集合的無意識=イドの茶碗
重酸性雨の降りしきる錆だらけの街の一角に、古物商『捨神有拾神有』が暖簾を下ろしている。街の大半を占めるスクラップ場には大戦以前の大量の物資が今もなお埋もれている。
薄暗く狭い店内。店主は泥と付着物に塗れた真っ黒な茶碗を両手で持ち上げ、拝むように掲げて感嘆の声を上げる。茶碗を持ち込んだ『集め屋』は眉をひそめる。
「おいお前、これはイドの茶碗じゃないか! よく無傷で掘り出せたな! この碗で茶を立てて飲むと集合的無意識に入れるらしいぞ。古事記にも書いてあった」
「イドの茶碗? 集合的無意識?」
店主はカウンターから身を乗り出しながら饒舌に語り始める。
「単なるセラミックに見えるが、この碗は微細なナノマシンによって構成された複合結晶体だ。飲むとナノマシンから合成された成分が抽出され経口摂取される。すると脳の快楽中枢域に作用して集合的無意識へと誘われるんだ」
「要するにラリってしまうんだな」
「もっと高尚で崇高なものだぜ。綺麗にして金持ちに売れば良いクレジットになる。試しに使ってみちゃどうだ。使わず手放すのはもったいない」
「毒味ってわけか」
店主はニヤリと笑う。
「話が早くて助かる。本物なら言い値で買うから」
店主は慣れた手付きでクリーナーで付着したゴミや汚染物質を洗い流す。イドの茶碗の濡れたカラスの羽のような暗黒が、古びた灯りを妖しく照り返す。店主がインド象の描かれたメカニカルポットから急沸騰されたお湯を注ぐ。パウダーを入れてないのに茶碗の中の液体は鮮やかなモスグリーンに染まって、湯気を立てている。
『集め屋』は手近の椅子に腰掛けると、意を決して、天を仰ぐように茶碗の中身を飲む。
「苦っ」
意識が飛ぶ。空へと昇って、視界は光に包まれ、
<IDO>
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【続く】(800文字)
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