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【海のはじまり】第10話:こまかすぎる感想

第10話。
今まででいちばん感想を言語化しづらい回だったかもしれません。(とか言って長文書くんですけどね)
11話、12話に向けて、あえて夏の危うさを漂わせた回だったように思います。
感想を二言で言うならば、「…翔平さんっっ!!」「手紙読んでなかった!!」です。

ところで前回第9話の感想に、今まで「海のはじまり」について書いてきた中で一番多くの「スキ」をいただきました。
話が進むにつれて、この作品への関心や想いが世間でも高まっているのだなとしみじみと感じます。
こういうテーマの作品は、賛否両論いろいろな意見を抱かせるものだとは思いますが、多くの人がそうやって観て考えることに意味があると思います。
自分を含め、最終回まで見届けた後、私たち視聴者の心がどんな色になっているのか、楽しみです。

いつも感想を書いた後に、他の方はどう受け止めているのかなと、SNSで皆さんの感想を読んでみたりするのですが、登場人物たちの行動や言葉について、一片だけを切り取って感情的かつ反射的にネガティブな反応をされる方も結構いるものなのだなあと、モヤっとしたりもします。
意見の持ち方は自由だし、価値観なんて人それぞれなので、自分と違う感想を持たれる方を否定する気は全然ないし、むしろ気付かされることも多いです。
ただ、「そんなこと言ってなかったよ?」「そこはちゃんと描かれていたけどな」と思えてしまう感想が、作品を評価する言葉かのように放たれているような光景を目にすると、ちょっと虚しい。
SNSだとそういう声が大きくなりがちで、それを作品をちゃんと観ていない方が拾って負のループが生まれていく状況は、良い作品や好きだと思う作品であればあるほど、シンプルにファンとしては悲しいです。

当事者たちは争う気なんかそもそもなくて丁寧に丁寧に12週かけて対話を重ねようとしているのに、外野が「戦じゃー!」って謎のタイミングでよくわからない方角に向けてばんばん大砲撃ってる、みたいな。
お、落ち着いて!!話を、話を聞いて!!!!みたいな。(例え下手か)
そういう光景を目にすると、なんというか、しょぼん(´・ω・`)って感じです。
「(´・ω・`)」の顔文字なんて相当久しぶりに使いました(笑)

まあそういうのは大体Xで、noteで感想を書かれていたり私にコメントやメッセージを下さる方は全然そんなことなくて、とても丁寧に鑑賞されていて、尊敬します。
やっぱりちゃんと作品を観て作品を愛する人たちと、愛情をベースにした界隈で語り合えたり共有出来るのって、幸せであたたかい世界だなあとほっこりしています。
いつもありがとうございます。
私はこのあたたかい世界で、皆さんと粛々と作品を愛でてゆきたいです(笑)

エンタメとして楽しんでいる中で、たまに取り乱してちょいちょいふざけた感想を挟んだりしてしまったりもするのですが(笑)、基本的には「何を表現しているのだろう」を自分なりに理解したいから読み解きたくてそれを楽しんでいます。
だから、もし作品中に自分では理解や共感の出来ない行動や台詞があったとしても、それを通じてその作品が何を伝えようとしているのか、ということを考えることをしていきたいと思っています。
そうやって自分の視野や感性をアップデートしていけるから、私はドラマが好きです。

作品への激重な愛情をベースに鑑賞しているので、感想が長文すぎるところが問題だなと思っているのですが(笑)
そんな感じで(急にまとめる)、今回も、そしてあと2話も、自分なりの感想を書いていきたいと思っています。
「海のはじまり」への重めな愛情を抱いていらっしゃる皆さんと(笑)、最終回まで一緒にこの作品を愛でていけたらとても嬉しいです。

ではでは、いい加減に本題に入ります!


番組情報

「海のはじまり」公式サイト


第10話 いなくならないで…ずっと一緒にいたい

名前

水季と海、二人暮らしの回想シーン。
海の持ち物に「南雲海」と名前を書きながら、「家族でお揃いに出来るのが名字で、家族からもらうのが名前。」と水季。
結婚した際の姓の問題って色々とありますけれど、「家族でお揃いに出来る」って、単純な変更手続きとしての冷たさがなく、なりたいという意思や愛情が感じられて、とても素敵な言い方だなと思いました。

名前を漢字でノートに書きたいと言う海に、「海」の文字を書いて見せながら、さんずいについて「水っていう意味。あ、ママと一緒。名前もちょっとお揃い。」と笑う水季。
夏と海が初めて出会った時も、「さんずい」って、海ちゃん嬉しそうに答えていましたね。
ママとお揃いだから、嬉しかったし、大切な名前なんだね。
ママからもらった、大事な大事なプレゼントです。

ノートには、「海」と、その下に「水季」という文字。
このノートに書かれる名前が、今回第10話のラストシーンで回収されます。

一方、夏は一人自宅にてシングルママ・パパ向けの支援制度について調べている様子。
テーブルには子育てや読み聞かせに関する本が数冊と、「生活困窮者自立支援制度」と記載された用紙が。
前回第9話で一人で親として海を育てていくという決意をした夏。
海の転校や、金銭的なことなど、愛情や熱意や責任感だけではどうにもならない、現実的な問題と本格的に向き合っていくことになりそうです。

ふと立ち上がり先日弥生が海へと置いていったドリルを手に取る夏、名前欄に「南雲海」と記入しようとして、何かに気付いたような表情。
名字。
海ちゃんの名字をこのまま南雲とするのか、月岡に変えるのか。
今回の軸にひとつ、名字という課題が描かれます。

ところで夏くんの部屋、ずっと気になっていたんですけど、小さいバスケットゴールがあるんですよね。
これで水季とか弥生さんとか大和とかと遊んでたの?とか、ひとりでシュート打つの?とか、勝手に想像してちょっと微笑ましく笑っています。
海ちゃんが来たら海ちゃんもこれで遊べるね。


静かな家

南雲家にて、家計簿を付けている朱音さん。
ページをめくるとそこには海ちゃんが見開きいっぱいに描いた落書きが。
「やだ!見て、ほら。海にやられた」と見せる朱音さんと、「水季の子だねえ」と笑う翔平さん。
水季が小さい頃、お鍋に落書きしてたもんね。
その時もこんな風に笑い合ったんだろうなあ。
あのお鍋を思い出して涙がじわり。
鳩サブレー、塩むすびに続いて、鍋でも泣けるようになるとは。

夏休みが終わって海ちゃんが学校に行っている間、家には朱音さんと翔平さんの二人きり。
レシートやノートをめくる音が響く部屋で、翔平さんが「静かだねえ」とぽつり。
水季が亡くなった後、二人の前にはいつも海ちゃんがいて、最近は夏くんもちょっと暮らしてみたり、なんだかんだで慌ただしくしながら常に漂っていた人の気配に、きっと少し寂しさを紛らわせていたであろう二人。
海ちゃんの学校が始まって、夏との二人暮らしに向けた準備も進んで、良い意味での雑音がなくなってしまうことで、この二人は改めて、水季を失った悲しみと向き合い直してしまう部分がありそうですね。

朱音さんが海ちゃんの迎えに行こうとすると、「行くよ!俺お迎え行く!」と立ち上がる翔平さん。
二人とも、海ちゃんに早く会いたくて仕方ない様子です。
結局一緒にお迎えに行った二人。
海ちゃんを真ん中に挟んで、三人で手を繋いで、学校の廊下を歩きます。


子どもを育てる

夏、職場の上司の藤井と二人で居酒屋にて、自分に娘がいることや恋人と別れたことなどを話します。
きっと夏くんのことだからあんまり上手に説明出来なかったんじゃないかな、とか勝手に思ってしまいますが(笑)、話を聞いてもやたらと驚く様子もなく、淡々とその状況を受け止めた様子の藤井さん、どっしりしてて頼れそうで、適度な距離感を保ちながら、父親の先輩として現実的な意見をくれる存在になりそうです。

「子どもと二人で暮らすって決めたんで、仕事どうするかとか相談したくて」と言う夏に、「失恋の痛手とかないんだ、すご」と藤井さん。
「これからは子どものことだけ考えます」と夏。
弥生さんとの別れを引きずっていないわけないけれど、なぜ別れたのかって、海ちゃんを一番に選ぶため。
夏視点ではきっと、弥生さんにフラれたというより、自分が海を選ぶために弥生さんを選ばなかった、という風に考えていそうなので、そうやって弥生さんを手放してでも向き合おうと決めた海ちゃんに自分のすべてを注ぐんだという覚悟を背負っているのでしょうね。
また、失恋の悲しみとかいろんな感情に溺れてしまわないように、とにかく前に進むんだと、そっちに集中するんだと、二人暮らしや色々な決断を急ごうとしているような印象も抱きます。

奥さんが入院中に少しの間ワンオペで家事育児をしただけでも大変だったという話を夏にする藤井、「覚悟の上です」と夏。
藤井さん、これを話し始める前、「子どものことだけ考えます」と夏が言った後、「でもお前二人って、」と言いかけて、夏の表情を見て、一度ため息をついてから自分の経験談を話すんですよね。
夏の言葉と表情があまりにもまっすぐすぎて、一回言葉を飲み込んだ、みたいな。
きっと藤井さん、夏くんの上司は何年かされているんじゃないかなと思うのですが、夏のまっすぐさというか、頑固さというか、こうって決めたら頑ななところとか、それによって少し視野が狭くなりがちなところとか、でもいつも誠実で、何考えてるかわからないけどこいつなりには何かしら考えてるんだろうな、みたいな、夏くんの取説を結構理解してくれている上司なんだろうなと感じます。
別に夏の言うことは否定しないし、責任感はある子だからちゃんと色々考えているのだろうけれど、それにしてもお前ちょっと大丈夫か?、まあでもこういう時の月岡って何言っても聞かないんだよな、みたいな(笑)
これは結構妄想入ってしまっていますけれど、ひとつついたため息から、「こいつ子育てのこと何もわかってないな」と呆れるような冷たさではなく、大丈夫か月岡、みたいな、藤井さんのそんな先輩心を感じました。

-藤井博斗「ん?待って。仕事どうするって何?転職ってこと?」
-月岡夏「そういう選択も、」
-藤井博斗「ないだろ。慣れない仕事しながら慣れない二人暮らしすんの?普通に転校させろよ。」
-月岡夏「子どもにストレスかけたくないんです。」
-藤井博斗「親がストレスでぼろぼろになったら、子どもに二次災害だよ?収入、減らない保証あんの?自覚とか責任とか、そんなんで子ども育たないよ。」

