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読書日記:井上真偽『恋と禁忌の述語論理』『その可能性はすでに考えた』『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』

今流行の井上真偽の初期三作品を読了。
メフィスト賞受賞デビュー作の『恋と禁忌の述語論理』
二作目にて本格ミステリ大賞候補の『その可能性はすでに考えた』
昨年に続き本格ミステリ大賞候補かつ2016本ミス1位の『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』

全作品を通して、極端なまでの論理パズル志向を感じた。明らかに本格ミステリ界隈へ投げかけた作品群で、純粋な小説としての魅力には乏しい。その代わり、前代未聞の興味深い趣向と隙のないロジックが素晴らしかった。これぞ現代の本格ミステリ。進化系という言葉にふさわしい作品だ。

『恋と禁忌の述語論理(プレディケット)』では、既に解決した謎を数理論理学の手法を用いて検証する。初っ端から小説では見かけない記号が出てきて面食らうが、理解できなくても全く問題ない。
この作品はあくまで「数理論理学の手法で推理を観察する」という趣向を楽しむべき作品。惜しいのは、謎やトリック自体が魅力的ではないことと、数理論理学自体がクリティカルな要素ではないこと。
しかしながら、個人の感覚や思い付きに依らない手法を導入することで名探偵の持つ不確実性を解決しているのが興味深い。後期クイーン問題への一種のアンサーだろうか。
メフィスト賞らしい奇抜な一作。最近のメフィスト賞は何やら一般ウケを狙ってるように見られるが、こういう技巧に満ちた小説をもっと出してほしい。

『その可能性はすでに考えた』『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』は、多重解決に限界まで挑戦した作品。同じ趣向のため両方のレビューを載せる。
「探偵が『奇蹟が起きた』ことを証明するために、あらゆる推理を片っ端から否定していく」というテーマがそもそも面白い。二作とも謎は十分魅力的であり、B級アクション映画のような展開も、ダレずに読めるので逆に丁度良かった。多重解決は説明過多になりがちなので、これぐらい振り切ってくれた方がかえって良いのかも知れない。
探偵側が非常に不利なのも特徴的。普通探偵は筋の通った推理を述べるのだが、今回推理を述べる敵達は明らかにあり得なさそうな(でも物理的に可能な)推理を次々と繰り出してくるのだ。これらをすべて論理的に否定しなければいけないのだから、探偵も楽じゃない。

井上真偽はこれの他に『アリアドネの糸』も読んでいるので、そちらも機会があったら。
他の作品にも手を出したいが、本格ミステリからは一旦離れているのだろうか、好みっぽい設定のものがあまり見当たらない。とりあえず『探偵が早すぎる』を読んでみようと思う。

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