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マザーテレサと53ルピー

体調が、信じられないくらいに、悪い。
測定しなくてもわかるほどの高熱、外気温32度で長袖1枚を着ていても寒いと感じる悪寒。無限にティッシュを求め続ける鼻。

インドのコルカタでひとり、史上最悪に近い(めったに風邪を引かないから、記憶がない)風邪を引いた。

回らない頭で行き着いた場所

2日間ベッドで横になっていたが、良くなる兆しは全くない。
今日はホテルのチェックアウト。無理矢理にでも動かなければいけない。

早めに荷物を詰め終わると、ベッドへ寝転ぶ。まったく動きたくなかった。
携帯のアプリで近くの病院を調べる。

フライトまでは12時間以上あったけど、一刻も早く空港に行ってじっとしていたかった。

荷物をホテルに預け、近くの薬局へと歩いた。
おでこに手を当てながら、「フィーバー」と伝える。すると、何日分?と聞かれる。
値段を聞くと、1日分2錠で8ルピー。約13円。激安。
激安すぎて、80ルピーの聞き間違いかと思ったが、本当に8ルピーだった。

2日分16ルピーの薬と、2リットル 20ルピーの水を道端で買い、ホテルへとぼとぼ歩いた。

ホテルへの道を歩きながら、考える。
病院が開くまではあと1時間。空港に行ったとしても、十分に時間がありすぎるし、そこから病院へ行くとしても、大きい荷物を持ち歩かなければいけなくなる…。
次の行動を決められないまま、ホテルの目の前の交差点に着いた。

“このまま戻るのは、なんか違う。“

そう思い、くるっと反転、来た道をまた戻った。
覚えていたのだ。同じ道をもう少し歩けば、マザーハウスの家があることを。

理想と現実

入り口には、写真で見たことのある青と白の服を来たシスターが2人座っていた。
軽く会釈をして、中に進む。

中には、マザーテレサのお墓や、功績をまとめた展示室、そして実際に暮らしていた部屋が残っていた。

お墓のある部屋はとても静かで、少しひんやりしてた空気。観光客のような女性2人は、墓石に触れ、おでこを付け、祈りを捧げていた。

展示室を見て回り、部屋を見る。マザーテレサは冷房を付けなかったんだとか。そんな注意書きを傍目に見る。

きっと愛にあふれた人だったんだろう。私には、だれも彼もを助けるなんてできないや。冷房だって付けたい。冷静に、そう思った。

なにもできないことを知る

大きな感動ができない自分に気付いて、さっと施設を出た。とぼとぼ歩いていると、路上で生活する女性と子供2人。袋に入った少しのカレーを3人で分けている。
その横を通り過ぎる、先程熱心に祈りを捧げていた観光客。

あんなに熱心な人らでも通り過ぎるのだ。私なんて、もっとマザーテレサにはなれない。
さっと横を通り過ぎた。

だけど、子供の姿が浮かぶ。
甥っ子と同じくらいの年齢だろうか?きちんとご飯は食べられているんだろうか...。

マザーハウスもあるのに、施設にシスターがいるのに、きっとたくさんの観光客もいるのに。
助けてもらえる人と、助けてもらえない人。そこにも大きな隔たりがあるのだ。

財布の中を見ると、353ルピー。
目の前の交差点を渡れば、ホテルに戻れる。

体調のせいでボランティアもしていない。マザーテレサに酔心してるわけでもない。

小銭の53ルピーを握りしめて、道を引き返した。

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