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シェフのオリジナル商品開発の考え方

ナショナルデパート秀島です。

最近はPostFoods!というサービスをやっています。

ここで参加シェフの募集をしているのですが、商品開発についてのご相談を多くいただくので、最初の一歩についてちょっと書こうと思います。

と、その前に、

勘違いをされている方も多いと思うので、最初に商品開発における大前提を書いておきますね。

それは、

思いつきやアイデアだけではオリジナル商品を開発できない

ということです。

単なる思いつきで「こうしたら売れるだろう」「こうすればいいんじゃないか」というのは、ほぼ結実しません。

思いつきから生まれたヒット商品もあるじゃないか、じゃあどうしたらいいんだよ、と言われるかも知れません。

確かに、思いつきから生まれたヒット商品は存在します。

でもその思いつきを確実に商品化して売れるまで育て上げるには、単なる思いつきだけでは具体化しません。

テレビなどで紹介されるヒット商品で、偶然生まれたとかいうのよく見かけますが、あれは嘘です。

何もしていないのに偶然オリジナル商品ができて、それがヒットするなんてありえません。

では、オリジナルとは何なのか。


オリジナルとは、必然によって生み出された偶然の産物


オリジナル商品はいつも偶然生まれます。

しかし、その偶然を引き起こすのは確固たる必然の組み合わせなのです。

オリジナル商品を生み出すには3つの要素が必要になります。

技術・発想・イメージ

です。

詳しく書くと、

オリジナルを生み出す工程とは、

「イメージ」したものをカタチにするため

「発想」によって問題を解決し

「技術」(経験)によって具現化する

作業です。

オリジナルとは、必然によって生み出された偶然の産物なのです。

オリジナル商品とは、すでにある経験や発想を駆使してイメージを具現化する作業です。

まずはイメージありきなのです。

そうです、

オリジナル商品を生み出すためには、まず最初にどういうものが作りたいかという強力なイメージが必要なのです。

イメージ無き商品開発なんて、この世に無いのです。


イメージは設計図であり、完成まで導いてくれる地図


商品開発におけるイメージとは、まだ誰も見たことのない商品を頭の中で強く思い浮かべることです。

このイメージが貧しければ、貧しい商品しか作れないし、イメージがあやふやだといつまでたっても完成しません。

いくら頭の中で最高のイメージが浮かんでいても、それを具現化するための経験や技術が乏しくては、良いオリジナル商品は作れません。

よく、オリジナリティーという言葉を聞きますよね、それは単に目新しさや珍しさを指す言葉だと思われていますみたいです。

目新しいもの、珍しいも、それはオリジナルではなく単なる「珍品」です。

オリジナリティーとは何か、わかりやすく書くとこうなります。

(技術)×(発想)×(イメージ)= オリジナリティー

オリジナリティーというのはこんな感じで考えてください。

ずば抜けたイメージが浮かんでも、相応の技術がなければカタチには出来ませんし、技術があっても卓越した発想力がなければ問題を解決できません。

しかし、まずはイメージを強く持つこと。

これがオリジナル商品開発のスタートラインだと思ってください。


かんたんオリジナル商品開発の肝はフォーマット選び


ここまでオリジナル商品の考え方とかフローの最初について書いてきましたが、ここであなたの心を挫く言葉を贈りたいと思います。;

オリジナル商品なんて無意味です。

現実に売れるのは「ありきたりのもの」です。

おいおい、今さら何を言ってんの?馬鹿じゃないの?

