この世界は、すべてあなたのものになるよ 〜妊娠発覚 - 婚約〜
もうじき桜が咲くというのに雪が降って、わたしとあなたのパパが、わたしたちが森と呼んでいる部屋に幸福で甘やかな幽閉をされていた時、あなたは発生した。
小さな窓に現れた二本の力強い赤い線と、クリニックの先生のあたたかい祝福の声によって、あなたの誕生は確定した。
クリニックからの帰りに見たいつもの公園の風景を、わたしは生涯忘れない。小川沿いに細い道があり、もう日が暮れていて暗く、殺風景な一本道だったけれど、その道はあなたがひとつの命として確かにこの世界を歩み始めた証のように思えた。
群青色の空にひとつだけ輝く星も、柳を揺らす風も、ひかえめな小川のせせらぎの音も、これから、すべてがあなたのものになる。
祝福された子供よ。この世界は、すべてあなたのものになるよ。
2018年4月10日
歌ってみたの。あなたがいるのだと思いながら歌うと、今まで慣れ親しんでいたはずの歌の歌詞も、やっぱり違うものに感じたよ。
そして、さっそくあなたのためのメロディをかいたよ。まだほんの破片だけれどね。
あなたはこれからもずっと、わたしを自由にし続けてくれるのだろうね。
けれどまずは、あなたのパパにあなたの誕生を伝えなければね。わたしだけ喜んだりメロディをかいたり、ずいぶんとフライングだよね。
LINEなどではなくて直接伝えたいから、彼のお仕事が終わって会えるのを待つことにするよ。
あなたのパパに、わたしたちのところにあなたが来てくれたお話をすると、慎重に話に耳を傾けたのち、わたしに、プロポーズをしてくれたよ。
「精一杯幸せにするので、結婚してください。」という、シンプルなものだったよ。抱き合いながら、この言葉を言わせてくれたのはあなただね、と言い合った。
あなたは今もこれからも、わたしたちを導いてくれる存在だね。
妊娠したことを、わたしの姉にLINEで伝え、そのあと母に電話で伝えた。急なことなので本当に驚いていたけれど、とても喜んでくれた。特に母は瞬時に母性を発揮し、経験からアドバイスをくれたり、わたしの体を心配してくれた。
この家族の元に生まれて本当に良かったと心から思ったよ。あなたにもいつかそう思ってもらえる日がくるといいな…。
あなたの存在により、周囲は春の風に巻き上げられたかのように瞬時に浮き足立った。「奇跡が起きた」とか「おじいちゃん(亡くなった、わたしのおじいちゃん)に守ってもらえるように毎日祈らなきゃ!」とか、それぞれ口々に忙しく言っているよ。
まだたったの3ミリなのに、あなたの影響力はすごいね。あなたは本当に、すごいよ。
あなたのパパの妹さんは画家で、喫茶店をしているの。剽軽で陽気なあなたのパパとは違って、もの静かで、秘めた美しさを持つ人なんだよ。今日ふたりで(正確にはあなたと3人で!)彼女の店に行って報告しようとしたら、彼女、言う前から、わたしたちが結婚することになったことを言い当てたの!雰囲気で察したんだって。そして静かに「大賛成です」って言ってくれたよ。
そのあと妊娠していることを告げたら、それには少しだけ驚いたけれど、すぐに「お母さん喜ぶね」と言ったの。
あなたは、わたしが初めて本気で誰かのために生きようとすることを教えてくれる存在。
そしてわたしとあなたのパパに、本気で大人になるという決心を、教えてくれた子。
2018年4月11日
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