「海のはじまり」第10話より

ごもっとも・オブ・ごもっともです、藤井先輩。

この会話からすると、今この時点で夏くんが考えている転職は、「海ちゃんを転校させないため」の手段で、海ちゃんが現在通っている小学校に通い続けられる場所で二人暮らしを始めるとしたら転職も視野に入る、ということですよね。
経堂から小田原だと1時間半くらいかかるし、夏の職場からだともっとかかりますもんね。
無理じゃないかもしれないけれど、そんな時間があるなら海と過ごしたいし、生活にあてたいだろうし。

生活も変化する中、海ちゃんになるべくストレスをかけないように、というのが第一優先になっている様子の夏。
収入向上や都合に合う労働環境を求めての転職というよりは、物理的に海ちゃんの生活環境を遠くに移さずに二人で暮らすため、に、自分の仕事や生活を変えようとする夏に藤井さんが言った言葉は、とても現実的なものでした。

さきほどこれを書きながら第10話を見返した時に、夏くんの部屋のテーブルに「生活困窮者~」と書かれた用紙を見つけたので、夏くんも転職をしたら収入が減ってしまうこととか、ちゃんと考えてはいたのかもしれないなと思います。
それでも、子どものためにと考えたのであろう夏くん、彼らしい優しさや向き合い方は感じるけれど、親として夏くんがダメになってしまったらいけないんだということを、伝えてくれた藤井さんでした。
その言葉を受けた時の夏くんの表情は、「盲点だった!」「確かに!」みたいなハっとした感じはなかったように見えて。
きっと頭の中ではそういうことを夏くんも考えていたけれど、とにかく海ちゃんを一番に考えて親として一緒に暮らすんだと、そこに向かって打ち消そうとしていたことを、やっぱりそうですかね…ですよね…、とあらためて考えたような様子に見えました。
「俺だって考えてます!制度とか調べてて、」みたいに言い返さなかったのも、ですよね、と思う部分があったからなのではないかなと思います。
そうやって感情的に歯向かわないという意味では、職場の上司っていうほどよい距離感に、藤井さんみたいな現実的な父親の先輩がいるっていうのは、心強いですね。

しかし、藤井さんの言った「自覚とか責任とかで子どもは育たない」。
これが、あと2話かけて描いていく結論に向けた言葉のようにも感じますね。
最初の何話かでぐるぐると巡っていた、「責任」とか「無責任」とかの話。
そして前回第9話でぐっと色を濃くした父親としての「自覚」。
からの、それだけでは子どもは育たない、という言葉。
責任も自覚も必要だけれど、それだけではどうにもならない現実があるし、背負うって、全部一人でやるってことじゃない。
だから誰かの手を借りたり、何かを分担したり、手放したり、妥協したり、そういうことをしながら、一番大切なものは絶対に見失わないこと、そしてその一番大切なものについてずっと考え続けること、そうやって親をやっていくんだということが、今後描かれていくのかもしれません。

しかし居酒屋に行ってこんなイケ散らかしたお二人がお隣の卓で飲んでたら嬉しすぎる。チラ見しすぎる。一緒に飲みたすぎる。
いやでももし同じ職場で働いていて藤井さんが上司で夏くんが後輩で三人で飲みに行きましょうなんてなったらどうしよう、ときめいちゃって無理かも。(不要すぎる心配)

大人の都合

別日、仕事終わりにスーツで学校まで海のお迎えにやってきた夏と、夏のお迎えに喜ぶ海。
海の希望で水季と暮らしたアパートに向かいながら、川沿いを歩く二人。
「ママもこの辺で靴ひもほどけたの」と楽しそうに進む海。
ママと一緒に歩いた学校や川沿いの道を、夏くんと一緒に歩けるのが嬉しいんだろうな。

転校するのってどう思う?と夏が聞くと、「やだ」と即答する海。
「ママ死んじゃったのに?ママいなくなって、海、いろんなこと変わったのに?まだ海が変えなきゃだめなの?なんで?」と海。
海の顔を見つめていた夏ですが、その言葉を受けて少し遠くに目をやって、「大人の都合でしかないよね。」とぽつり。
やっぱり夏くんの中で、自分の一方的な都合に海ちゃんを巻き込みたくないという思いを打ち消して強引に進めることは出来ないんだろうな。
そしてこの時、自分が幼い頃に同じように思った経験を思い出していたのかもしれません。
あとはやっぱり、いつもニコニコ元気でいい子の海ちゃんが抱いている喪失感や悲しみを、夏なりにちゃんとこれまでじっと見つめてきて、ちゃんと泣かせたり遺灰をそばに置かせたりしてきた夏ですから、シンプルに、海ちゃんのが傷が最小限で済む選択肢があるなら多少自分が犠牲を払ってでもそれを選びたい、という気持ちなんだろうな。
第10話では全体的に、どこか力が入り過ぎて決断を急ぐような夏の姿が危うい感じで漂うように描かれていた感じがしますが、一方で夏なりにちゃんと軸を持って考えているということも、場面場面で丁寧に描かれていたと思います。


他人

一方、月岡家の玄関でゆき子に向かって一礼する弥生。
リアタイした時は、夏と別れた報告で月岡家にやってきて、ゆき子さんとまたお茶でもしながら色々話をした後に帰っていく場面かな、と思っていたのですが、ゆき子さんの手に恐らくゼリーが入った紙袋があるので、弥生さんは家には上がらず、玄関だけで報告をして帰ったのかもしれませんね。

ゆき子さんはじめ、月岡家の存在って、弥生さんにとっては海ちゃんのことがある前から、自分を受け入れてくれる場所として心のよりどころになっていたものだろうし。
海ちゃんのことがあった後も、ゆき子さんがかけ続けてくれた言葉はいつも弥生を尊重して、弥生サイドに立ってくれたもので。
別れた報告をちゃんと自分でしに行くというのがとても弥生さんっぽいですし、玄関からは上がらないというのが、ひとつの線の引き方のようです。

そんな弥生の肩にそっと手を置いて、「楽しく生きなさい。夏と別れたなら、私たちとはもう他人なんだから。気にせず好き勝手して、ちゃんと幸せになんなさい。」とゆき子。
弥生はほんの少しだけ涙を浮かべて、「ありがとうございます」と穏やかに微笑みました。
ここ、結構泣いてしまって涙で画面が見えませんでした。

ゆき子さんが弥生さんの肩に置いた手、前回第9話で夏と別れる際に弥生さんが夏の背中に置いた手と重なりますね。
頑張れ。幸せになるんだよ。しっかりしなさい。応援してるよ。
弥生さんが夏に向けたように、今度はゆき子さんから弥生さんへのエールですね。

「他人」という言葉も、今まで何度もこの物語の中で使われてきた言葉ですが、この「他人」という言葉があたたかくも感じられるシーンでした。
夏と別れても何かあれば月岡家は弥生に味方すると思うし(笑)、全然他人じゃないけど、でも、他人になったんだから、気遣いせず遠慮せず、自分の幸せを優先してね。他人なんだから。他人同士、幸せになろうね。

弥生にとって月岡家は一番身近にあるお手本のようなステップファミリーで、自分がもし海ちゃんの母親になるとして、月岡家のような家族をつくることや、ゆき子のような母親になることが出来るという可能性を見ることが出来る存在だったと思います。
それだけの実例が近くにあっても、「私にも出来る、なるんだ」と頑なな呪いを背負い続けることから解放されて、自分はならないという選択をした弥生さん。
そんな弥生さんからの誠実な感謝の想いと、ゆき子さんからの大きな愛情。
この二人、直接会って話した回数はそう多くないかもしれませんが、確かなつながりを感じられるシーンでした。


ママがいたところ

南雲家にて、水季の写真に「ママおやすみ」とあいさつをしながら、いつもとは違い笑顔ではない海ちゃんと、その様子を見て「どうした?」と声をかける朱音さん。
「夏くんと一緒に住みたい」と言う海に、「うん。今色々準備してくれてるから」と朱音さん。
「でもね、ここにもいたいの。ママがいたところだから。学校もママと一緒にいたところだから。」と海。
「そうだね。そういうことちゃんとわかってもらってから一緒にいてもらおうね。」と朱音さん。

海ちゃんにとって夏くんと暮らしたいというのはきっと本音で。
でも、一緒に暮らせば、学校もこの町も図書館も家も、ママと過ごした場所から離れなければいけないということも理解していて。
そういう大切な場所から離れるのは寂しいし、そこにママを一人ぼっちで置いていってしまうような感覚なのかもしれません。
また、夏くんと暮らしたいという気持ちの中には、そうしないと夏くんに嫌われるかもしれないとか、夏くんがいなくなってしまうかもしれないとか、そういう不安も隠れているように感じます。

海ちゃんはこの物語において、とても賢く愛らしく優等生に描かれてきて、それは、この物語が「子どもに振り回される大人たち」ではなく、「命を前にした大人たちの姿」を描き問う物語だからこそ、ブレないようにそういうキャラクター設定になっているのだと思いますが、残り3話でその描きたいものの結末に向けたラストスパートをかけていくにあたり、この転校したくない問題がひとつ、ほとんど初めての"海ちゃんトラブル"として描かれましたね。
トラブルという言葉は違うか。初めてのわがまま?わがままでもないな。初めての拒否、かな。
この環境変化、ママといた場所を離れる、ママの存在が遠ざかることに対する海ちゃんの反応や次回にも描かれるであろう行動は、その心を想像するだけできゅっと胸が苦しくなりますが、おそらく今回含めた残り3話の中で描かれる海ちゃんのいちばん大きな苦しみがこれだと思うので、ここが最悪だと思って、その後にきっと何かしら救いがあると信じて、耐えて、観ます。

あとこの場面、見返せば見返すほど、翔平さんがとても悲しそうな表情をしていました。
寂しさで言えば朱音さんだって同じで、それでも、海ちゃんを前に親らしく言葉をかけることの出来る朱音さんと、何も言えなくなってしまう翔平さんです。


~金麦CM~

ここで流れた金麦CM特別編、今回もよかったですね。

図書館で仕事を終え、「南雲」から「鈴木」に名札が変わった隣のロッカーを一瞬見て、スーパーでコロッケと金麦を買って帰宅する津野。
本棚から、水季から借りていたミモザのブックカバーがかかった本を一冊取り出したところで、海からの電話が着信。
「もしもし?本読んでたよ。海ちゃんは?ママに借りてた本、読み終わったら海ちゃんに返すね。」と津野。
海の手作りのしおりを挟んだページから、その本の続きを、読んでみる。

「大切な人がいなくなっても、毎日は同じように過ぎていった。読み終えるのが怖かった。返す相手がもういないから。何かが終わっても、ここにあるものを変わらず思えたら、それでいいのかもしれない。」

