってシンプル。ジョン・レノンが吟遊詩人のようにゆったりと歌っています。特

      • 小説自費出版体験記第25回 章見出しとエピグラフ

        ごぶさたです。 しばしのお暇を頂戴しましたが、お陰様で新作を書き上げることができました。Wordで600枚を超す長編ですが、満足いただけるエンタメパニック小説に仕上がったと勝手に錯覚しております。 新作はいずれ紹介させていただくこととして、さっそく『流行作家』の出版体験記を再開します。 今回から章見出しとエピグラフを語ります。エピグラフってなに? 本文前段の引用文、句、短文のことです。ああ、あれか、と思われたでしょうか(実は私もそうでした)。 『流行作家』は395頁の長編で

        • 小説自費出版体験記第24回/主人公の心理描写その3

          しばらく道を踏み外しましたが、更生してまっとうな道に戻ります。 今回は主人公芹生の心理描写の第二段階です。 人の心理は直面する状況を映す鏡。芹生の状況を見てみましょう。 芹生の置かれた状況:ライバル的友人川島の雇われの身となる この状況での彼の心理に、どんな言葉が当てはまるでしょう? 屈辱、自己嫌悪、自信喪失、いろいろあると思いますが、最も端的に言い表す言葉として「屈折」が思い浮かびました。 もちろん、さらに様々な状況で芹生の心理は揺れ動きますが、根底には「屈折」した心理

        小説自費出版体験記第27回 章見出しとエピグラフその3

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        • 小説自費出版体験記 夏目ゆきお
          14本

        記事

          小説自費出版体験記第23回/文体、描写はジャンルでどう変わる?

          前回は、小説のジャンルによって心理描写がなぜ変わるのか、分かりやすく純文学とライトノベルの対比で考察しました。 テーマや内容、作風が似たものを集め分類したのがジャンルであり、必然的に描写も変わります。 今回は少しお遊びが入りますが、実際の作品を練習台(伊坂先生、すいません)に、心理に限らずもっと広く、ジャンル別に文体、描写がどう変わるのか考察します。 皆さんもゲーム感覚で楽しんでください。 ……中略……けれどまさか、自分が銀行強盗の人質になる時が来るとは、思ってもいなかった

          小説自費出版体験記第23回/文体、描写はジャンルでどう変わる?

          小説自費出版体験記第22回/心理描写はジャンルでどう変わる?

          前回、小説の心理描写の目的は読者の想像力喚起⇒共感獲得であり、その描写は多種多様であると述べました。今回は、同じ心理を描くときに小説のジャンルによって描写がどのように変わるのか考察します。 小説のジャンル実は小説のジャンルは無限です。そんなことないよ、あんた偉そうに書いているけど本当は何にも分かってないな……、という声が聞こえますが、実際にネットで小説ジャンルを拾ってみると、純文学、大衆(エンタメ)、ミステリー、青春、恋愛、ファンタジー、ホラー、ライトノベル、経済、歴史・時

          小説自費出版体験記第22回/心理描写はジャンルでどう変わる?

          小説自費出版体験記第21回/心理描写ってなに?

          第19回で述べたように、主人公芹生の心理状態は大きく四段階に分かれます。これまで第一段階「家族のために矜持を捨て去る」心理まで綴ってきました。第二段階に進む前に一旦立ち止まって、心理描写について考察してみます。――始めから考えておけよ、という声が聞こえてきますが、以前書いたように文章は生き物、書き進めるうちに思いつくことが多々あり、それに筆を委ねます。 心理描写とは?小説における心理描写とは何か? 人間の心理は複雑です。単純に怒った、喜んだ、悲しんだ、というわけにはいかない

          小説自費出版体験記第21回/心理描写ってなに?

          太宰治の文章/人間失格から

          太宰治の文章の特徴は、やたらと一文に読点が多いことです。人間失格より例を示します。 読点34、字数428の一文 別れて、日が経つにつれて、よろこびは薄れ、かりそめの恩を受けた事がかえってそらおそろしく、自分勝手にひどい束縛を感じて来て、あのカフェのお勘定を、あの時、全部ツネ子の負担にさせていまったという俗事さえ、次第に気になりはじめて、ツネ子もやはり、下宿の娘や、あの女子高等師範と同じく、自分を脅迫するだけの女のように思われ、遠く離れていながらも、絶えずツネ子におびえてい

          太宰治の文章/人間失格から

          小説自費出版体験記第20回/主人公の心理描写その2

          前回に引き続き、レッドリストに収載されそうなくらい希少なアクセスを頂いている皆さんのために、主人公芹生の心理描写を綴ります。簡単に振り返ります。ライバル的友人川島の文学賞受賞は芹生の心に大きな揺らぎをもたらします。祝福する心⇒あせる心⇒現実を受容する心、と揺れましたが、最後は前向きに奮起する心に落ち着きました。でも、状況の変化が、芹生の心に再び動揺をもたらします。 妻の実家が苦境に作家としてデビューできない芹生の生活は、妻である沙希の実家の援助で成り立っていました。でも、彼