でもね、

必死で考えて、寝ないで試作して、やっと出来たオリジナル商品よりも、ごくごく普通のお手頃価格の定番商品のほうが売れるのが世の中です。

最近、僕もこんな吐露をしていますね。

技術・発想・イメージなんて、OEMに丸投げしても、コンサルに丸投げしても作れちゃう時代なんすよね。それが時代…。抗うことは出来ない。

なんですけど、どうしても自らの頭で手で自分だけのオリジナルを生み出したい!でも経験がない!どうすりゃいいか教えろこの野郎!という方におすすめの方法。

それは、

フォーマットを選んで商品開発を始める。

この場合のフォーマットというのは商品カテゴリーや食材ですね。

クッキーやラングドシャとかのカテゴリー、チョコレートやフルーツのような食材、どこかにフォーカスしてフォーマットに選定して、それを土台として商品開発を始めるというやり方です。

フォーマットはありきたりのもので構いません。

その「ありきたりのもの」をいかにオリジナルに仕立てていくか、それが商品開発のコアになります。


オリジナル商品開発「10の方法」


さて、いよいよ具体的なオリジナル商品開発の具体例について書いていきます。


以下の10パターンをご紹介します。

〜参加シェフの具体例〜
1.究極のブラッシュアップ(総合)
2.独自の技術力を活かす(技術)
3.これまでの経験を活かす(経験)
4.よくあるものを改良する(発想)
〜今熱い傾向、よくあるパターン〜
5.日本未登場の海外レシピを紹介する
6.海外レシピを日本人向けにアレンジ
7.既存の人気商品をリパッケージする
8.形状・色・フレーバーを変える
9.既存レシピの名前を詐称してオリジナルを主張
10.流行りものをまんまパクる(劣化コピー)



1.究極のブラッシュアップ(総合)

これはPostFoods!にも参加いただいている超有名店「Zopf」の伊原シェフのオリジナル商品の開発方法ですね。

伊原シェフが出品してくださったのは、パンデピスとフルヒテブロート。

この二品、言ってみればよくある商品なんです。昔からある伝統的なレシピで、とくに珍しいというものでもありません。

ではなぜこれがオリジナル商品と言えるのか。

伊原シェフの大切にしている

「当り前に美味しいものを追求する」

ということの具現化にあります。

ポスト投函サイズにした時にどうしたら美味しくなるのか

やってみたら今までにない感じに仕上がった

これをどうやってブラッシュアップすれば通常のパンデピスよりも特異性を持たせられるか

薄く焼いたときのライ麦パンの弾力はどうか

pHはこれでいいのか…

そういった細かなブラッシュアップの積み重ねで、究極の「当り前に美味しい」が生み出されるわけです。

じつはこれ、めちゃくちゃ難しいんです。

シェフのみなさんなら分かると思います。

とくにこのパンデピス、火入れがハンパない。

こんなにきれいに火を入れられるのか!と思わされます。

この火入れだけでもオリジナルと言っていいです。

ツオップパンデピス調理

伊原シェフはご自身の経験、年数、実績ともに日本のトップクラス。

そのトップのシェフが当り前の美味しさを追求する。

ようは完璧なのです。

ふつうに美味しいものを状況や仕様に応じて完璧に作り上げる。

これはそう簡単には出来ない。

なので、伊原シェフのパンデピスとフルヒテブロートはオリジナル足り得るのです。


2.独自の技術力を活かす(技術)

続いては横浜の超人気ベーカリー「ブラフベーカリー」の栄徳シェフ。

まずは栄徳シェフのセンス、美意識ですね。

これは強烈な個性になります。

スマホ型のパネットーネ。

この時点で新しいのですが、ポスト投函という仕様に対応するための生地作りに費やした試作の時間も膨大です。

薄く焼いても柔らかくふわふわに仕上げる。

簡単に思えるでしょ、これもめちゃくちゃ難しい。

パネットーネはいわゆる「発酵菓子」。メレンゲやベーキングパウダーでふくらませる一般的なお菓子とは違って、イタリアのコモ湖周辺で採取される「パネットーネマザー」という酵母種の発酵によって膨らませています。簡単に言うとパンの一種ですね。

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これを薄く均一に膨らませて、しかも火入れを優しくオーバーさせないように焼き上げるの、相当な技術が必要です。

