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菅義偉「首相の出席は限定すべき」は憲法63条違反ではない

菅義偉議員が自民党総裁選の共同記者会見において、首相に就任した場合の国会対応について「出席は大事なところに限定すべき」と述べたことが「憲法63条違反だ」と言われています。

しかし、私はそうではないと思います。

それを実現するのに憲法63条の改正は不要だと考えます。

憲法63条と出席義務

日本国憲法
第六十三条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

日本国憲法63条には「内閣総理大臣は答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない」とあります。

この出席義務についての政府見解があります。

出席義務についての政府見解

第75回国会 参議院 法務委員会 第10号 昭和50年6月5日
○政府委員(吉國一郎君) まず、この答弁なり説明をいたしますためには議院に出席することが前提になると思いますが、出席をも不可能にするような事由がある場合、たとえば当該大臣が当日発病をして熱が高くて登院できないというような場合、これについては当然正当な理由ありということで御宥恕いただけるかと思います。その他、出席そのものについて義務を履行できないような場合は多々あると思います。交通事故にあったとか、いろいろな理由があると思いますが、その他、場合によりましては重要な国際案件のために、どうしても当該大臣が重要な条約案件の最後的な詰めを行うとかあるいは署名をするとかいうような場合もございましょうし、その出席自体が不可能になるような事由がまずございましょう。

吉國一郎内閣法制局第一部長は、「正当な理由」があるときには答弁・説明のための出席を求められた場合であっても出席しなくとも良いとしています。これが現在まで続く出席義務に関する政府見解です。

ただ、そのためのハードルは高く、「特殊事情」と言えるようなものを想定しているように感じます。

自民党の憲法改正草案

菅総理の国会出席制限2

自民党日本国憲法改正草案Q&A

自民党の憲法改正草案63条では、ただし書に出席義務の例外を設けています。これは政府見解を立法化したものと言えるでしょう。

しかし、菅義偉議員の発言は、このようなものにとどまらないような気がします。

菅義偉議員の「首相の出席は限定すべき」発言

動画の35分40秒くらいから。

まず総理大臣の国会出席でありますけれども、これは今石破委員からも話がありましたが、世界と比べて圧倒的に日本の総理大臣は国会に出席する時間が多いんです。時間がそれだけとられてますから、国会出席というのはやはり大事な所で限定して私は行われるべきだというふうに思います。そうしないとなかなか行政の責任を果たせない。海外との電話会談とか様々な問題があります。実は最初安倍政権が発足した際にやはり予算委員会で予定以上に引っ張られまして、決められていた首脳同士の電話が出来なくなってしまうとかいろんなことがありました。そして私自身調べましたらG7でこんなに総理が国会に縛られてる国はないことをまずご理解し頂きたいというふうに思っています。

国会出席は大事な所で限定して行われるべきだ」という発言からは、自民党改憲草案以上の出席義務回避が可能になる運用を想定しているように感じます。

では、このような運用は憲法上許されるのでしょうか?それとも、そのために改憲しよう、という事を言っているのでしょうか?

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