「海のはじまり」金麦CM 津野晴明

誰かがいなくなった後、何かが終わった後、その先を生きていくその道は、過去と分断されたまったく新しい道ではなくて、過去とつながった道。
いなくなった誰かが確かにいた、終わってしまった何かが確かにあった、その道の続きを生きていくのだから、あったものをなかったものにする必要も、感じる存在に目を背ける必要も、新しく見つけた大切なものを拒絶する必要もない。
今ここにあるものの中には、過去にあったものも、今目の前にあるものも、この先あるかもしれないもの、全部ある。
全部大切にしていい。
本編にも繋がりそうな、そんなメッセージを感じるCMでした。

ミモザの花言葉は、「感謝」「友情」「秘密の恋」だそうです。
津野くんと水季と海ちゃんの関係のぜんぶが、詰まっている気がしますね。

ちなみにこの本、しおりが挟まったページには、「地球の表面の70%は水」「ママと一緒に暮らしていた頃」「お父さんは今どこで何をしているのか知らない」といった文章がありました。
これを読みながら、水季は何を想っていたのでしょうか。


噛みしめる謝罪ゼリー

仕事終わりに、色々話したいことがあってと実家にやってきた夏。
リビングでゼリーを食べていたゆき子さん。
「夏も食べる?弥生ちゃんが謝罪に持って来たいいとこのゼリー。噛みしめてお食べ。」と、夏に禊のゼリーをそっと差し出します。
ゆき子さん、好き。

きっと夏も弥生さんとの別れを含め報告しようと実家にやってきたのだと思いますが、弥生さんがわざわざ来ていたと知り少し驚いた様子でした。
お世話になりましたって手土産を渡す弥生さんも、弥生さんらしいですね。

-月岡夏「一人で育てようと思ってる。」
-月岡ゆき子「一人は無理よ。お母さん知ってる。無理。」
-月岡夏「二人で暮らすから、頼らせてください。」
-月岡ゆき子「はい。わかりました。」

「海のはじまり」第10話より

これからどうするのよとか、別れてどうこうとか、一切聞かず、言わず、たったこれだけの会話で、夏の決断や選択を受け入れていること、背負いすぎる性格への理解、頼りやすくするためのさりげないアシスト、いつでもフォローするよという安心感、そういう色々が全部伝わってくるシーンでした。
ずっと一人で一人でと抱えているように見えた夏もきっと、実際なんでもかんでも一人では無理だと理解はしているんでしょうね。
頼らせてくださいと実家では言えたのはよかったなと思いました。
夏にとって、良好な関係の頼れる家族があるというのは、希望ですね。

頼らせてとは言ったものの、これからの夏くん、南雲家側に気遣ってあんまり積極的に月岡家を頼れなかったり、視野が狭くなると一人で一人でモードになってしまったりするかもしれません。
でもそんな夏くんサイドにゆき子さんや月岡家がいるというこのバックアップ体制は、それがそこにあるというだけで、とても安心出来ます。
やっぱり環境って大きいよなあ。

海ちゃんの名字を変えるタイミングは気を付けなね、とゆき子さん。
「認知しただけじゃ変わらないんでしょ」の一言で、決して積極的に口は出さないけれど、ゆき子さんなりに夏と海のことについて調べたりしてくれているのかなと、優しい気持ちになりました。

名字は変えなくてもいいかなと考えていると話す夏と、親と名字が違うことで面倒なこともあるのではと気にかけるゆき子。
ここで夏自身が、小4で「月岡」の名字になり転校した時に、周りの子に嫌なことを言われたり、大人の判断により当たり前に決まっていた転校に苦労したこと、だからこそ、子どもが全部大人の都合に合わせて変えなきゃいけないのは違うんじゃないかと思っている、という話しをします。
今現在の夏にそのことで親を責める気はまったくないけれど、やっぱり子どもの時にしたそういう経験って、苦い記憶として残るもの。
単純な引っ越しによる転校だけでも、ストレスですもんね。
そういう経験を、自分自身やそばにいた大和がしてきたわけだからこそ、海ちゃんの立場でのその気持ちが、夏には痛いほどわかるんですよね。
同じ想いをさせたくない、させない方法があるならそれを選びたい、というのは、親として、大人として、抱いて当然の感情だと思います。

そんな夏を受け止めつつ、「パパと名字が違うってことで海ちゃんがいやな思いしたら?海ちゃんがどうしたいのか聞きなよ。南雲さんとも、ちゃんと話しな。」とゆき子さん。
何を選んでも誰もひとつも傷つかないということってきっとないし、ゆき子さんが夏の名字や転校のことを決めた時も、色々考えた末での決断だったのでしょう。
どうしたいかを子どもに聞くって、子どもを尊重して選ばせてあげることが出来るという反面、そういう選択や決断を子どもに強いるのはどうなのかという思いにもなります。
でも、子どもに選ばせたとしても、子どもの想いを汲んだり将来を想って親が決断をしたとしても、どちらであっても、いずれどこかでその子が傷つく時は来てしまうかもしれない。
その傷がつかないように未然に防ぎきることは難しいけれど、その時にそばにいてあげること、その傷に寄り添ってあげることは、出来る。
責任って、傷つけない責任だけじゃなくて、そういう傷も全部一緒に背負うということかもしれません。

出来るだけ傷つけたくない。
そんなの大前提だけれど、それでもひとつひとつ、何かを選んだり決断したりしないと、進んで行けなくて。
人の選択とか結果に対して外野は好き放題やいやい言えてしまうけれど、もし自分がいざ本当にこういう場面に立ったら、踏み切れなくなってしまいそう。
それでも考えて踏み出さなければいけないことばかりの現実。
頑張れ夏くん。

お風呂から上がって来た和哉さん。
「よく食べれるね、ゼリー。弥生ちゃんが謝ることなんてないのに。」
夏に「おかえり」も言わずになんとも言えない表情でこれを言う和哉さん、好きです(笑)

部屋から降りてきた大和。
「うわー、兄ちゃんいる。よくうちの敷居を跨げるよね。」と言って、和哉さんと「信じらんないよねえ」と言い、夏を見て大きなため息をつく二人。

固まる夏くん。笑うゆき子さん。
「うちからは変わらず愛されてるから、これからも気にせず、海ちゃんと仲良くしてあげてって。」と通訳してくれたゆき子さんに、「伝えます」と夏。

月岡家のおかげで、大丈夫?大丈夫?となっていた心が一気に和みました。
男たちの愛あるいじり(笑)
このくらい茶化してくれる存在が、今の夏くんにとっては必要だし、ちょっと私にとっても必要でした(笑)
禊のゼリー、噛みしめて、美味しく食べてね。


津野の鬼LINE

図書館にて、海ちゃんの転校について話す津野くんと三島さん。
父親と一緒に暮らすらしいと聞き、「いいの?」と三島さん。
「いいとか悪いとかじゃ。大丈夫ですよ。一応母親候補もいるし。どうなるかわかんないけど。」と津野くん。
ちょうどそこに「ご報告しておきます。弥生さんと別れました。海ちゃんとは二人で暮らす予定です。」と夏から津野へLINE。
ドン引きな表情の津野くん(笑)

夏の元へ、津野から届く地獄の秒速鬼LINE。
「ご報告ありがとうございます。」
「別れる予感はありましたが、いざとなると海ちゃんが心配です。」
「百瀬さんがいるならまぁと思ってましたが」
「一人でどうするんですか?」
「真面目に考えてます?」
「子育てなめてませんか?」
「このまま南雲さんのお宅でお願いしてもいいと思いますけどね、俺は」

津野くん!!(笑)
めっちゃ怒ってる!!!(笑)

無表情ですごい勢いでLINE打ってるのが目に浮かぶ!!!!(笑)

立て続けにブーブー届く地獄の津野LINEと、それを受け止る夏くんの表情。めちゃめちゃ笑いました(笑)

まあ私はちょっと津野が好きすぎて津野フィルターがかかってしまってる部分もあるかもしれないのですが(笑)、一人で~なめてませんかまでのLINEは、半分いじってるっていうか、意図してつっかかってるというか。
いや真面目な怒りではあるんですけど、なんだこいつって思いながら津野くんが感情のまんまにボールを投げつけられるくらい、夏にある意味では心を開いている感じが伝わってきて好きだし、そのボールであいつが傷つこうが俺は知らんみたいな他人感も好きだし(笑)、まああいつなりに考えちゃいるんだけど本当に大丈夫かよみたいな心配感も伝わるし、夏も「津野さん怒ってる~」と思いつつそんなにダメージ受けない程度に交わせちゃう感じがあって、結論このやりとりめっちゃ好きです(笑)

なんか夏くん、これに「すみません」とか返信せず、既読スルー出来ちゃいそうじゃないですか?(笑)
そんな二人が、私は好きだし、こういう風に言ってくれる人がいるってことも、夏くんにとっては視野が凝り固まり過ぎない良い刺激になるだろうし、良いんじゃないかなと思います。もはや津野くん全肯定女です。

最後の「南雲さんのお宅で~」は、津野くんの真っ当な意見でもあり、夏への優しさにも感じます。
散々夏に対して無責任だとか言ってきた津野くんも、海ちゃんのことを一番に考えているっていうのは夏と共通していて。
現実問題として今のお前が全部背負って大丈夫かよ不安だよ、という気持ちもありつつ、一緒に暮らすことだけが責任ではない、海ちゃんのため、二人のためにも、全部一気に変えて背負おうとしなくてもいいんじゃないか、という、夏に選択肢を増やしてあげる優しさな気もします。
実際まだ母親を亡くして3ヶ月ほどですし、いずれ転校するとしても学年が上がるタイミングでとか、卒業したらとか、色々選べるタイミングはあるわけですからね。