薄く焼くと生地量もすくなくなるので具材の片寄りもあるし、なにより生地の浮きが均一にならない。いわゆる「落ちちゃう」「浮かない」が発生するわけです。

そこで栄徳シェフは小麦中のタンパク質の酵素分解をコントロールすることでこれを解決しました。

しっとりしなやかな生地にするにはある程度タンパク質を分解しないといけない。でも、バターリッチな生地のグルテン層を維持しながら膨張させるには、酵素による分解はある程度で止めないといけない。

この絶妙なバランスで作り上げられたのが栄徳シェフのパネットーネです。

奇をてらわず、変なアレンジもしない。

ド直球ながらも、ポスト投函のために薄く焼くという求められた条件内で最高の逸品を仕上げる。

スマホ型の現代的なフォルムで薄く焼き上げるパネットーネという、強く思い浮かべたイメージをおいしく作る。そのために、栄徳シェフのもつ強力な技術を発揮する。

これだけで完全無欠のオリジナル商品です。


3.これまでの経験を活かす(経験)

祐天寺で絶大な人気を誇るジェラテリアアクオリーナの茂垣シェフ。

茂垣シェフはベーカリーではなくジェラート職人。

ここにオリジナル商品たる理由のひとつが隠されています。

ジェラートは焼き菓子のように加熱しない。

この加熱しないジェラートをつくる茂垣シェフが、オーブンで焼き上げるお菓子を作る。これだけでもワクワクします。

焼くという考え方は、ベーカリーシェフの考え方とは全く違うと思います。それは食べると一目瞭然。

ベーカリーシェフだと、まず生地をどう美味しくするか、それを引き立てる要素としてナッツやフルーツがありますね。

ジェラートの場合、ナッツやフルーツそのものが味の根幹になります。

まずベーカリーシェフとは焼き菓子を焼くときの素材に対する考え方が違う。

火入れの具合も焼き菓子と言うよりも焼くジェラート。

素材の持ち味を活かす思想も個性の重要なファクターです。

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じつは茂垣シェフは三回もイタリアに渡って仕事をしてきた経験があります。「料理」のシェフとしての修行経験もあります。イタリアに友人も多い。

このイタリアとの絆で築いた生産者との関係がひとつのオリジナリティーの要素となっています。

イタリアの生産者にも繋がりが強く、新鮮なナッツを直接買い付けることができる。イタリアの生産者から顔の見えるヘーゼルナッツやピスタチオを仕入れられるなんて、なかなかできない。

この、茂垣シェフの料理シェフとしての経験、ジェラート職人としての現在、そして修行中にイタリアで築いた人間関係。

オリジナリティーがパツンパツンに詰まっています。

人生の個性をお菓子に込める。

絆のあるイタリアの生産者から直接買い付けるナッツを、ジェラート職人が焼き菓子に仕立てる。

もうこれ、完全オリジナルです。


4.よくあるものを改良する(発想・イメージ)

これは拙作であるカノーブル初のお菓子トフィーナ。

僕は他の先輩シェフと違って修行の経験がゼロ。

その大きな差を埋めるために他の経験や技術を駆使して商品開発をしています。

トフィーナは、まあ名前は勝手につけたオリジナルですが、クッキーにトフィーを重ねてナッツをのせるなんて、よくあるお菓子です。チョコレートを塗ったものなんかもアメリカでは一般的なカロリー補給法です。

で、僕は商品開発のテーマとして「クッキーと一緒に噛み切れるトフィー」というイメージを思い描きました。

また、バター専門ブランドをやっていますから、バターの風味が感じられるものという要素も必要です。

クッキー生地とトフィーの脆性(ぜいせい・もろさの意)を近づけるために、設定を細かく刻んで試作。トフィーの試作回数は数十回に及びます。

クッキー生地は覚えたてのPythonで書いたプログラムでシミュレーションしています。実際には差異をつけた5種類の生地を焼いて、その間をシミュレーションしてイメージに近い生地配合を探るという感じで作りました。

修行経験のない僕は習得した技術をもっていないので、もともとのスキルである3Dモデリングや3Dプリント技術、シリコンモールド成形などなど、負荷要素でオリジナリティーを高めています。

