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野田洋次郎「優生思想」ツイートはそんなに悪くない。けど、やっぱり良くないよね

このツイートがなぜか1週間以上たった今日、多数から叩かれるようになって、弁護士の先生までも顔を真っ赤にしてるわけです。

で、引用リツイートやリプライでは「優生思想だ!けしからん!」という論調が多かったのですが、全体的に以下のような傾向がありました。

1:野田洋次郎のツイートの曲解と内容の分析不足
2:優生思想の中身の理解不足

なので、ここではこれらについて整理して、野田洋次郎氏の主張するような政策が実現されるまでにはどういう障壁があるのか、実施されたとしてどういう問題が生じ得るのか、本人も冗談だと言ってるのでお気楽に考えていこうと思います。

優生思想とは何か

まず野田洋次郎氏がツイートで言っている内容が優性思想なのか?という疑問があったので、上記でまとめています。ここでは簡略化して紹介すると

1:優生思想とは「何らかの秀でた特質を有する遺伝子を保護し、逆に劣った特質を有する遺伝子を排除して、優秀な人類を後世に遺そうという思想」というのが一般的な理解。
※参考:優生学から見た子ども、教育(学)から見た子ども :藤川信夫(編著)『教育学における優生思想の展開』(勉誠出版2008年)の総括として 藤川, 信夫
2:つまり、大きく①優秀遺伝子保護、②劣等遺伝子排除の要素がある。
3:野田洋次郎氏のツイートに表れているのは、上記の内前者の①優秀遺伝子保護だけで、「劣った遺伝子を排除する」という意味とは読み取れない
4:よって、洋次郎氏のツイートは優生思想と言えるのか?そうだとしても、そうでないとしても、そのような政策は妥当なのか?

こんなことを書いたわけです。

このnoteには4番目について、かなり随筆的な内容を書いていきます。

野田洋次郎のツイートは「許されない優生思想」なのか

>大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者は国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべき

先述の通り、野田洋次郎氏のツイートは①優秀遺伝子保護、②劣等遺伝子排除の要素の内、前者の要素しかありません。

さて、いずれの場合も優生思想=優生学に基づいた何らかの生殖プロセスへの人為的介入ですが、それは常に許されないものなのでしょうか?

一つの試金石として、常染色体優性遺伝形式をとる非症候群性の感音難聴について考えてみましょう。

優性遺伝形式で遺伝するため、再発率(次の世代に難聴が 遺伝する確率)が50%であることより、患者の心理的負担が大きい。
難病情報センター 耳鼻科疾患|優性遺伝形式を取る遺伝性難聴 (魚拓

仮に、この遺伝性難聴の可能性を解消する治療法が確立したとしましょう。それは優生学そのものから出てくるものではないかもしれませんが、「劣った特質を有する遺伝子を排除」することではあるので、その行為は優生思想に基づくと言い得るものです。

このような「優生思想」は許されないものなのでしょうか?

ここで言いたいのは、なにも「常染色体優性遺伝形式をとる非症候群性の感音難聴に罹患している者は安楽死させろ」とか、「そういう者は強制断種(不妊治療)しろ」とか、そういう事を奨励しているわけではありません。それは「許されない優生思想」だと思います。

もう一つ、仮に、「新型コロナウイルスに恒常的な免疫を持つ遺伝子を取り込む手法」が開発されたとしましょう。ただし、そのような免疫を持っている人から取り出す必要があり、そのような人は非常に少ない、という制約があります。※こち亀で両津勘吉だけが持ってる最強の免疫を接種しよう、という回がありましたが、だいたいあんな感じ。

そのような免疫を有する人に対してお願いをして協力してもらう代わりに利益となるような扱いをするのは、「何らかの秀でた特質を有する遺伝子を保護」することと言えるでしょう。

それは、「許されない優生思想」なのでしょうか?

優生思想⇒だから許されない、という論法は、乱暴じゃないですかね?という形式面をまずは言いたいです。以下から実質面に入っていきます。

RADWIMPS洋次郎の「優生思想」はどういう中身なのか?

>大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者は国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべき

再再掲しますが、この「中身」をちゃんと分析しないとダメだよなと。

まず、これは「彼らの良い遺伝子を保存しておいていろんな人にバラまく」という考え方ではないということが明らかです。

ですから、「一部の遺伝子だけが集団内に広まって多様性がなくなり、種としての脆弱性が出現することになりかねない」みたいな懸念は杞憂に終わるわけです。

洋次郎氏のツイートの中身、意味内容が不鮮明で特定は不可能ですが、咀嚼してみるとすれば「彼らの良い遺伝的特質を消し去らないような遺伝子を有する=釣り合う配偶者を見つけて生殖してもらいましょう」というものになると思います。

或いは、単に『必ず次世代の子が生まれて優秀な遺伝子が後世に残るように「遺伝学的に元気な」配偶者と結ばれて欲しい』くらいの意味かもしれません。

いずれにしても、当代1代限りの生殖プロセスへの介入をする施策ということです。

まぁ、この前提には【そのような遺伝的特質を特定でき、且つ、次世代において遺伝的特質が現れる蓋然性が高くなる手法も判明してる】という科学レベルが必要なんですが。

この時点で、マジメに論じてるのがあほらしくなってきますよね。

洋次郎氏が冗談と言ったのも分かります。明らかにネタにマジレスだよこれ。

で、そうだとしても、諸々の問題点があります。

憲法・法律の障壁をクリアする必要

憲法24条には婚姻は両性の合意のみに基づくとありまので、強制的にこの施策を行うには憲法改正を行った上で特措法が必要です。

それはあんまりでしょうから、本人らも配偶者らも同意した場合に限るとします。この場合には憲法24条の問題は生じませんが、一部の者だけそのような扱いをするというのは憲法14条の平等にも反しそうですので、そのような政策を実行するにはやはり一定の立法事実を主張してそのための特措法が必要となる可能性があります。

配偶者を政府が選定する意味あるの?