          小説自費出版体験記第20回/主人公の心理描写その2

          小説自費出版体験記第19回/主人公の心理描写

          前回、主人公芹生と彼の友人でありライバルでもある川島のキャラクターについて綴りました。これまでも触れたように目標は映画やドラマになる小説でしたが、作品を貫いていたテーマは、文学賞受賞や売れっ子作家になるという「成功」を巡る人間の葛藤です。成功を眼前にして、自分では決して揺らぐことがないと信じていた大切なものが揺らぐ、そんな皮肉な世界観を描きたいと考えていました。成功を巡って芹生の心は大きく分けて四段階に変わります。第一段階:川島の成功を目の当たりにしたとき、第二段階:川島にひ

          小説自費出版体験記第19回/主人公の心理描写

          小説自費出版体験記第18回/登場人物のキャラクター設定その1

          今回から登場人物のキャラクター設定についての体験を綴ります。だいぶ寄り道をしましたが、ご安心ください。1人でもお読み頂いている間は打ち切りにしませんので。 さて、拙作『流行作家』で始めに頭に描いていた登場人物は二人だけです。主人公の芹生研二とライバル的友人の川島祐。それぞれの背景は……。 芹生研二:ひたすら芸術性を追い求める売れない純文学作家 川島祐:芹生の同窓生で天才的エンタメ作家。文学賞を受賞してから、あっという間に流行作家になる。 スタート時点で考えていたのはこ

          小説自費出版体験記第18回/登場人物のキャラクター設定その1

          小説自費出版体験記第17回/擬音語と擬態語その3

          今回は文豪の音や光の表現を、川端康成の『雪国』と太宰治の『グッドバイ』から鑑賞します。まず雪国から 1、「しいんと静けさが鳴っていた」 静けさが鳴る……どこかで見たような気がします。 「鳴り響く沈黙のように」 そう、前回紹介した三島由紀夫の『金閣寺』で登場しましたね。あの難しい「撞着語法」です。共通しているのは、「静けさ」「沈黙」という無音の状態を表す言葉を、「鳴る」という有音の状態を表す反対語と組み合わせることにより、静けさを強調している点です。普通なら存在を感じな

          小説自費出版体験記第17回/擬音語と擬態語その3

          小説自費出版体験記第16回/擬音語、擬態語その2

          今回は文豪の、特に音にまつわる表現を鑑賞します。 まず、三島由紀夫の金閣寺です。言うまでもなく、三島は作家人生を通じて芸術的文章を追い求めました。それはライフスタイルも含め、三島美学と謳われています。 さっそく覗いてみましょう。便宜上番号を振ります。 1、「火は却って雨に逆らって、鞭打つような音を立てて募った」 2、「畳を笹の葉のように擦る音は、蚊帳の裾が立てている音」 3、「そこらをけば立たせ、そぎ立てるような風の遠い神秘な笛音」 4、「無数の人間の関節が一せいに鳴る音」

          小説自費出版体験記第16回/擬音語、擬態語その2

          小説自費出版体験記第15回/文章に格調を持たせる…擬音語、擬態語その1

          ミステリープロットからヒューマンドラマエンタメ小説へと変身しましたが、私が目指したゴールは「映画やドラマ化される小説」でした。そのためにはストーリー展開が最も重要ですが、文章表現にはある程度の芸術性を持たせたいと考えました。というのは、友人同士である二人の若き作家の友情や家族愛のほか、嫉妬、葛藤、欲望という、いかにも純文学的テーマを扱っていたからです。 さて、芸術的な文章といっても創作経験のない私にとっては簡単なことではありません。まず浮かんだのは、オノマトペ(擬音語、擬音語

          小説自費出版体験記第15回/文章に格調を持たせる…擬音語、擬態語その1

          小説自費出版体験記第14回/プロットと全然ちゃうやん

          2回に渡り、書き出し部分について綴りました。ではなぜ「殺人となり代わり」が話の軸になるミステリー調のプロットに従って書き始めた小説が、編集者から「ヒューマンドラマエンタメ小説」と称される作品になったのか。書き進めるにつれて自然とそうなった、というと身も蓋もありませんが、実際それが理由です。 文章は生き物だ、ということを今回実感しました。書いている最中にアイデアが閃き、それによって当初考えていた流れと大きく変わってゆきました。そして登場人物に命らしきものが宿り、台詞を言わせる

          小説自費出版体験記第14回/プロットと全然ちゃうやん

          小説自費出版体験記第13回/書き出し、その2

          前回、書き出しの重要性に触れました。体験記とは少し離れますが、参考にいくつかピックアップした作品の書き出しの一行を見たいと思います。便宜上、番号をふります。 1.「秒針が時を刻む音が、六畳ほどの空間にやけに大きく響く」 「仮面病棟』知念美希人 2.「犯行後、男は六時間も現場に留まり、そのほとんどを全裸で過ごしている」 『怒り』吉田修一 3.「いつの記憶なのかは分からない」 『蜜蜂と遠雷』恩田陸 ミステリー、サスペンス調純文学、純文学と並べてみました。いずれも高い評判を呼び

          小説自費出版体験記第13回/書き出し、その2