別れ話をした。
別れ話しをした。それも何度も。
きっかけはこのときで、直後の1泊2日も散々な内容だった。
第一に、サッカー観戦で全国各地に遠征する、時間もお金もかかる趣味があると遠距離恋愛との両立が厳しくてどうしても天秤にかけてしまう。
次に、ゲームと束縛。
週に1、2回するかしないかの暇つぶしでしかないのに、彼はサッカー以上に異性とオンラインで遊ぶことをきらった。
適当になんでもない会話をしながら遊びたいだけなのに、誰とするか、いつ始めていつやめたか報告を義務付けられ、2人きりはだめとルールを敷かれた。
これに加えてかなりの頻度で電話をしていた。
日勤の夜はもちろん、夜勤でも休憩時間や夜勤明けの隙間時間で電話をした。それも、楽しいどころかけんかばかり、束縛ばかり、謝罪要求ばかり。
「話しているときスマホ見ないでよ。」
「電話しているときサッカーみるのやめて。」
大前提としてスマホに夢中で空返事になることが相手に失礼なのもわかる。わかるけど。
毎日毎日寝るまで話して、隙間時間も電話すれば話題に限りがあるに決まっている。
わたしはサッカースタジアムに行って仲間と熱く応援することが大好き。
彼は応援する楽しさはわからないという。
彼はゲームが大好き。勝ちにこだわる。
わたしはゲームの強さとかランクとかどうでもよくて楽しみたい。
共通点が少ないうえに制限されて束縛されて、口論になれば「逃げてるだけ。」「なてのわがまま。」と、建設的というより理屈を並べてわたしが悪いの1点張り。
これだけ聞くと彼にはモラハラな印象しかないけれど、彼はわたしが不安になるようなことはひとつもしなかった。
わたしの苦手な女の子が彼に近づけば彼女が嫌がるときっぱり断るし、くだらない駆け引きをすることなく連絡はこまめにくれた。寂しいだけのただのわがままから始まるけんかにもとことん付き合って放棄することもなかった。
心に余裕がなくなるたびに、話し中に電話を切ったりラインを無視したり、別れ話しを切り出すことまであるわたしを、彼は何度も追いかけてくれたしどれだけでも連絡をくれて、愛想を尽かして別れを承諾するなんてことは一度もなかった。常に大好きだと伝えてくれた。
でも、だからこそ。一度冷静になりたいとき、時間をおきたいとき、単純にひとりになりたいときも許されず、延々と問い詰められ、理解されないことが苦しかった。
7月上旬、仕事の繫忙期や人間関係の悩みが重なったうえ、家族になって10年の実家の愛犬が亡くなった。
実家に戻って火葬を終え、週明けにアパートに戻ってからも悲しい気持ちでいっぱいなのに「電話できてない。」というラインや、気を紛らわせたくてフレンドと雑談していることにもちくちく反応されてこれまで以上に爆発し、”恋人はいらないからひとりになりたい。”と強く思った。
自分の意見が否定されるのが目に見えている話し合いに向き合う気力もなく、自分の意志を送ったあとは「別れる。」「ブロックする。」「もう疲れた。」と伝えて初めてブロックまでした。
丸1日無反応でいると、ライン、Twitter、ゲームアプリとブロックするごとに彼は手段を探してメッセージをくれた。
「これまでなての事を思っての好きでの発言だったけど、空回りしてごめん。ちゃんと喋る機会が欲しいです。
なての事大好きなのはほんとだし、世界で1番なてを愛してるから。なてと一緒に居たいし、なてに一緒に居たいと思える人になりたい。
だからもう一度だけチャンスが欲しいです。なてを世界で1番愛してる気持ちは嘘じゃない。」
「文で終わりなんてあんまりだよ。自分に余裕無くなったからって急に振るのは酷いよ。一方的なブロックで話さないのは辞めて欲しいです。本当に大好きなのに辛いです。
なても大変だと思うし、俺も今胸が苦しくてどんな感じなのかも分からない。でもなての事大好きってことだけはわかる。とても大切な宝物だし、俺がまだガキだから余裕が無いのもごめん。これからどんどん成長するしきっと治っていくから、せめてものチャンスをください。もう一度好きになって欲しい。」
他にも沢山送られたし、彼が泣いていると彼の幼馴染からラインもきた。
終わるにしても、人として最後にきちんと話そうと夜に電話をした。
結局この電話で別れ話しは白紙。