本人も配偶者も同意した場合に限るとする場合、「だったら政府が選定する意味あるの?」という話になりますね。

単なるマッチングアプリじゃん、日本政府。

とまぁ、こういうバカバカしさを経た上で、ようやく「洋次郎氏の言う施策は妥当なのか?」ということを考えることになります。

政府が人間の価値を付ける社会

「はい、あなたは子供を確実に産めるので(着床可能な活動レベルの高い精子が沢山あるので)、スーパーアスリートの子種を仕込む権利があります。つきましては出産・産後のサポートをいたします。」

みたいに、政府がいきなり現れて人間の価値を決める社会になるわけです。

しかも、税金でやるわけですから、配偶者の組み合わせで効果はあったのか?という点を問題視する有権者・議員が登場して、立憲民主党の議員らが「〇〇とその配偶者に関する文書の一切」を情報開示請求したりして…

配偶者と目される男性女性やその子どもたちが好奇の目に晒されて、メディアの報道の犠牲になったり…まとめサイトでデタラメな事を書き連ねられたり…

政策論の体で国会で名誉毀損や侮辱をされても国会議員の免責特権で何らお咎めなしになり、関係者らの名誉・名誉感情が傷つけられたまんまに…

とまぁ、ろくなことは起きなさそうですね。

そういう人を守るために免責特権に関する憲法改正や名誉毀損や侮辱の要件をちょこっといじったりということも必要でしょうし、まぁメンドクサイったらありゃしない。

さて、ここまで書いてきたことは、何も完全なる妄想ではなくて、現実の実態を一部踏まえた上で言っています。

皇室報道なんかまさにそうなってるじゃないですか。

皇室は優生思想ではない

「配偶者を国家プロジェクトで選定している」ものとして、「天皇・皇族」に関して既に実行されています。

もちろん、皇族・皇室は遺伝子が優秀だから存在しているのではなく、父方の系統を辿れば必ず初代の神武天皇に連なる者で皇位継承をしてきた血族であり、2680年の歴史を有するという事実自体の正統性に由来しているものです。

一定の皇位継承ルールのもと、2680年も続いてきた系統というのは、それだけで「お化け」(比喩的表現)と言ってよいでしょう。

皇室に関する報道の無秩序さ

昭和天皇のお后選びは早くから開始されました。それは、明治天皇の男子には大正天皇しかおらず、大正天皇も病弱で、后選びに苦労した経験があったからです。それが原因で「宮中某重大事件」ということも起きました。

宮中某重大事件とは、妃に内定していた久邇宮良子女王(後の香淳皇后)について、家系に色盲の遺伝があるとして、元老・山縣有朋らが女王及び同宮家に婚約辞退を迫った事件です。この事件は極秘扱いにもかかわらず噂は無しが流れましたが、結局、婚約の撤回は行わないこととなりました。

昭和天皇と香淳皇后との間には2男4女が成人されましたが、戦後、GHQの皇室財産に対する圧迫もあって事実上旧皇族が臣籍降下せざるを得なくなったことや、世継ぎ問題に政府が取り組まなかった結果、宮家で9人連続で女子が誕生したため、現在の皇位継承権者は3名しかいなくなりました。

その流れがあったので、報道は少数の男系男子孫の配偶者に集中し、加熱していきました。

上皇陛下のご結婚に際しては多くの令嬢方が辞退し、美智子太后陛下とのご結婚に際しても様々なトラブルが生じてご結婚後に長期療養を余儀なくされたという経緯があります。

今上天皇と雅子皇后陛下が晩婚となったのも、お后候補の女性が特定されてマスコミによって騒がれたことが原因です。

一人の人間、少数の人間に注目が集まり、言説が過熱するというのが好ましくないというのは過去の記事でも書きました。

今現在、皇室関係の報道ならびにネット上の罵詈雑言は聞くに堪えません。女性週刊誌の記述をベースに話を盛ってアクセスを稼ぐまとめサイトは乱立し、皇族方が「殴ってこない」と思ってるのでやりたい放題です。

皇族として一定の防御壁の仕組みがある立場ではなく、一般人である大谷翔平・藤井聡太・芦田愛菜さんら(と、その配偶者)を、そういう環境に置きたいですか?

負荷分散するべき

私が野田洋次郎氏のツイートで良くないと思うのは、スーパーアスリートなど極々一部の人に限定して良い遺伝子を残そう、という施策を考えているという点についてです。

だからこそ報道被害も一部に集中するのが容易に想像できてしまいます。

しかし、対象者が大量になればどうでしょうか?(もちろん任意で)

良い遺伝子なら、何も特殊な人だけじゃなくて、多分いろんな人がそれぞれの有利な遺伝子を持っているはずで、それを多数人が共有できるような(お金はかかるが)技術があるなら、それはそれで良いんじゃないでしょうか?

そうなれば、そのうち政府がいちいち配偶者を見つけて…などとやる必要すらなくなって、民間でそれこそ自由意思で良い遺伝子を共有、とかできるようになるんじゃないかと。

とまぁ、、大前提となる科学技術の面で現在では躓く話でしょうから意味が無い話だとは思いますが、野田洋次郎氏に釣られた魚としてキチンとバタバタしてみようという思いで書きました。

以上

追記:基本中の基本概念を整理しました。


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