まあでも、もしも実際に自分が夏くんのような経緯で親をやっていくことを決めた時に、亡くなった元恋人の両親の実家にいつまでも娘を預けるとか、そこに自分が住むということを、手放しに受け入れたり利用したりすることは躊躇ってしまうかもしれません。
みんないい人だけど、命や暮らしを分担するって簡単にお願いしますって出来ないし、頼りすぎてしまうとじゃあ自分は何なんだろう、果たして親やれてるのかって思ってしまうし、一緒に過ごせる時間も少なくなるしなあ。
実家がもっと遠方だったら選択肢に入らなかったかもしれないけれど、この経堂〜小田原という、絶妙な距離感がまた。
今よりも収入をあげていきたいこの状況で、自分は営業職で専門性のある転職は難しくて、日々その距離を通うとなると、自分がすぐにボロボロになってしまっうのも予測出来るし。
何より、娘が自分に会いたがる時、何かあった時に、その時すぐそばにいてあげられない状況にはしたくない。海ちゃんが経験してきたことや、自分といたいと言ってくれていることを考えればなおさら。
自分の生活や経済状態、健康状態が最低限安定していれば、子どもにいま多少の負荷を一時的にかけたとしてもフォローしていけるかもしれないけれど、自分がダメになってしまったら、共倒れになってしまうもんな…。
かといって自分の実家に預けるのも、南雲家にちょっと気を遣ってしまうし、海ちゃんは人懐っこいとはいえ、他人の家、になってしまうもんね。
今目の前の子どもの悲しみを思うことと、この先の中長期的な道のりを描くこと、簡単に天秤にかけられるものではないからこそ、頼れてしまうかもしれない手を簡単には取れないかもしれないです、私も。
だから夏くんには、もっと周りに頼りなよ背負わなくていいよとは思ってしまうけれど、出来ない・したくない気持ちもわかる。
視聴者みたいに客観視出来てるわけではないし、ハッピーエンドが待っているわけでもないですもんね、実際もしもこれが自分の人生だったら。

とにかく津野くん、うちの夏くんが引き続きお世話になるかと思いますが、今後とも何卒よろしくお願いします。(誰)


絶対に嫌いにならないよ

別日の図書館、津野のもとにやってきた海。
ここでめちゃめちゃ嬉しそうな津野くんが可愛い。
津野くんも、夏くんも、みんな海ちゃんの健やかな幸せを願ってるんだよね。

「夏くんと暮らすんだって?」と津野が聞くと、「夏くんと一緒なのは嬉しい。いろんなこと変わるのやだ。転校やだ。」と海ちゃん。
津野くんにもこうやって会いに来れなくなっちゃうよという海ちゃんに、「それはいやだねえ」と返す津野くん。
転勤が決まって別れ話をするカップルのよう。

-南雲海「夏くんが言った通りにした方がいいの?海のこと嫌いになっちゃう?」
-津野晴明「いやならいやって、言いまくっていいんじゃない?」
-南雲海「夏くん困らない?」
-津野晴明「困らせたらいいよ。」
-南雲海「いいの?」
-津野晴明「いいんだよ、親なんだから。子どものことで困るのが生きがいなんだから、あの人たち。あと、絶対に嫌いにならないよ。それは大丈夫。」

「海のはじまり」第10話より

いい子で、賢くて、気遣いで。
そんな海ちゃんのことをわかっているからこその津野くんの言葉。
海ちゃんなりに色々と考えて迷っているであろうこのタイミングで、そばに津野くんがいてくれて、津野くんがこう言葉をかけてくれて、よかったです。

親子とか、恋人とか、距離が近いゆえに言えない本音とか、気遣いしてしまうことってあって。
他人だからこそ言えることとか、友達だからこそ言えることってあって、海ちゃんにとっては津野くんだったり弥生さんだったり、そういう場所が変わらずにずっとあったらいいなと願ってしまいます。

津野くんはまず一番に海ちゃんのことを考えているはずだから、海ちゃんが夏と暮らしたいのなら、別にそれでいいんですよね。
海ちゃんの前では、夏に対する不安とか苛立ちは見せずに、親なんだから困らせていいんだよ、絶対嫌いにならないよと、夏に対する信頼感を見せつつうまく二人の関係をアシストしてあげる津野くん、大人です。

絶対嫌いにならないよ、は、そう言って海ちゃんを安心させてあげようとする上辺だけ取り繕ったものではなく、夏の海への想いについてはある程度信頼してあげているところも感じられますね。
いろんな親子がいて、家族があって、その中には子どもを愛せない親や、親から愛されない子もいて。
海ちゃんの周りにいる大人たちは、不器用だったり足りないところもあったりもする、もがきっぱなしの大人たちばかりだけれど、でも、みんな海ちゃんのことを愛してるし、海ちゃんの未来を願ってる。
それはきっとずっとぶれないところだと思うし、救いですよね。

その日の夜、自宅で一人、子育てにかかる費用について調べている夏の元へ、南雲家の家電から着信。
出ると、「夏くん。海転校したくない。やだ!」と海ちゃん。
津野くんに教えてもらったこと、いい子になりすぎる必要はないよということを、さっそく実践する海ちゃんです。

夏の家で住むことはいやじゃない、という話から、「弥生ちゃんも一緒に住むの?」と海ちゃん。
「弥生さん、海ちゃんと話したいことあるって。」と夏。
そうでした。そのことも伝えなければなりません。
この件については前回別れた時に弥生さんが自分から海ちゃんに伝えさせてくれと頼んでいたので、夏は弥生さんの意向に沿って、弥生さんと海ちゃんが二人で話を出来る場を設けます。


友達

公園でブランコに乗りながら、お肉屋さんで買ってきたコロッケを並んで食べている弥生と海。
海ちゃんの口を拭いてあげたり、海ちゃんへの愛情は変わらない弥生さんです。
お肉屋さんのコロッケって本当に美味しいよね。

「手作りじゃなきゃ愛情伝わんないなんて、そんなことないんだよね。」

いろいろなものから解放された弥生さん。
以前は張り切って手作りをしたコロッケですが、かたちとかやり方にこだわっていた過去よりもずっと心が楽になって、海ちゃんの前でかぶってしまっていた"お母さん"や"良い大人" "完璧な大人"のフィルターが良い意味で剥がれたような、そんな感じが伝わってくる言い方でした。

そしてまさにコロッケが示すように、愛情って、それを一緒に食べた時間やその記憶に宿るものなんだろうな。
相手のためにかたちを綺麗に整えて色々な準備をして、完璧なものを差し出すために手間暇かける時間も愛だけど、その相手が実感として得られる愛とかその記憶って、やっぱり一緒の時間とか経験なのかなって思うし、自分が後々に記憶しているのも、準備にかけた労力ではなく、食べてくれて笑ってくれた記憶だと思う。
夏と海に置き換えても、環境や条件に多少の歪さがあっても、出来るだけ一緒に過ごすということ、並んで同じものを美味しいねって食べて過ごせる時間が、今もこれからも、とても大切なんだろうな。

一方で海ちゃんは、どこか不安げな表情。
「夏くんも呼ぶ?一緒に食べる?」と聞く海に、「ううん。呼ばない。お別れしたから。お別れしたの。もう恋人じゃないから、海ちゃんと三人で遊んだり、ないかも。」と弥生。

夏とは別れを選択して、母親にはならないと決めて。
そう決めた以上、何も言わずに離れたりせず、海ちゃんにちゃんと話をしようとする、弥生さんの姿勢。
母親にならなかったことだったり、こうやって海ちゃんに直接言うことの内容については、もしかしたら色々と意見は分かれるポイントかもしれませんが、こういう選択をした上でのこの弥生さんの海ちゃんに対する態度には、誠実さというか、海ちゃんを子ども扱いしないでちゃんと向き合っているように私は感じました。
最後の海ちゃんの笑顔も、この二人の間ではひとつ「友達」というかたちにちゃんとなれる、そのことを示しているように受け取りました。

-南雲海「ママにならないの?」
-百瀬弥生「うん。ならない。」
-南雲海「海、夏くんと一緒に住むよ。弥生ちゃん、一緒じゃないの?」
-百瀬弥生「うん。一緒じゃない。」
-南雲海「もう会えないの?」
-百瀬弥生「会えるよ。パパとかママじゃない大人にも、ちゃんと味方っているの。親に縋らなくても生きていけるし、もちろん縋ってもいい。…よくわかんないよね。」
-南雲海「夏くん、嫌いになったの?」
-百瀬弥生「ううん。好き。海ちゃんも好き。一緒に暮らしたり、家族になったり、そういうのがなくなっただけ。」

「海のはじまり」第10話より


弥生さんが自分自身でも反省していたように、母親になる、なれるとの思いで、早い段階からその立場になるつもりで海ちゃんに接してしまったことは、やっぱり少し軽率で、身勝手さもあったと思います。
でもそれは、この展開・結果になった今振り返るから言えることであって、その時その時の弥生さんは必死だったし、本気だったし、だからこその苦悩があり、その末に母親にならないという選択をした。
その選択によって、海ちゃんにまったく傷がつかないとは思いません。
でも海ちゃんにとってきっと弥生さんは今までずっと、「夏くんの恋人の弥生ちゃん」で。
「ママになるかもしれない人」だったし、「ママになってくれたらうれしい人」だったし、夏くんの恋人とかママ候補とかを抜きにしても、弥生ちゃんのこと好きだったと思います。「好きな大人」。

以前、第3話で夏が海に「パパになってほしいってこと?」と聞いた時、海ちゃんは「パパやらなくてもいいけど、パパとママ一人ずつしかいないから、いなくならないで」と言いました。
この時の海ちゃん、形式的なパパになるならない問題はどうでもよくて、夏くんにいてほしいし、いなくならいでほしい、そういうシンプルな気持ちでしたよね。
そう考えると、弥生ちゃんに対して海ちゃんがいちばん怖いのって、弥生ちゃんがいなくなってしまうこと、会えなくなってしまうことで。
ママにはなってくれたらうれしかったし、夏くんと弥生ちゃんがいてくれたらうれしい、選べるならそうしたかったかもしれない。
でも、弥生ちゃんがママにならなくても、いなくならないでくれるのなら、それがいい。
夏くんの時と同じで、それが海ちゃんの気持ちなのかもしれません。

この弥生さんとの会話の中で、「お別れしたから」という言葉にぴくっと敏感に反応した海ちゃんの様子や、「ママにならないの?」「一緒じゃないの?」よりも、「もう会えないの?」が一番寂しそうで怖そうな海ちゃんの様子に、私としてはその解釈がストンと落ちたような気がしました。

海ちゃんにとって、「お別れ=会えなくなる」ということが、きっと一番怖いこと。
水季が亡くなって、死んじゃったとかいるとかいないとかはなんとなくの理解かもしれないけれど、もう会えないということはわかるし、感じるし、寂しい。
ママがいた場所、ママといた場所にお別れするのは、いやだ。
でも、夏くんと暮らさない=お別れ=会えない、になってしまうのもいやだ。
海ちゃんが転校を拒みつつも、夏と暮らしたいという想いを変えないのは、シンプルに夏くんが好きということだけでなく、夏を困らせて嫌われてお別れしてしまうことや会えなくなってしまうことが怖いから、というのもあるように思います。

