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産経新聞の「ファクトチェック」の問題

産経新聞の「ファクトチェック」のやり方。

私はこれも問題だと思います。

共産党の辰巳耕太郎議員のツイートが対象

産経新聞が対象にしたのは、共産党の辰巳考太郎議員のツイートです。

9月15日のツイートに対して10月22日に報じるというのが遅すぎるということはさておき、ここでの対象は「大阪都構想によって大阪市を廃止すると住民投票なしで特別区に移行可能になる」という文言です。

産経新聞は「ミスリード」と判定

【大阪都構想ファクトチェック】「隣接市は住民投票なしで特別区に」はミスリード 2020.10.22 19:00産経WEST
 法律では確かに、一定条件下では住民投票を不要とする。一方、住民意思が反映される地元議会と府議会の承認が必要なことや、移行方法によっては住民投票を要するケースがあることも明記されている。投稿にはこうした内容は含まれておらず、ファクトチェックでは一見事実と異なることは言っていないが、重要な事実などが欠落しており、誤解の余地が大きい「ミスリード」といえる。
ー中略ー
 根拠として挙げられているのは、特別区設置の手続きを定めた大都市地域特別区設置法の第13条だ。同条では特別区に隣接する市町村が1つの特別区として参入する場合は、住民投票を省略するとしている。
 一方、実際の移行には複数の手続きが求められる。同法第13条では、隣接する市町村の場合でも、府と該当自治体でつくる法定協議会の設置や協定書(設計図)の作成、府議会と地元議会での承認などは必要と規定。住民投票を要しないとはいえ、住民意思が反映される2つの議会で承認を得るまでの道のりは容易ではなく、ハードルは高いといえる。
 また、市町村を2つ以上の特別区に再編して参入する場合は、その市町村の中で大阪市と同様の住民投票を行う必要がある。無条件で住民投票が不要になるというわけではない。

産経新聞は辰巳議員のツイートを「ミスリード」と判定しましたが、私はこのような判定文言は改善の余地があると考えています。

対象文言と大都市地域における特別区の設置に関する法律

まず、ツイートを対象文言にしている時点で、140字で語られた中に捨象されている内容があり得るというのは一般的な話であって、それをいちいち書かなければ「ミスリード」という表現をされるというのは、私自身も嫌です。

次に、法律上の扱いについて。

大都市地域における特別区の設置に関する法律
第十三条 特別区を包括する道府県の区域内における当該特別区に隣接する一の市町村の区域の全部による二以上の特別区の設置については、第四条から第九条まで(第八条第一項ただし書を除く。)の規定を準用する。 
ー省略ー
2 特別区を包括する道府県の区域内における当該特別区に隣接する一の市町村の区域の全部による一の特別区の設置については、第四条から第六条まで、第八条(第一項ただし書を除く。)及び第九条の規定を準用する。この場合において、ー中略ー「全ての関係市町村の前条第一項の規定による投票においてそれぞれその有効投票の総数の過半数の賛成があったとき」とあるのは「当該特定市町村及び特定道府県の議会が特別区設置協定書を承認したとき」と、ー中略ー読み替えるものとする。

要するに、【隣接する市町村が全部まるごと1つの特別区になる場合には住民投票は不要で、2つ以上の特別区を設置する場合には住民投票が必要】というのが正確な理解。

辰巳議員は「2以上の特別区を設置する場合について述べていないこと」が発信に不十分なものがあると言えるにせよ、「ミスリード」という評価文言を与えることについての懸念は既述の通りです。

そして、産経新聞は「1つの特別区になる場合も住民意思が反映される府議会と市町村議会で手続を要する」という論を噛まして辰巳議員のツイートを評価していますが、辰巳議員のツイートから「住民意思が反映されない」という主張をする意思までをも読み込めるかどうか。

たしかにそのように受け取る者もいるかもしれませんが、辰巳議員のツイートについてその前後1週間程度をざっと見てみましたが、「住民投票が実施されない」以上の含意を積極的に述べるものもなく、一般には「住民意思が反映されない」という主張が根幹だとするのは難しいと思います。

FIJのレーティングを使っている産経大阪社会部

FIJ メディアパートナーとして産経新聞大阪社会部の名前があります。

今回とりあげた産経の記事は産経WESTのものなので、FIJのレーティングを使っているということになります(記事上にはその旨の表示が無いのが気になるが、紙面と同じ記事の場合にそれを求めるのもどうかとは思う)。

それ自体が問題だと思います。

FIJのレーティング基準の文言が読者に与える印象

FIJのファクトチェック基準1

FIJのファクトチェックにおけるレーティング基準はこのようになってます。

「ほぼ正確」と「ミスリード」の間には実際上あまり差が無い場合が多いと思われます。

にもかかわらず、両者の言葉が読者に与える印象というのは雲泥の差があります。特に「ミスリード」という単語はそれ自体に「わざと誘導している」のようなニュアンスを感じる人も多い。

「発信内容」ではなく、「発信者」に対する否定的評価文言になってしまっている面がある。

「ミスリード」という見出しでファクトチェック結果を報じること自体が「ミスリード」になる面があるんじゃないでしょうか?

全体の文言の中でも「ミスリード」だけ異質ですし、ここの表現は変えるか、「ほぼ正確」との間のレーティングを設けるべきではないかと思います。

たとえば「補足が必要」という表現ないし項目を作るなど。

ファクトチェックの対象が恣意的であることも問題です。

福島原発や風評被害関連についてもまったく取り上げられてきませんでした。

直近で言えばたとえば、政府の成長戦略会議の委員を務める三浦瑠麗の明らかな事実誤認を拡散するツイートについて私以外に指摘するところは知りません。

櫻井よしこ氏の発言は「誤り」とまで言われたのに

ちなみにですが、櫻井よしこ氏のプライムニュースでの発言については、彼女の発言に含まれる意味内容については複数あり得るものであったにもかかわらず、特に説明があるわけでもなく断定・切り取りがなされ「誤り」とまで判定されたということで、今回の辰巳議員に対する判定を遥かに超える不合理があったと言えます。

「ファクトチェック」はそれを実施する者によってブレ幅が大きい。

もはや特定の政治思想に基づく・或いは結果ありきの「ファクトチェック」が横行しているということです。

これは「ファクトチェック」の目的が『国民に正確な「情報」と「認識」が行きわたること』ではなく、「個人の発言の正誤」という矮小化された視点になってしまっているせいではないかと思います。

「ファクトチェック」なるものの概念をそういうように作ってきた、ということであれば、そのような「ファクトチェック」が日本国民にとって有益であることはあまり無いでしょう。

以上

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