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読書日記:方丈貴恵『時空旅行者の砂時計』『孤島の来訪者』『名探偵に甘美なる死を』

竜泉家の一族シリーズをすべて読了。
鮎川哲也賞受賞の『時空旅行者の砂時計』
受賞第二作の『孤島の来訪者』
2023年度の本格ミステリ大賞候補作『名探偵に甘美なる死を』

特殊設定ミステリのシリーズ。典型的なクローズドサークルにSFの要素を追加し、その要素を活かしきった怒涛の論理展開が特徴。本格ミステリ最先端を担う三作品だと言える。

『時空旅行者の砂時計』では、古き良きクローズドサークル(山奥の屋敷に住まう謎の一家)の舞台にタイムトラベルの要素を導入している。端正な謎解きとタイムトラベルを活かしたトリックが素晴らしい。この時点では特殊設定をフル活用しているわけではない(乱用は美しくないと本文中でも言及がある)が、ここぞという時に効果的な使い方をしていて十分面白い。

『孤島の来訪者』では、人ならざるモノを導入している。ミステリにおいてあまり見たことのない設定を存分に活かしきっており、前作以上の完成度を誇る。状況把握が肝となるため少々難しい部分もあるが、わかりやすい図表が入っているため理解に支障はない。終盤に待ち受ける伏線回収と意外な結末も見事。

『名探偵に甘美なる死を』では、VRの技術を導入。案外多く出ているVRミステリの中でも異様の完成度を誇る超名作。設定を活かしきった密室トリックがとんでもなく素晴らしい。素人探偵達の多重解決シーンも魅力的で、捨てトリックも面白く仕上がっている。本格ミステリ大賞の投票であの有名な『方舟』を上回る得票数だったのも納得だ。ただし、かなり設定を詰め込んでいるため、ロジックが少々難解で混乱する可能性もあるが、謎の解明のいくつかを中盤で済ましてしまうことである程度フォローされている。

気になっていた作品群だったのだが手を出しておらず、文庫化の発売に合わせて読んだ。非常に面白かったので、未読のくせに本格オタクのような顔をしていた自分が情けない。

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