そんな海ちゃんに対して、「夏くんの恋人」ではなくなったことと、「海ちゃんのママ」にはならないことを伝えた弥生さん。
同時に、会えなくならないことと、海ちゃんのことが好きなままのこと、夏くんのことも好きなままのこと、一緒に暮らしたり家族にはならないけど、友達だよ、会えるよ、好きだよ、そう伝えた弥生さん。
それを聞いて安心したような海ちゃんの笑顔に、今はこれが正解なのかもしれないなと、少し安心しました。

とはいえ色々な解釈はあると思いますが、この物語の中では、この二人は、そういう解釈かな、というのが私の感想です。


俯く海に、「学校にお友達いる?」と弥生。

-百瀬弥生「友達ってね、会いたい時会って、頼りたい時頼ればいいの。どっちかが嫌になったら、縁切ったっていい。わかる?」
-南雲海「仲良くしたい時だけ仲良くすればいいの?」
-百瀬弥生「そう。海ちゃんのママにはなれないけど。友達にはなれる。友達になってくれる?」
-南雲海「うん。」
-百瀬弥生「家族に話しづらいことあったら、友達に話したらいいよ。友達だから会えなくなるわけじゃない。」
-南雲海「うん。」

「海のはじまり」第10話より

弥生が海に、ママにならなかったことや三人で会えないかもしれないことを「ごめんね」と謝らなかったことだったり、これからも友達として関係を持ち続ける意思を示したことって、「海ちゃんのせいじゃないよ」ということを一貫して伝え続けようという意思であり優しさなのかもしれません

今も、そしてきっともっと海ちゃんが大きくなって色々なことを理解出来るようになったらなおさら、夏と弥生の別れの原因は自分なんじゃないかとか、弥生さんを自分の存在のせいでたくさん苦しめたんじゃないかとか、いつか海ちゃんがそう思って自分を責めてしまうような日が来るかもしれません。
確かに、もしも海ちゃんのことがなければ別れない二人だったかもしれないけれど、海ちゃんのことがあった上で、「三人」にならず「ママ」にならず「恋人」でもなくなったのは、海ちゃんのせいではなくて、自分がそれを選んだだけ。
かたちは変わるけれどお別れじゃないし、会いたければ会えるし、会いたくなければ会わなくていい。
嫌いになってないし、好きなまま。だから大丈夫。
もし海ちゃんがこれから不安になってしまうようなことがあった時に、友達という立場で、それをちゃんと伝えてあげること、それが、親以外でそばにいる大人として、味方でいる大人として、すべきことだし、意思でしていきたいこと。
弥生さんのそういう想いが伝わってくるようででした。

最後、夏くんとの二人暮らしが楽しみだけどちょっと不安と話す海ちゃんと、不安だよね~と笑って「何かあったらいつでも相談して。ちゃんと聞くから。」と言った弥生さん。
なんか普通に女子同士の友達って感じで、いい感じでしたよね。

もう決めたんだから、引き返さないんだから、あとはこの後、これからにどうやって関わっていくか。
友達というかたちで関わり続けることを選んだ弥生さんが、海ちゃんと、そして夏くんとも、また新しいかたちで関係性を築いていく未来を見守りたいです。


バイバイ

駅前まで海を迎えにきた夏、弥生に「ありがとう」と伝えます。
夏くんの隣に並んだ海ちゃんは、笑顔。
夏と弥生は「じゃあ」とだけ交わして、海ちゃんは「弥生ちゃんバイバイ」と笑顔で。
改札の方に一人で歩いて行く弥生と、弥生に背を向けて手を繋いで二人で歩いて行く夏と海。
夏と弥生の間には少しのぎこちなさはあったかもしれないけれど、それぞれの方向に歩き出した二人の顔は少しすっきりしていて、海ちゃんは笑顔でしたね。

前回の経堂駅での嗚咽のお別れシーンをまだ引きずっている身としては(笑)、ああこの二人本当に別れちゃったんだなあ…としみじみしてしまいましたが。

仕方ない。いったん進んでいくしかない。この選択を正解にするのは未来の自分たちでしかありませんから、どうにか歩いて、その先に、それぞれの幸せが待っていますようにと願うのみです。


縋る

南雲家にて、海のおもちゃを踏んづけてしまった朱音さん。
翔平さんに話しかけるも、水季の写真をじーっと見てそれに気付かずぼーっとしている翔平さん。
翔平さん!!!翔平さん!!!!!!(涙)

海の迎えに行くと朱音さんが伝えても、あんなに俺が行くってはしゃいでいたあの日とは打って変わって、今日の翔平さんは「うん、行ってらっしゃい」と一言のみ。
海ちゃんが夏と暮らしたいと言ったその時から、海ちゃんがこの家からいなくなる日が近いことを実感し、明らかに寂しそうな様子の翔平さんです。
朱音さんはそんな様子に気付きつつ、あえて言葉はかけません。

朱音さんが海のお迎えに行っている間に、仕事を終えて南雲家にやってきた夏を迎え入れた翔平さん。
営業終わりで直帰出来たために早い時間に来れた夏に対して、「そういうお仕事だと遠くから通うのって難しいよね」と翔平さん。
転職も少し考えていると夏が言うと、「あ、本当?じゃあ、ここに住めるね。四人でここに住めばいいじゃない。この前みたいに一週間過ごしたのがそのままずっとになれば。」と翔平さん。
転職の可能性を聞いた途端に目を輝かせて、思わず立ち上がりながらそんなことを言ってしまい、ちょっと自分に戸惑いながらも想いが溢れてしまう様子の翔平さんです。
一応お伝えしておくと、私はもうこの時点で泣いていました。

甘えてしまうと思うので、と言う夏に、「甘えていいんだよ。海が孫ってことは、月岡くん息子みたいなもんなんだから。」と翔平さん。
自分がしっかりしないと、と言う夏ですが、止まらない翔平さん。

「いいのいいの、水季だってね、全部一人でやってたわけじゃないんだから。孫や子どもに甘えられないで何生きがいにしたらいいの?娘がもう、いないっていうのに。」

涙がこみ上げ、言葉に詰まる翔平さん。
涙が溢れて、嗚咽に変わる私。(邪魔)

ごまかすように笑って、学校が始まり昼間静かになっちゃったからちょっと寂しくてね、と言う翔平さん。
すみませんと謝る夏に、「違う違うごめんね忘れて」と言ったところで、帰ってきた朱音さんと海ちゃん。
まっさきに夏に駆け寄って膝の上に座る海を見て、寂しそうに席を立つ翔平さん。
その様子が気になる夏と朱音さんです。

翔平さん(涙)

水季が亡くなって以来、海の祖父母としてひとつ縋るものがあり、そのおかげでなんとか笑いながら過ごしてこれた二人。
でもその前に、娘を亡くした親である二人。
水季がいなくなった喪失感を、目の前の海が少し埋めてくれたり目を逸らさせてくれてきたところがあったでしょうから、いざ海ちゃんが自分の元を離れていくとなると、海ちゃんだけでなく水季も一緒に失ってしまうような、目を背けてきた分、喪失感を倍になってくらってしまう、みたいな感覚ですよね。

水季が生きていた頃、きっと昔は朱音との折り合いが悪いところもあって、家を出てからそんなに頻繁に帰省することもなかったんじゃないかなと思うし、海を出産してからは本当に最低限しか実家を頼ってこなかったでしょうから、もっとしてあげたかったこと、いてほしかった時間、寂しさも後悔も苦しさも辛さも虚しさも、抱えきれないくらいにたくさんたくさんあるはずで。
海ちゃんを育てることで、水季と生き直すというか、一緒に生きている感覚になるというか、そういう部分もあったんじゃないかなと思います。
海ちゃんはこの二人にとって、水季であり、未来だったんだろうな。

この二人だって、一番に願っているのは海の幸せで。
海が夏との暮らしを望むのなら、まだまだ夏の親としての生活力に不安は拭えないだろうけれど、二人の選択を尊重する姿勢ではずっとあるんですよね。
海が南雲家を出て行ったとしても関係性が断たれるわけではないし。
でもやっぱり、水季という最愛の娘を亡くした今、海の存在が、唯一縋ることの出来る希望だった二人です。

水季が亡くなった後、朱音さんは私たちが観ていた中でも何度か涙を流したり、その感情を吐き出したりぶつける場面があって。
でも翔平さんは、これまではずっと穏やかで、どちらかというとそんな朱音さんを励ましたり寄り添ったりしながら、海ちゃんにも夏にも優しくそこにいてくれた。
でも、あの母子手帳のシーンなんかでも描かれたように、翔平さんって水季とはめちゃめちゃ良好な関係を築いていて、そんな水季が、可愛くてたまらなかった娘がいなくなって、悲しくないわけも平気なわけもないんですよね。
そういえばいつか、海辺の夏と海の姿を車から眺めていた時に、「水季がいてくれたらなあ」と翔平さんが呟いたことがありました。
翔平さんがちゃんとこぼせた感情って、そのくらいで。
朱音さんがなんやかんやで少し乗り越えてきたかな、という頃、今になって、溢れ出してしまった翔平さんの気持ち。
夏に対する攻撃の意図はなかったと思うけれど、どうにも溢れてしまった翔平さんの想いをスルー出来るほど夏くんも鈍感ではないですから、初めて見る翔平さんの様子に戸惑いつつ、夏が翔平さんの気持ちをくらってしまったようなシーンでした。

海ちゃんが手洗いうがいに行った隙に、夏に声をかける朱音さん。
「お父さん、今まで言わなかっただけよ。寂しいに決まってる。だから、しっかりしてよねってこと。いじわる言えば、奪うようなもんなんだから。」
その言葉に、「はい。」とだけ答えた夏でした。

この朱音さんの言葉、お父さんの様子を察して夏に声をかけてあげたのは朱音さんの優しさだったなと思いましたし、「今まで言わなかっただけよ」も、海と二人暮らしするということが沸点になった一時の感情ではなくそもそもずっと水季がいなくなってから翔平さんだって抱いていた喪失感なのよ(だから夏の選択がどうこうと責める意図はないのよ)、みたいなフォローでもある気もしました。
「しっかりしてよね」も、無理やりにでも引き留めたいとか二人暮らし反対だってことじゃない、ただこういう想いも背負って、海をちゃんと、どうかよろしくね、みたいなメッセージにも聞こえます。

でもワードがね、「奪う」という言葉がちょっと、いじわるという前置きはあったとはいえ、ちょっと朱音さんの朱音さんらしさが出てしまっているチクチク言葉でしたね。
病を前に水季という命や人生を奪われた経験のある二人ですから、最愛の娘の娘が自分の手を離れていくということが、奪われたその経験に重なってしまう感覚になるのは、あるかもしれません。
朱音さんのこの台詞の言い方や表情から、以前弥生さんと玄関の前でバチっとした時の朱音さんとか、葬儀場で夏にピリっとした時の朱音さんを、ちらっと思い出しました。
ああ、なんかもう、そんなことも、だいぶ昔のことみたいに感じますね…(遠い目)

