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彼氏の親友。

6つ下の彼との遠距離恋愛が始まった。

昔の元カレとも、今回同様ゲームきっかけで遠距離恋愛をして2年以上続いた。コロナ禍で2か月以上会えなかったのに、毎日ゲームも電話もしていたせいか寂しさや辛さを強く感じることもなく、遠距離が合っているとすら思っていた。

―思っていたのに、Aさんは違った。

始めの2日間は連休で溜まった仕事に追われて忙しなく過ぎたものの、寂しさはすぐにやってきた。仕事をしていてもAさんの声が恋しくて、次の予定の5週間後があまりにも遠く感じた。

告白の順序が曖昧だっただけに、関係をはぐらかされるのではという不安は杞憂に終わり、Aさんはわかりやすいくらいに時間を割いて溺愛し、周囲に彼女ができたこと、それがわたしということまで話してくれた。

わたしは周りの目を気にしたり、色んなリスクを考えて、付き合って早々に話すことが苦手だったし、男性ならなおさら、もっと言えばクールな彼なら尚のこと話さないと思ってただけに嬉しかった。

付き合って1週間。彼の幼馴染と話す機会があった。

その日は幼馴染と遊ぶと話していたAさん。仕事のお昼休みにラインを返すと「Tと電話してる。」と返信があり、少し間を置いてスマホが震えた。

画面を見ると彼と幼馴染のTさん、3人グループからの着信。見知らぬグループに驚きつつ、職場を出て近くの公園に向かいながら受話ボタンをタップした。

「もしもしTです。」

Aさんより低い声に「こんにちは。Aくんからいつも聞いてます。」と愛想よく挨拶をする。

「Aくん突然どういうこと。」

「Tが話したいんだって。」

なにそれと思いながらも、1番仲のいい幼馴染に紹介してくれるのは素直に嬉しい。3人で雑談を続けているとTさんが「A 、まともなひとと付き合ったな。」としみじみ言い出した。

「でしょ。なてちゃんまともだよ。」

「元カノそんな酷かったんですか?」

ゲーム仲間やAさん本人から度々耳にする元カノエピソード。周囲も別れることを勧めていたと聞く。

「元カノはまともに会話できなかった。」「こんなちゃんとした彼女初めて。」とまで言うTさんに、興味本位で元カノやTさんとの学生時代のエピソードをいくつか聞いた。

「でもAくんって遊んでたんですよね。」

「あー。まあそうだね。」

「セフレ?」

「相手が一方的に好きだったんかな。」

やめとけと騒ぐAさん。

28にもなるとそんな過去を責めようとは思わないし、女性経験ゼロのひとと交際した過去もあるからこそ、Aさんのようにそれなりに遊んできて余裕のあるひとが合うと気づいた。もちろん、浮気や二股は話しが違うけれど。

「でも、Aがしっかり照れてるってことはなてちゃんのこと本当に好きなんだね。」

フォローだとしても口元が緩む。

話せたことへのお礼を伝えて職場に戻る途中、振動したスマホからはラインが2通。

Aさんから「ちゃんと好きだから紹介したんだよ!」と、もう1通はTさんから「Aは本当に不器用で不安に思う時もあると思うんですけど、二人の会話きく限り本当に好きなんだなって思いました。とりあえず信じてあげてくださいね。応援してます。」

好きな人から一心に愛情を受け、彼の大切な友達とも関わることができ、愛される安心感を久々に感じた。

数週間後、Aさんの家にTさんが遊びに来たときまたふたりと電話をした。

焼肉をするらしく、お肉の準備をするAさんをキッチンに残しTさんと雑談をする。

「俺が女でもAと付き合いたいと思うかもな。」

「わかります?」

「うん。沼るだろうなあ。まず見た目がいいし性格もはっきりしてるし。」

わたしも彼の決断力とさっぱりとした性格が好きだった。

「でも、Aくんって面食いじゃないんですか?」

「え、面食いに決まってるじゃん。」

今さらとでも言いたげに笑うTさんが「面食いじゃないと思った?」と続ける。

「それならわたし選ばれないですし。彼の”好き”に具体的な理由もないらしいので。」

Aさんの性格的に「性格重視」と言われる方がうさんくさい。面食いそうだと出会ったときから思っていたしそれが原因で自信をなくして離れようとした時期もあったほど。

それでも付き合えたのはよほど性格が気に入ったか、好みのタイプが特殊なのかと思っていた。

「なてちゃん可愛いじゃん。顔好きだよ。」

唐突にAさんの声がした。

「言われたことないし、いつも理由ないって言うじゃん。」

「可愛いなあって思ったよ。何もしないで帰したらほかの男に取られると思った。」

聞いてるほうが恥ずかしい台詞をさらりと言い「なてちゃん今にやにやしてるんでしょ。」とからかってくる。

Tさんは幼馴染なだけあってこんな彼には慣れっこなのか、リアクションする訳でもなくタバコを吸っていた。

「友達同士で話したいでしょ。」と切り上げようとしても引き止めてくるふたりとしばらく話し、最後は「愛してるよなてちゃん!」と素面とは思えない陽気なAさんに同じ言葉を返して電話を切った。

こうして書いて振り返ると、彼の口が上手すぎて胡散臭い気がしてくるけど、自他共に認めるわたしの重さを超えるくらいに重い愛で返してくれている今のうちは大丈夫、と思っている。

本当に5週間って長い。



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