【逆噴射プラクティス】ヤクザの親父殺人事件

「誰が親父を殺しやがったんだオラァァーッ!!」

 ヤクザの小さな事務所に若頭の怒号が響く。蛍光灯がチカチカと数回瞬いて小汚いリノリウムの床を照らす。扉の真反対にある一番見晴らしの良い席には壮年の恰幅のいい男が、同心円状に血の海が広がる机の上に突っ伏して絶命している。殺人事件だ!

「黙っていても埒が明かねえぞコラァー!!」

 若頭の眼の前には三名の男たちが並んでいる。服装や背丈、体格や年齢はまちまちながらも全員が揃いも揃ってガラが悪い。つまりヤクザだ。
 三人のうちの一人、小太りで丸坊主で派手な柄の入ったシャツを来た男が怯えながら口を開く。

「ど、どうして俺が疑われなくちゃならないんですか!」
「なんとなくに決まってんだろーが!!」「そんなむちゃくちゃな!!」
「口答えするたぁいい身分だなテメェーーッ!!」「ヒィッ!!」
「テメェが犯人かぁー!!」「違います!!」

 横暴だ! 常人ならば若頭の怒りの表情と声に気圧されて反論もできないであろう。しかし三人のうちの二人目、白スーツを纏うやせた男は怯むことなく提言する。

「若頭の怒りと悲しみもお察しします。ですが親父さんを殺した犯人を探すのであれば合理的な推理と考察が必要です」
「わけわかんねぇこと言ってんじゃねえよ! 俺が中卒だってバカにしてんのか、殺すぞ!」
「このまま犯人を逃してしまえば親父さんが浮かばれませんよ」
「お前に親父の何がわかるってんだザッケンナコラー!!」

 若頭の強烈な右ストレートを受けた白スーツの男は床に倒れて昏倒する。小太りの男はヒィィと叫んで震えている。
 全く埒が明かない! 同じ言語を喋っているはずなのに言葉が通じない! この犯行現場では一切の捜査も推理も進展しないのである!

「あのーすんません」
「あん……? お前誰だ」
「俺、犯人わかったんですけど」

 三人のうちの最後の一人、黒コートと黒い帽子の『殺し屋』が軽く手を上げて言った。

【続く?】

私は金の力で動く。