あの頃から比べたら夏と朱音&翔平の関係性もだいぶ構築はされてきているので、夏がここで必要以上に朱音さんや翔平さんに怯えたり遠慮したりすることはないと思いますが、やっぱり改めて、娘を失った親の喪失感というものを受け止めてしまうと、ちょっとくらってしまいますね、夏くん。

人の存在って、目の前にいることだけがすべてではないし、例えば亡くなってしまった水季がずっとちゃんといるように、手が届かなくても、いた人が本当の意味でいなくなってしまうことってないし、あった時間が奪われることもない。
離れたりかたちが変わることで、あったかもしれない未来が変わることはあるかもしれないけれど、それって、あったはずの未来が"奪われる"ということではないと私は思います。

例えば目の前に分かれ道があったとして、Aの道を進むということは、Bの道を進まないということ。
Bは"進めたかもしれない道"だけれど、Aの道を意思で選んだのであれば、Bは"選べなかった道"ではなくて、あくまでも"選ばなかった道"だし、Bの道がそこにあったという事実は変わらないし、選ばなかったのだから、奪われたわけではない。
Aを選んだ時点で、未来はもうAにしかなくて、Aを意思で選んだのなら、Bはもう後悔すべき"選べなかった道"でも、何かによって"奪われた道"でもない。
でも、やっぱりどうしても目の前からなくなってしまうとそれが恋しくなるし、出来ることならばその手触りを確かめたくなってしまうもの。
頭と感情の両方がいつだって冷静でいられるわけでもないし、抱えきれなくなってしまうことなんていくつになってもあるし、そのどうしようもなさを抱えながら、選んで進んで、やってみるしかない。
そういう切実さ、苦しさを感じます。
誰も悪くないし、みんな幸せを願ってるだけ。
そのことだけは、忘れずに見守りたいですね。

選択と妥協

自宅にあった夏の荷物をまとめて届けにきた弥生さん。
「silent」の湊斗くんが頭に浮かんだ方いませんか?

夏の家にあった自分の荷物を確認するために家に上がった弥生さん、おじゃましますと入って、テーブルにあった転職関連の本に気付きます。

-百瀬弥生「ん、転職?会社辞めんの?」
-月岡夏「ちょっと考えてて。」
-百瀬弥生「いいの?頑張ってきたのに。」

「海のはじまり」第10話より

ここ、弥生さんの最初の一言が「いいの?頑張ってきたのに」だったの、すごく好きな台詞でした。

ここまでずっと、親になるならない、なれるなれない、という問題に向き合ってきたけれど、一人の人間の人生を考えた時に、仕事を辞めるとか変えるって、子どものためとは言ってもとても大きなこと。
今回の夏のようなケースだけでなく、例えば女性は妊娠や出産を機に仕事を休む期間がどうしても生じたり、それまで築いてきたキャリアの続きを描けなくなってしまうようなこととかもあって。
もちろん男性もです。
男女問わず、ライフイベントや様々な事情で、今まで通りに働くことが出来なくなった時って、それこそ築いてきたものを"奪われる"とか、"断たれる"みたいな感覚になってしまう。
子どものため、二人のため、その一心で転職を視野に入れた夏くんにだって、そういう感情とか感覚がないはずなくて。
28歳なんて、仕事にも慣れて出来ることややれることの範囲が増えて面白くなっていく、これからっていう時期ですしね。
そういう自分の事情に構っていられる状況ではないのだけれど、夏に対する一言目が「頑張ってきたのに?」だったことで、夏くんの人生の変化をあらためて感じて考えさせられるシーンでした。

-月岡夏「子どもの気持ち優先したいし、南雲さんたち離れるの不安みたいだし。」
-百瀬弥生「何かを選ぶって、他の何かを妥協するってことだと思うよ。」
-月岡夏「うん。だから仕事、」
-百瀬弥生「仕事は生活に繋がるよ?これからの生活には海ちゃんがいるんだよ。妥協とか諦めとか、大事なもの優先するためには必要なことだよ。自分だけが犠牲になればいいってことじゃない。」

「海のはじまり」第10話より

何かを選ぼうとする時、選べないものや妥協せざるを得ないものに対する罪悪感や怖さに支配されてしまいがちだけれど、本来そうですよね、何かを選ぶって、大切なものを決めるってことですもんね。

一番に大切なものを決めて、それを選んで、それを守るために、妥協しなければならないことはする。
妥協できることを妥協することで、大切なものをもっと大切に出来るようになる。

誰も傷つけないなんて無理だし、どこかしら何かしら犠牲は生じてしまうかもしれないけれど、全部理想通りの完璧には出来ないかもしれないけれど、でもそれは、一番に大切なものを守るため。それを優先するため。
海の気持ちや朱音さん翔平さんの気持ちを受け止めすぎて自分に言い聞かせるようにしている夏に、一番大事なものってどれだっけ?月岡くんの意思は?と、目を覚まさせてくれるような弥生さんでした。

ここの台詞って、字面だけを見ているとニュアンスひとつで冷たくとかキツい印象になってしまいそうな台詞だけれど、有村架純さんの言い方や表情に凛とした強さと愛があって、とても素敵でした。

はっとしたように夏の方を見て、ごめんおせっかいがまた、と笑って帰ろうとする弥生さん。
この時の夏くんが弥生さんを見ている表情。
なんか全部ストンと落ちた、みたいな。
今いちばん必要な言葉をもらった、みたいな。
藤井さんに言われたこととか今まで考えてきたこととか押し殺そうとしていた気持ちとか、全部まるっとしてごちゃっとしてたけど、曇り空に晴れ間が見えた、みたいな、なんかそういう表情で印象的でした。

やっぱり夏くんにとって弥生さんはこういう時に必要なんだなと実感もしましたね。
だからといって別れなければよかったね、とは思いませんが、なんかこう、「あ~。やっぱ弥生さんだな~。」みたいな。
海外旅行帰りだとお味噌汁が沁みわたる~みたいな(笑)
弥生さんの言葉がじわ~んと夏くんに沁みて、ちょっとズレまくってたピントが合い始める、みたいなシーンだったように思います。


大丈夫だよ

帰ろうと玄関に向かう弥生さん。
座ったままの夏、「自分が背負えばいいってことでも、ないよね。」とぽつり。
きっとこういうこと、夏くんの中ではずっとぐるぐる思ってたんだろうな。
だけど、海ちゃんのこととか南雲家のこととか、いろんなことを思って、そういうことを優先しようとして、自分が背負おうとしていることもわかってて。
でもそれでもって、仕方ないって、息がしづらくなっていた夏くんが、久しぶりに素直にこぼせた言葉だったように思います。

-百瀬弥生「水季さんも言ってたよ。誰も傷つけない選択はないし、でも、自分が犠牲になればいいってことでもないよって。」
-月岡夏「手紙に?」
-百瀬弥生「うん。だから私は二人のこと傷つけたと思うけど、後悔してない。何が引っかかってんの?」
-月岡夏「弥生さんが水季から俺と海ちゃんを奪ったみたいな気持ちになるって言ってたの、あれがわかるようになった。」
-百瀬弥生「南雲さんたちから海ちゃん奪う感じ?」
-月岡夏「それで揺らいで…」
-百瀬弥生「二人で暮らすの諦めんの?」
-月岡夏「やだ。」
-百瀬弥生「やだって、子どもみたいに。」
-月岡夏「海ちゃんがやだやだっていうから。」
-百瀬弥生「大丈夫だよ。誰も悪くないんだから、ちゃんと大丈夫なところに流れ着くよ。」

「海のはじまり」第10話より

弥生さん。好き。ありがとう。

「何が引っかかってんの?」の言い方がとても好き。すごく好き。
夏くんのよき理解者で、お姉さんで、お母さん、みたいな。
それで諦めんの?しっかりしなさいよ、頑張れパパ、みたいな。
当事者を降りて外野にまわった今の弥生さんだからこその身軽さと、それによって取り戻した本来の弥生さんらしさで、ひょいっと夏くんの心を上に向かせてあげたようなシーンでしたね。

夏くんの「やだ」の言い方、ほんと子どもみたいで。
やっぱり弥生さんの前では夏くんは子どもみたいで、弥生さんがお母さんみたいになっちゃうんだよな。
今はいいけど、そういうとこだぞ夏くん。
そこはかとなく失恋ダメージを引きずっていることを隠し切れない私です。

「海ちゃんがやだやだっていうから。」と笑った時の夏くん、ちょっといつもより早口かつ声が低い感じの言い方が、なんかほんとに、何も繕ってない素の夏くんっていう感じがして。
別れたとはいえ、やっぱり弥生さんの前では夏くんは良くも悪くも子どもに戻れるというか、無理しない頑張らない自分を出せて、そういう場所があったことに救われてきた部分も大きかったんだろうな。
別れた以上、夏くんには覚悟もプライドもあるだろうから、弥生さんとは節度ある距離感を保っていくとは思うけれど、意固地になってわざと距離をとってしまう関係じゃなくて、本当に必要な時には話を出来たりする、そんな二人になっていけるといいなって思います。

そして最後の弥生さんの言葉。
「大丈夫だよ。誰も悪くないんだから、ちゃんと大丈夫なところに流れ着くよ。」

これはもう、登場人物全員のこれからに対して全視聴者が願っていることでもあり。
この台詞、この作品に込められた願いの全部がここにあるような、エールみたいな、お守りにしたい台詞で、大好きです。

大丈夫かなんてわからないし、どこに流れ着くかなんて不安だし、ある意味では無責任な言葉かもしれません。
でも、考えたってわからないし、悩んだってやってみるかしかないし、やってみてだめだったらまた迷えばいいんだから、こういう無責任さって、ある程度必要な心持ちですよね。

悩みや迷いは一生尽きないし、正解かどうかなんて、いつかどこかに流れ着いた時に来た道を振り返ることでしか判断出来ない。
波が立って揺れたり天候が変わったり、ころころと変化する海の上では、自分のオールなんて無力でただただ身を預けるしかない時だってあるし、思ってた方向に進めない時もあるけれど、でもそれがイコール無責任ってことじゃない。
責任って、オールをせめて手放さないでいること、いちばん大切なものをちゃんと大切にすること、どこかに辿り着くまで根気強く辛抱すること、そういうことかもしれません。