仲直りは見せかけで、話し合いを放棄したくて折れたのが事実。
取り柄のないわたしを一途に想ってくれる子供みたいに素直な彼を、もう一度好きになれたらと思ったけれど、一度冷めた人の気持ちはなかなか戻らない。
けんかを繰り返して本当の別れがくるのを待つしかないと諦めてもいた。
それでも彼は変わってくれた。
束縛は軽減され、わたしがまた別れると騒いでブロックするのを恐れてこちらの機嫌を窺う様子には心が痛んだし、少し甘えれば「戻ってくれて嬉しい泣」と子犬みたいに喜んだ。
数週間後、母に彼氏ができたことを伝えて、これまでのことから現状の全てを話した。
「追いかけられる側はラクだよ。年下なのに愛想尽かさず、話しをきいて大好きでいてくれるんでしょ。素直すぎるんだよ。大好きだから周りが見えないだけ。なては年上なんだからもっと上手に可愛がって褒めてあげればいいんだよ。こんなかっこいい子、もったいない。」
わたしのわがままで天の邪鬼な性格をいやというほど知る母の言葉に、今更ながら彼の愛情深さを実感し、自分の傲慢さを反省した。
7月中旬。1か月ぶりのデート。
前回は重い気持ちで夜行バスに乗り、1日目の浴衣デートは散々、2日目は彼の昼寝で潰れ、惨めな気持ちで帰路についた彼との再会。
結論からいうと、とても楽しめた。
1日目はわたしがサッカー観戦で彼は仕事。
一緒に家を出て同じ電車に乗り、途中で降りる彼を見送りわたしはスタジアムへ。
帰りも運よく時間が合い、仕事終わりの彼がそのまま駅まで来てくれた。
スーツを着て出勤する彼を見送れたこと、サッカーで気持ちよく勝利した帰り、降りた駅に彼がいること、手を繋いで同じ家に帰れること。
遠距離なうえ、同棲だってしたことがないわたしには、何気ない時間の隣に彼がいることが幸せだった。
2日目。
大人として恥ずかしい行動をとり、猛省した。
1日目の就寝前、彼がまたゲームのフレンドのことを否定し始め「仲良くしないで。」としつこく迫った。
相手は特に親しくもない赤の他人。
散々嫌だと伝えて別れ話の原因になったことをせっかく会えた時間に繰り返されて嫌気が差し、翌日の朝、荷物を抱えてターミナル駅まで帰ってしまった。
一過性の怒りに任せて自宅まで帰ろうとする自分と、それこそ最期になると躊躇う自分。
頭が痛くなるほどクーラーの効いた駅構内のカフェで彼が起きるのを待ち、1時間後に起きた彼からの電話に出た。
彼は泣いていた。
とにかく戻ってきてと涙声で怒り、よく冷えた頭で電車に乗った。
結局、大馬鹿モノの自分は構ってほしかっただけ。
彼に「あっそ。」と突き放されれば慌てて縋ったくせに、こうして大切なひとを傷つけた。
最寄り駅に戻り、朝の混雑した改札口を抜けると壁に背中を預けて待つ彼がいた。
不謹慎にもそのすらりとした立ち姿と綺麗な顔立ちに「かっこいい!!!」なんて思ってしまう。
「ごめんなさい。」
大きくため息をついた彼は「本当にやめて。」とだけ言うと、わたしの荷物を引き受けた。
彼の家に戻ってからはお互い冷静に話し合い、多少けんかになったものの最終的には「それだけ嫌だったことを言ってごめんね。」と言ってもらえた。
余談だが、けんかになり物理的に距離を置こうとベッドから這い出るわたしを彼が離さず、ジタバタ暴れても抱きしめてくれたことは、ちょっといやかなり嬉しかった。
白くて細い身体にとんでもない力があるんだなと男らしさを感じました。
帰りの新幹線までの時間は穏やかに過ごして、たくさん愛し合えた。
ただお互い性欲が強いとはいっても彼に4回目を迫られたときは「◯ん◯んの病気だよ!!」と言ってしまった。
アラサーにしてこれまでで1番幼稚な恋愛をしているし、これまでで1番けんかをしている。価値観だってぐちゃぐちゃに合わない。
それでもこんなに愛情を注がれたことはなくて、こんなに真っ直ぐなひとは初めてで、あまりにも純粋で素直な彼。
わたしのしてきた行動はそんな彼の心に大きな傷を負わせて、これからも消えない。
どうしようもない人間のわたしにはすぐには無理だとしても、愛想を尽かされる前に「わたしも大好きだよ。」とたくさん伝えたい。
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