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どこにでもあるただの売れない花


#私の仕事

その日は、朝から大雨でした。屋外での朝礼は中止。詰所で朝礼を終え、現場に向かう。現場まで、早くても4分はかかる。急いでいかないと、照明が点灯するまで時間がかかる。「笹木さん、先、行っときますから」入社3年目の野口さんが駆け足で追い越していく。


「場内、走っちゃだめですよ」と返した。野口さんは、大卒で今年26歳になる。毎朝、34歳の先輩社員より報告の怠り、書類不備が多く注意されている。静かな室内でそのやりとりは、OJTというより「吊し上げ」に近い。ある日、涙目になっていた野口さんの話を聞いた事がきっかけで、仕事の手助けをしていた。そこから、仲が良くなった。この話を他人にするとキモイと思われがちだが、誰も味方がいない状態で、少しは冗談や愚痴を言い合える人が欲しかったのが事実だった。

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「野口、早くしろよっ!」現場につくと、モップでびしょ濡れになった床面を急いで拭き取っていく野口さんを注意する先輩社員。雨は、容赦なく床面を叩きつけており、拭き取っても、拭き取っても消えない。周囲の先輩社員、協力会社はその日の工事ミーティングを行っていた。

「バケツもってこいよっ! 間に合わねーだろうがっ。お前、馬鹿かっ!」怒鳴られる野口さんは、一方向に走り出した。見届け、近くの棚に置いていたウエス(布類)を使用し、雨水を拭おうとした際、同僚から制止された。「今、ミーテイング中なので後にしてください」

「中途半端な事してんじゃないよっ! おおおっ!」
と所長が吠え出した。
「さっさと拭けよっ!」

驚く間もなく、言われるままに拭きだし、野口さんがどこからか持ってきたバケツ等のおかげで、ある程度清掃出来た後、
「お前、業者に金払えよっ!」その声に振り向いた。

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所長が、私に指差し「お前、業者に金払えよっ! お前、人のもの勝手に使ったんだろうがっ! 金払っておけよっ!」と恫喝された。仕方なく、頷きました。周囲の社員、業者約70名の前で晒し物にされました。一部の業者は、私が清掃している際も、そのウエスに、私の手があるのに、安全靴を拭いてました。

この異様な行為は許されません。

いじめです。

後で、ネットで調べるとウエスの代金なんて安いので一袋200円から高くても1,000円位です。『それを金払ってやれよ』といった発言がその場ででるというのは、現場責任者の自覚がなさすぎるのでは・・・。と感じました。

確かに、協力業者の持ち物かもしれませんが、同じ場所で働いているのにそのような発言をされると就労意欲がなくなるのではないでしょうか?
雨水を拭き取る行為が、そんなに悪い事なんでしょうか?
前日に、天気予報は雨と出ていたので、養生しなかったと言われればそれまでですが、他人の施設に雨養生するなら、指示がなければいけないのではないでしょうか?
気を廻すとしても、先に現場に出向き、清掃すべきといわれればそうでしょうが、そういった指示がない限り、動けません。
よって、このような理不尽な現場では、仕事を継続するのは不可能だと感じました。

話を終え、俯く笹木の目の前にコーヒーを置く、私。
「おかわりのコーヒーです。飲んでください」
「ありがとうございます。これって、パワハラですよね」

「貴方がそう思うのであれば、そうなんでしょう。笹木さん、厳しいお話をしますが・・・どうされたいのでしょうか?」
「悔しいです。何故、私だけこんな目に合うのかなと思って・・・」
「そうですね。で、どういたしましょう。助言としていえるのは、派遣会社に相談するか。労働局に相談することになりますが・・・」
「全て、このお話の相談はしました・・・」
「貴方も過去に経営者でしたよね。こういう場合、民事訴訟しかない。つまり、名誉棄損か損害賠償請求しかないんじゃないかなぁ・・・。どれにあてはまるかわかりませんが・・・私は、弁護士の先生を紹介しかできないですが・・・お請けになるか別として・・・」

「先生、まだ、あるんです」
コーヒーをグイっと一気に飲み干し、私の目を見つめ、笹木さんはそう告げた。

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