無力でただ漂ってるだけみたいな、迷い込んでもがいてしまうような時間も、止まってなくて、ちゃんとどこかに向かって流れてる。
なるようになっていくから、いつかどこかに着くから、今全部背負おうとしなくていいし、今全部が決めなくても、今全部出来なくても、大丈夫だよ。
誰も悪くなくて、ただ幸せになるためで、ちゃんと向き合ってるんだから、ちょっとは流れに委ねてみたり周りに頼ってみたりしながら、いちばん大切なものだけちゃんと持てていればいいよ。

この物語のテーマにも通じていくような、とても大切な台詞です。


娘の娘

南雲家にて、朱音さんと翔平さんを前に、何かを伝えた様子の夏。
「うん。いいよ、二人の好きにしたら。」と翔平さん。
「水季に託された大事な孫なの。私たちにとって、あなたが父親だとかいう以前に、娘の娘なの。」と朱音さん。
「はい。」と返事をした夏に、「ちゃんと説明してあげて。」と朱音さん。
その言葉を受けた夏は、「はい。ありがとうございます。」と、静かに、でも強い覚悟を持って言い、海がいる部屋へと歩いて行きます。

このシーン、その後いろいろ考えた上で、海と今の自分の家で二人で暮らすこと、そして海を転校させるということを決めたであろう夏くんが、その意思を二人に伝えたという場面かなと思います。

朱音さんと翔平さん、二人とも、やっぱりどこか寂しさや不安げな様子は隠しきれないけれど、それでも夏の意思を受け止めて、最後にはよろしくと伝えるかのように、託すように、夏に頭を下げた二人でした。

大事な孫。大事な娘の娘。
ちょっと朱音さん節の言い回しなので、「あなたが父親だとかいう以前に」とか、これも言葉だけ拾うとキツいなと受け取る人もいそうな台詞ですが、子どもの、一人の人間の命って、親だけのものではないのだということ、とても大きなものを背負って紡いでいくのだという、その覚悟を強く持ってほしいということ、絶対に海ちゃんを不幸せにしないでねと念押ししたいというような場面だったんじゃないでしょうか。
スーパーポジティブな変換をすると、大事な孫で、娘の娘なの、私たちの娘の娘なの、離れて暮らすからって手放すってことじゃないからね、私たちも当然その命に引き続き関わっていくからね、あんたは一人じゃないんだからね、一人で親になるみたいな顔しないでね、一人で全部背負おうとしないでね、私たちもいるんだから頼ってよね、みたいな愛情にも聞こえますかね。
大切な娘の娘を託す人を前に、嫌味なんて言わないと思うので、これはエールだと受け取りたいです。

少しの無言の後、「そうだ、水季が昨日牛乳こぼしちゃったから…」と立ち上がった翔平さん、自分の言い間違いに気付いて、「水季じゃない。海。海がこぼした。」と訂正します。
少し驚いたけれど、「うん。明日買ってくる。」とだけ返した朱音さん。
やっぱり二人はどうしても海に水季を投影して、海から水季を感じてしまう。
だからこそ、海がこの家を離れるのは、水季がまたいなくなってしまうような感覚でもあるし、夏に託すのは海だけじゃない、水季の意思を託す、水季ごと託す、そういう感覚なんだろうな

そういう意味では、この二人が海を、"水季の娘"というフィルターをどうしてもかけて見てしまうのに対して、夏くんは海ちゃんを海ちゃんとして見つめることが出来てはいるんですよね。
自分の娘ではあるけれど、親としての実感を得ることが出来なかった空白の7年間があって、でもその空白があるからこそ、一人の人間として海ちゃんのことを見て向き合うことが、夏くんは出来るのかもしれません。

どちらがいいとか悪いとかではなくて、立場が変わればまた視点も変わるのは当然で、今回の第10話は、翔平さんと朱音さんが、海ちゃんの祖父母でも夏の義父母でもなく、水季の父親と母親、として絵が描かれた回でした。


一緒にいたい

水季の部屋で宿題をしている海のもとへやってきた夏。
一呼吸おいて気持ちを固めた夏が「お話ししていい?」と声をかけると、「うん」と夏の方を向く海。
夏くん、海ちゃんの目を見て、向き合って、決意を伝えます。

「やっぱり転校してほしいと思ってる」。
そう夏が言うと、「やだって言った」と海。
「うん。どうしても転校したくなければ、今はまだ二人では暮らせない。」と夏。

「海ちゃんに大変な思いさせるから。落ち着いて安心して生活出来る自信が無いと、俺は一緒に暮らしたくない。おばあちゃんから引き離せない。だから、どっちか選んで。転校して一緒に暮らすか、転校しないでこのまま別々に暮らすか。」

海ちゃんが落ち着いて安心して生活が出来ること。
まず今いちばんに守らなければならないものはそれだと、クリアになったのかなと思われる夏くん。
落ち着いて安心した生活、それを実現するために、転職という選択肢はまず無くなったんですね。
その上で、ここを離れて一緒に暮らすか、ここにいるために別々に暮らすか、海ちゃんにとっての今いちばん守りたいものを、海ちゃんに確認する夏くん。

夏くんの説明の下手さとか、言葉の足りなさみたいな、夏くん特有のあれが、子どもと向き合う上で今後乗り越えなければいけない課題になっていきそうだな…なんていう勝手な不安も若干抱きつつ(笑)、それでもここで海ちゃんにちゃんと言葉で説明をしようとした夏くんは、ちゃんと海ちゃんの顔を見ながら、夏くんなりに海ちゃんが理解出来る言葉を選んで、穏やかな口調で丁寧に話をしていたように思います。

子どもに選ばせるというのは、ちょっと子どもにとっては負担が大きいことでもあるけれど、あらためてこの感想を書きながら第10話を観直してみた中では、この1話の中でも夏くんなりの想いの変遷があり考えの深さがあった上でのこの決断でこの行動なのだろうなと、リアタイをした1回目の視聴時よりは理解出来る気がしています。

-南雲海「ずっと?一緒に住んだら、ずっと一緒にいれるの?」
-月岡夏「ずっとは、ないよ。水季と今は離れてるでしょ?ずっとはないんだよ。でも、出来るだけ一緒にいる。水季がいなくなっていろんなことが変わって、それが辛いのはすごくわかる。なんで子どもばっかりって思うのもわかる。俺も思ったことある。でも、だから、出来るだけ一緒にいる。出来るだけ長く、一緒にいれること考えて決めた。一緒にいたいから、転校してほしいんだよ。」
-南雲海「海も夏くんと一緒にいたい。いなくならないでね。ママがいたとこ、連れてってね。」

「海のはじまり」第10話より

ずっと、って、なんだろう。考えさせられる場面でしたね。

ずっと一緒にいようねって、言うのは簡単で。
一緒に暮らして転校させるために、そう言ってしまって安心させることだってやろうと思えば出来てしまうけれど、それはせずに、真正面から伝えた夏くん。
もちろん出来るだけ長く、出来れば"ずっと"、一緒にいたいけれど、夏や海が経験してきたことからしても、そしてこの物語のテーマ的にも、命に対する永遠というものはないというのが根底にあるので、「ずっと」はない、ということを伝えた夏くんです。

でもだから、出来るだけ一緒にいる。一緒にいたい。
第3話で夏が海に言った、「水季の代わりにはなれないけれど一緒にはいれる。そうしたい。」の言葉。
今回色々考えた末に流れ着いたのは、この時と同じ、一緒にいたいという原点にあった気持ちでした。

自分の幼い頃の経験も重ねて、海にとって水季がいないということだったり、名前や環境が変わるということが、どんなに大変なことかはきっと想像出来ている夏くん。
今ももちろんそうだし、転校とかそういうことを乗り越えた先でも、きっと海ちゃんが苦しんだり辛くなってしまう時はあるはずで、そういう時に、そばにいてあげたい、一緒にいてあげたい、一緒にいることしか出来ないけれど、出来るだけ一緒にいることは出来る。

親だから一緒にいなきゃとか、自分がしっかりしなきゃとか、そういう気持ちだけで焦ってしまっていないかなと、1回目の視聴の時には少し思っていたのですが、丁寧に観直してみた今では、夏くんの想い、夏くんが自信をもって貫けるもの、大切にしたいものって、一緒にいるということなんだなと、理解出来た気がします。

おじいちゃんおばあちゃんに頼らずに自分が自分がとか、水季の痕跡を上書きしたいとか、自分のそばに置いて縋りたいとか、そういう気持ちよりもきっと、そばにいたい、一緒にいたい、が、シンプルに今いちばんある気持ちなのかもしれないと思いました。

とはいえちょっと次回予告の断片的な情報だけを見ると、夏くんがきっと実際に二人暮らしを始める中であせあせしてしまってまた視野が狭くなってしまったり、海ちゃんが夏に気を遣ってママへの恋しさを隠すようになったりとかしてしまって、その末に海ちゃんいなくなる事件が起こるのでは、と今から勝手に不安になってしまいますが、この時点での夏くんの気持ち、二人で暮らすということを決めた意思の根っこは、きっとその言葉の通り、「出来るだけ一緒にいる」ため、なんだろうな。

「毎日会えるんでしょ」「じゃあいいよ」と、ぽろぽろと涙をこぼしながらも、転校して夏と一緒に暮らすことを選んだ海ちゃん。
海ちゃんなりに色々なものを天秤にかけて、夏くんと一緒にいることを選んだのだと思います。

夏くんにはいなくならないでほしい。夏くんとお別れしたくない。
その想いの陰には、やっぱりまだどこか、お別れが怖いあまりに、いい子でいなきゃ、言うこと聞かなきゃ、そばにいなきゃ、という気持ちもあるんじゃないかなと想像してしまうと、海ちゃんが心配でなりませんが、あと2話、見守っていきましょう。

ぽろぽろ涙をこぼす海ちゃんはもう涙なしには見れなったです。
その涙を拭ってあげる夏くんの親指がちょっと震えていて、でも優しく頭を撫でで涙を拭ってあげる夏くんの姿は、今この子に辛い決断は強いてしまったとしても、その決断を正解にしてあげるために、そばで、一緒にいる。そんな決意が感じ取れる表情だったと思います。


理由

紙袋一杯のおかずを夏に持たせながら、「これも持ってって、煮物。ごはんとかこういうことはさせて。おせっかいだと思っても我慢して。どうやったって不安なの。」と朱音さん。
嬉しいですと笑う夏くん。
色々あるけどこの二人の関係はやっぱりちゃんと構築されていますよね。

