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【日本学術会議】任命裁量に関する内閣法制局の憲法15条論と野党合同ヒアリングでの発言について

政府 学術会議任命権に関する見解についての文書を公表 2020年10月6日 13時20分 NHK
「日本学術会議」が推薦した新たな会員候補の一部の任命を菅総理大臣が見送ったことをめぐり、6日開かれた野党の会合には、内閣府の担当者が出席し、おととし、政府内でまとめられた総理大臣による会員の任命権に関する見解についての文書を公表しました。
この中では「日本学術会議」について、国の行政機関であることから、総理大臣は、会員の任命権者として、人事を通じて、会議に一定の監督権を行使することができると明記しています。
そのうえで、会員の任命について公務員の選定などは、国民固有の権利であることを定めた憲法15条にある国民主権の原理からすれば、総理大臣に会議の推薦通りに会員を任命すべき義務があるとまでは言えないとしています。
また、内閣総理大臣が適切に任命権を行使するためには、定員を上回る候補者の推薦を求めて、その中から任命することも否定されないとしています。
一方で、科学者が自主的に会員を選出するという基本的な考え方に変更はないなどとして、総理大臣は会員の任命にあたって、会議からの推薦を十分に尊重する必要があるとしています。
これについて、出席者から法解釈の変更ではないかという指摘が出されたのに対し、内閣法制局の担当者は「法解釈の変更ではない。憲法15条の規定で、公務員の任命権などは国民にあり、最終的に内閣総理大臣が、その責任を負っている。かつての国会答弁も、その前提のもとにされている」と述べました。

2点。

1:「文書」では、総理に推薦通りに任命すべき義務があるとまでは言えないとする根拠として憲法15条の国民の公務員選定権を主張
2:「野党合同ヒアリングにおける内閣法制局の担当者発言」では、かつての国会答弁もその前提のもとになされている」と主張

問題は内閣法制局の担当者発言の方。

「かつての国会答弁」とは昭和58年の日本学術会議法の改正議論をしていた当時の答弁で、たとえば5月12日の参議院文教委員会における内閣総理大臣官房参事官、高岡完治・内閣総理大臣官房総務審議官、手塚康夫の答弁がこれに当たります。

○政府委員(手塚康夫君) 前回の高木先生の御質問に対するお答えでも申し上げましたように、私どもは、実質的に総理大臣の任命で会員の任命を左右するということは考えておりません。確かに誤解を受けるのは、推薦制という言葉とそれから総理大臣の任命という言葉は結びついているものですから、中身をなかなか御理解できない方は、何か多数推薦されたうちから総理大臣がいい人を選ぶのじゃないか、そういう印象を与えているのじゃないかという感じが最近私もしてまいったのですが、仕組みをよく見ていただけばわかりますように、研連から出していただくのはちょうど二百十名ぴったりを出していただくということにしているわけでございます。それでそれを私の方に上げてまいりましたら、それを形式的に任命行為を行う。この点は、従来の場合には選挙によっていたために任命というのが必要がなかったのですが、こういう形の場合には形式的にはやむを得ません。そういうことで任命制を置いておりますが、これが実質的なものだというふうには私ども理解しておりません。
○説明員(高岡完治君) ただいま御審議いただいております法案の第七条第二項の規定に基づきまして内閣総理大臣が形式的な任命行為を行うということになるわけでございますが、この条文を読み上げますと、「会員は、第二十二条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣がこれを任命する。」こういう表現になっておりまして、ただいま総務審議官の方からお答え申し上げておりますように、二百十人の会員が研連から推薦されてまいりまして、それをそのとおり内閣総理大臣が形式的な発令行為を行うというふうにこの条文を私どもは解釈をしておるところでございます。この点につきましては、内閣法制局におきます法律案の審査のときにおきまして十分その点は詰めたところでございます。
○説明員(高岡完治君) これは、従来の選挙制が今回の改正法案によりまして推薦制ということに変わるものですから、特別職国家公務員としての日本学術会議会員としての地位といいますか、法的な地位を獲得するためには、何らかの発令行為がどうしても法律上要ると、こういうことでございます。そのために二十五条、二十六条は、従来は総会の単なる普通の決議、あるいは意に反する解職の場合につきましては総会の特別決議によりましてその地位を奪うという規定になっておったわけでございますけれども、その普通決議、特別決議の点は現行法のとおりといたしまして、形式的にその要件を欠いたままで辞職の発令行為を行うということでございまして、これも法第七条第二項と同様、全く形式的な発令行為と、このように私ども理解しております。この点は内閣法制局とも十分第七条第二項同様詰めたところでございます。

内閣法制局の担当者発言は以下動画の58分以降くらいから、その前に内閣府の担当者が57分くらいから発言しています。

内閣府 この前の段のところから書いてございますけれども、憲法の規定に照らしていったときにまさに任命権者たる内閣総理大臣が任命責任を負えるものでなければならないということで、結論として内閣総理大臣に日本学術会議法17条による推薦通りに任命するべき義務があるとまでは言えないと考えるということがありまして、その考え方については従来から一貫していると我々は理解している。 

野党 解釈の変更ではないということですね?では法制局はどうですか?

法制局 変更ではありません。憲法15条にもありますように公務員の終局的な任命権は国民にあって、公務員の特別職公務員たる日学会員の…(ヤジ)…国民の憲法15条に基づく公務員の任免権を内閣総理大臣が請け負ってやっていて、その関係において内閣総理大臣が最終的に国民に対する責任を負っていると、その責任を負っている範囲の中で任免権を行使するわけですから、その責任を負えないような任免権は行使できないというのは、ずっと一貫している考えであって、その前提のもとに58年の答弁もなされているということになっている。

内閣府と内閣法制局の返答の対象は若干異なります。

内閣府は解釈のみ。法制局は58年答弁も込みで述べています。

58年の答弁がそういう前提であったということであれば、「全く形式的な発令行為」という答弁にならないはずなので、この返答はおかしい。

単に法制局の担当者が整理できていなかっただけなのか、法制局が「足を引っ張っている」のか分かりませんが、この返答は突っ込まれても仕方ないですねと。

で、ガースーは以下述べています。

菅首相、学術会議会員任命「前例踏襲でよいのか」 2020.10.5 20:09
首相は「日本学術会議は政府機関で、年間約10億円の予算で活動している。任命される会員は公務員だ」と指摘。過去の省庁再編でも学術会議の在り方が議論されてきた経緯に触れ「総合的、俯瞰(ふかん)的活動を確保する観点から判断した」と語った。現在の任命の仕組みは「会員が自分の後任を指名することも可能な仕組みだ」とも述べた。
学問の自由の侵害だとの批判には「全く関係ない。どう考えてもそうではない」と反論。「それぞれの時代の制度の中で、法律に基づいて任命を行っている」として、法令上の問題もないとした。

これは以下で私が整理したように、昭和58年改正後、平成16年改正前までは、民間組織たる学協会からの推薦方式をとっていたところ、平成16年改正後は日本学術会議という行政組織内の委員=特別職国家公務員からの推薦方式になったという制度変更により、「過去の答弁は無関係になった」=「解釈変更ではない」ということを意識したものだと考えられます。

法制局の担当者の答え方は菅総理・内閣府の見解とずれがあると感じます。

これはミスなのか意図的なのか。

また、憲法15条論も「総理がそのまま任命しなければならない義務はない」という事を導くためには有用ですが(裁量の有無)、その先の「どこまで実質的に判断できる裁量があるのか(裁量の範囲)については説明できるものではありません。この点も明確化する必要があるでしょう。

以上

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