もともとのパン屋の技術、お土産菓子の技術、バター専門ブランドのバターの知識を活かし、Pythonを駆使してシミュレーションし、3D技術で製造器具を内製して、デザイナーとしてパッケージを作る。

こういうオリジナルの考え方もあります。

発想というのは「思いつき」とは違います。

イメージを具現化するための問題解決のソリューションです。

ななめ


さて、

ここから以下は簡単に説明していきますね。

以下、今熱いオリジナル商品開発の傾向です。


5.日本未登場の海外レシピを紹介する

これはSNS料理研究家、フードスタイリストな人がよくやる手口です。日本人はみんな知らないわけですから、どんな味になっても大丈夫。とにかく黒船以来日本人は海外から来たものが大好きですから、日本初登場!となれば売れます。どんどん探していきましょう。

6.海外レシピを日本人向けにアレンジ

実際にはよくあるものに海外っぽい要素を加えるという感じです。
講釈を垂れるのがうまい人向けですね。由緒や由来、理詰めでライティングすることで説得力が増します。根底には「海外のレシピ」という盤石なベースがあるので、元の姿を留めていないアレンジでも積極的に海外アピールしていきましょう。

7.既存の人気商品をリパッケージする

最近は猫のイラストが描いてあれば何でも売れるので、業界でも「とりあえずネコ描いときゃ売れるっしょ」というムーブが盛んです。
中身はなんでも大丈夫。
なんでも売れます。味は二の次。

8.形状・色・フレーバーを変える

最近は猫の形をしていればなんでも買ってくれるらしいので、これはこれでアリです。最近ではネコ型の食パンがブームらしいです。文字通り猫も杓子もネコ型のパンを焼いています。
美味しさは二の次、とりあえずネコの形のものを作りましょう。

9.既存レシピの名前を詐称してオリジナルを主張

これもよくあるパターン。ブラン・マンジェをプリンと称して売って「今までになかったとろける食感!」と打ち出したり、チーズテリーヌをチーズケーキと称して「今までになかった濃厚な味わい!」と打ち出す。
そもそもモノが違うので今までになかったわけですが、この名称詐称、かなり効果があります。クックパッドで見たレシピを真似して作って名前を詐称するだけのお手軽オリジナル商品開発。

10.流行りものをまんまパクる(劣化コピー)

文字通り、究極のスリップストリーム。
流行ったものを片っ端からパクって売り出す。
塩バターロールパンが流行れば日本中のパン屋さんに一気にパクリ商品が並ぶ。これが正解です。とにかくメディアに出て流行ったものをパクりまくる。難しいことを考える必要はありません。とにかくパクってパクってパクりまくる。他人の手柄は自分の手柄。とにかくパクって稼ぐにはこれが一番です。


以上、長くなりましたがシェフのオリジナル商品開発の考え方について少し書きました。

簡単ちゃあ簡単だけど、足がかりがないとどうしたら良いか分からないのが商品開発です。

とにかくオリジナル商品開発に必要なのは、技術・発想・イメージです。

なにもないところにオリジナルは生まれません。

日々の仕事の中でも、たえず自分の優位点を見つけ、つねに考え、疑問を持ち、自分だけのオリジナル商品を生み出してくださいね。

<まとめ>
思いつきやアイデアだけではオリジナル商品を開発できない
オリジナルとは、必然によって生み出された偶然の産物
オリジナルとは、技術・発想・イメージ
イメージは設計図であり、完成まで導いてくれる地図
かんたんオリジナル商品開発の肝はフォーマット選び


参加フォーム


あ!

ひとつ大切なことを書き忘れてました!

こんなに頑張って商品開発しなくても、SNSでフォロワーが数万人いれば、労せずして何でも売れるらしいです。

商品開発よりもフォロワー増やしたほうがいいみたいですねw

シェフはつらいよ…

とほほ…

これからも「唯一無二のプロダクト、唯一無二の体験」を作っていきます!応援よろしくお願いいたします!!