「転校したくないのなんでかわかってる?海、あなたと一緒に暮らしたいけど、同じくらいここにもいたいの。なんでかわかる?」と、夏くんにクイズを出す朱音さん。
友達と離れたくないから?おじいちゃんおばあちゃんといたいから?と、恐る恐る答える夏くん。
その答えを受けて少し笑っただけで、答えは教えてあげない、朱音さん。
ちょっといじわるモード継続中ですね(笑)
答えは自分で考えて見つけなさい、そうやって海とちゃんと向き合っていきなさい、そういう愛のメッセージだと受け止めることとします。

小学校で担任の夏美先生に転校のことを伝えた夏。
残り短い、とのことです。もうすぐにでも引っ越ししてしまうのかな?
廊下を歩きながら、海が転校したくない理由を夏美先生に聞いた夏。

「お友達と仲もいいですし、それが大きいと思いますけど…。あとは、お母さんと一緒にいた場所だからじゃないですかね。一緒に登下校の道を覚えたりとか、面談も何回かしたので、こういうただの廊下とかでも一緒に歩いた記憶が大切なんだと思いますよ。」

その言葉を受けた夏くん。
視線をやった廊下の先に観た、笑顔で手を繋いで歩く水季と海の姿。
夏の表情には、海にとって大切な記憶がある場所を奪ってしまうことに対する覚悟と同時に、どこか寂し気な印象、自分の知らない、知ることの出来ない大切な記憶が海にはあるのだなということをあらためて受け止めたような表情にも見えました。
朱音さんクイズの答えを見つけた夏くんが、次回以降、どう海ちゃんと向き合っていくか、見守りたいです。


友達

同僚との飲み会中、海からかかってきた電話に出る弥生さん。
「友達にちょっと聞いてほしいことがある」と言う海に、笑顔で「聞くよ」と応じる弥生さん。
本当に、普通に、友達の感覚で聞いてあげる弥生さんが素敵だし、弥生ちゃんに話そうって海ちゃんが思えているのも、良いですね。

「本当は転校したくない。でも、することにした。」と伝える海ちゃん。
やっぱり本当はしたくないよね。
でも、夏くんと一緒にいることを選んだ。
もう決めたから夏くんにはこれ以上言えないけれど、お友達の弥生ちゃんには、夏くんに言えないこと話そう。
そんな風に海ちゃんが思ったのかなと思うと、弥生さんというよりどころがひとつ出来たことが、本当によかったなと思います。

「新しい学校で友達出来なかったらどうしよう」と不安げな海ちゃんに、「大丈夫だよ。大丈夫。海ちゃん友達つくるの上手だよ。」と声をかけてあげる弥生さん。
さきほどの夏くんに言った「大丈夫」と重なって、弥生さんの「大丈夫」って、本当に安心感がありすぎる。
大丈夫って思える気がしちゃう。
これまであまりにも色々と背負ってきた弥生さんが、今晴れ晴れとした顔で言う「大丈夫」の、偉大さよ。
夏くんも支えて、海ちゃんも支える、そんな存在ですね。
それがいつか弥生さんの負担になってしまわないか心配だけれど、弥生さんが言っていたように、友達って、どちかがもういいやってなったら縁切ってもいいんだから。
もちろん弥生さんは今の時点でそんな風に海ちゃんと縁を切るなんて考えていないだろうけれど、夏とも海とも、いいやって、無理だって、もしそうなったら、手放せばいい。
だから今は、関わりたいから関わっているだけ。
自分の意思で、自分がしたいからそうしている。
そんな軽やかさと潔さが感じられます。

電話を終えて同僚のもとに戻った際、「電話大丈夫でした?」と聞かれて、「うん。友達。」とだけ答える弥生さん。
どんな説明も別に必要ないもんね。「友達」だから。

女同士、お互いいたいからいるだけ、話したいから話すだけ、そういうある意味で平等な立場になった弥生さんと海ちゃんのつながり、またひとつの新しいかたちに、希望ももらえるシーンだったと思います。

しかし海ちゃん、夏くんのおうちに引っ越したら、固定電話が恐らくないだろうから、今みたいにこうやって海ちゃんが夏くんの許可なく話したい人に話せるような状況がなくなってしまいそうな気がしますね。
海ちゃんにとっては、ある意味で夏くんしかいないという状況になってしまった時に、何か爆発してしまわないか、心配です。


手紙

夏のアパートにやってきた海。
引っ越してくるまでに片付けるねと言いながら、「ちょっと物多すぎるな」と呟く夏くん。
ずっと思ってたけど、あなたの部屋、物多いよね(笑)
色々片付けてる間に水季の思い出の品とか出てきそう。
なんかそういうの、夏くん、捨てなさそう(笑)

「夏くんへ」と書かれた水色の封筒を見つけて、「ママの字!」と嬉しそうに言う海ちゃん。
読んでいい?と聞く海に、「俺もまだ読んでないから、今度一緒に読もう。」と夏。

…え?
…はい?

読んでないんかーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!

もう!もう!(笑)
私は確実に読んでいるはずだと決めつけきっていたので、読んでいないというまさかの展開に、ずっこけました(笑)

いや、第8話のラストシーンでね、部屋でこの封筒を手に神妙な面持ちの夏くんがいたもんですから、私はてっきりそこで既にこの手紙を読んでいると思ったのですよ。
で、あらためてそのシーンを観直してみたのですが、確かに、「今は読まない、読むべきではない」みたいな、そんな決意の表情にも見えるーーーー!!!!(爆笑)

いやー。やられました!(褒めてる)

この手紙、確かに「親になるって決めたら渡して」と朱音さんに水季が託したものなので、親になるかどうか迷っている段階の夏くんへ、ではなく、親になるって決めた後の夏くんが読む手紙。
なので、まあ確かに、親になると決めた後に、もし何か迷うことがあった時のために水季が残してくれた言葉なのかな、と夏が受け取っていたとしたら、この後に続いた「海ちゃんとの生活は、一人で頑張りたいから。それまで、水季の言葉には頼らない。」と言った夏についても、まあ理解できるか。理解できるか?理解できるか。しよう。

第8話の時点では、弥生さんとの関係についても考えて答えを出さなければいけない状況でしたから、水季の言葉よりもまず先に、弥生さんと向き合おう、という気持ちももしかしたらあったのかもしれませんね。

でも気になるじゃん!!読みなよ!!!!!(笑)

夏くんも読むの怖いのかな?
手紙の内容が明かされるのは、最終話でしょうか。
夏くんが期待している通り、いつか夏くんが水季の言葉に縋りたくなる時が来てしまったその時に、どうか夏くんを包み込んで前を向かせてくれるような言葉が、そこに綴られていることを願います。


お揃い

「ママの字見て!」と、昔水季と一緒に名前を書いたノートを夏に見せる海。
大きく「海」と、その下に「水季」という文字。
第10話冒頭シーンでの、あのページです。

それを見て、名字について海に相談する夏。
「月岡」と、ふりがなを振ってノートに書いて見せる夏。

「今まで通り水季と同じ南雲でもいいし、月岡に変えてもいいんだけど。」と夏が言うと、「わかった。月岡になる。」と、笑顔であっさり答える海ちゃん。

-月岡夏「おばあちゃんたちと違くなるよ?」
-南雲海「おばあちゃんたちはママと一緒だから大丈夫。」
-月岡夏「海ちゃんは水季と一緒じゃなくなっていいの?」
-南雲海「名前がママと一緒だから大丈夫。」
-月岡夏「ママは"水季"だけど。」
-南雲海「(ノートに「海」と書いて) 見て。」
-月岡夏「うん。海。」
-南雲海「さんずい。ママとちょっとお揃いなんだって。(「水季」と書く)」
-月岡夏「ああ。そっか。そうだね。」
-南雲海「名字は家族でお揃いが出来るんだって。だから海、夏くんと一緒のがいい。」
-月岡夏「うん。わかった。」

「海のはじまり」第10話より

海に頼まれて「水季」という文字をノートに書いてあげる夏。
「季」という漢字の意味を聞く海に、夏が「季節って意味」と答えると、「夏!」と笑う海。
「うん。そう。俺も、すごいちょっとだけど、お揃い。」と笑う夏。

ーーーーーー
月岡 海
        水季
        夏
ーーーーーー

冒頭では、「海」と「水季」とだけ書いてあったノート。
「月岡」の名字の元に、「海」「水季」「夏」の三人の名前が今日、並びました。
水季が「海」という名前に込めた想いが、巡り巡って、今ここに文字になって並んで、繋がる。
「大丈夫なところに流れ着いた」のだと、信じたいですね。

子どもの名字を変えてしまうことについて、水季と違う名字になってしまうことの寂しさとか、自分と名字が違うことで強いるかもしれない苦労とか、変化を受け入れなければならない辛さとか、色々なことをぐるぐる迷って考えていただろう夏くん。
今回も海ちゃんにその意思を確認しましたが、ここで海ちゃんが示した答えは、本当にシンプルで。
おじいちゃんとおばあちゃんは、ママとお揃いだから大丈夫。
自分は名前がママとお揃いだから、大丈夫。
名字は夏くんとお揃いにしたい。

何かを選ぶって、何かを選ばないっていうことだし、誰も傷つけないことなんてない。
そうやってそれぞれの大人たちが、苦しんだり泣いたり傷ついたりしながらここまでやってきたけれど、こんな風に、みんなが幸せでみんなが笑顔になれる選択も、あるのかもしれない。
そういう希望を、海ちゃんという幼い子どもの、子どもならではのまっすぐさと純粋さが示してくれたような、そんなシーンだったと思います。

変わってしまうことによって苦労することも絶対あるけれど、受け止め方ひとつで見え方が変わることもある。
「お揃い」という、可愛らしい言葉によって、なんだかとてもハッピーな気持ちで終わることの出来た第10話でした。



からの!次回予告がちょっと結構不穏な感じでしたね。
海ちゃん行方不明事件やら、津野くん激おこ事件など勃発しそうでハラハラドキドキですが、泣いても笑ってもあと2話です。
水季に頼らない、という夏くんの決意のプライドが、自分の首を絞める展開にならないといいな。
夏くんがまたもし一人で一人でという呪いにかかってしまって視野が狭まってしまったとしても、周りには、月岡家だったり、南雲家だったり、弥生さん、津野くん、藤井さんだってそう、頼れる人たち、頼ってさえくれればサポートしますよって準備万端な人たちがちゃんといるから、そういう人たちに上手く頼りながら、もがきながら、なんとか生活をしていってほしいと心から願います。

あと2週間しかこうやって楽しみに次の展開を待てないのかと思うと寂しいなあ。
夏が終わってしまう。
楽しい夏だった。もう悲しい。

撮影ももう少しでしょうか。
本当に連日の猛暑の中の撮影お疲れさまですと心から伝えたいです。
あと2話。楽しみです。

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