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参考書を「読む」方法

参考書を「読む」のは案外難しい。漫然と文字列を追うだけでは理解が伴わないし、いきなり全てを理解しようとしても挫折してしまう。重要箇所に絞って理解しようとしても何が重要なのか分からない。

この難しさゆえ、授業が大切になる。文字列を追うだけでは理解できないところや、いま理解しなければならない重要箇所を、その道のプロに教えてもらえるのが授業だ。

しかし、いつまでも授業が用意されているわけではない。いつか授業という補助輪を外して、自力で参考書を読み進める勉強方法にシフトしていかねばならない。

大学に入学したての頃、私はこのシフトが上手く出来ずに苦しんだ記憶がある。大学の同期や後輩を見ていても同じような経験を持つ人は多く、これはかなり普遍的な悩みなのだと思われる。そこで、私が参考書を「読む」にあたり気を付けている点を紹介してみようと思う。

1 参考書選び

「読む」のに参考書選びって……と思う勿れ。参考書の選定は「読む」範囲を画定する重要な作業だ。

ポイントは「過剰な説明が無い本」を選ぶことだ。これは完璧主義の人に見られる傾向であるが、記述不足を恐れるあまり、とりあえず網羅的な参考書を購入して、大事なところだけ読もうと考えがちである。しかし、大量の記述の中から重要箇所を抽出できるだけの実力が自分に備わっていないことは、冷静になってみれば分かるはずだ。

記述が足りないのであれば、別途その点をカバーする参考書を用意するか、インターネットを駆使するなどして、その都度確認すればよい。何かを習得したいのであればその程度の出費や手間は惜しんではならない。真に恐れるべき事態は、記述不足よりも、用意した参考書を一周もできないことだ。まずは「この本を丸ごとインストールできるか」という視点を持ち、身の丈に合った参考書を選んだほうが良い。

人文社会系の一冊目の本としては、有斐閣ストゥディアシリーズがオススメである。

公務員試験用の教材を使うという裏技もある。説明がコンパクトで分かりやすいだけでなく、多肢選択式のチェック問題が付いているため、学習を進めやすい。個人的にはゼロ過去シリーズを推している。

2 読み方の種類

参考書の読み方はミクロな方法とマクロな方法に分けられる。ミクロな読み方には、知識を一問一答形式に整理する「ブロック化」と、ブロック化した知識を更に細分する「要件化」がある。マクロな読み方には、ブロック化した知識同士のレベルを合わせる「構造化」と、知識間の因果関係を整理する「ストーリー化」がある。これらの4種類の読み方を駆使することで、効率よく参考書の内容を頭にインストールすることができる。

例えば、次のような記述があったとする。

(1)ウェーバーの権力論
 最も古典的な権力論の一つがM.ウェーバーの権力論です。彼は「権力とは、ある社会関係の中において、抵抗を排除してでも、自己の意思を貫徹しうる全ての可能性を意味する」と定義しました。当事者間の対立を前提とする権力概念です。

これを「Q:最も古典的な権力論を提唱したのは誰か → A:ウェーバー」「Q:ウェーバーによる権力の定義とは → A:ある社会関係の中において、抵抗を排除してでも、自己の意思を貫徹しうる全ての可能性」という形で、問いと答えに整理するのが「ブロック化」である。これが基本の読み方だ。

そして、「ウェーバーによる権力の定義とは → ①ある社会関係の中において/②抵抗を排除してでも/③自己の意思を貫徹しうる/全ての可能性」といった具合に、ブロック化した知識を要素ごとに分解するのが「要件化」である。要件化は理解を促進して想起を容易にする大切な作業だ。

また、例えば次のような項目があったとする。

(1)ウェーバーの権力論
(2)権力の実体概念と関係概念
(3)ラズウェルの権力論
(4)ダールの権力概念

各項目は並列になっているが、その粒度は異なっている。これを整理すると以下のようになる。

権力論
→ ウェーバーの権力論
→ 権力の実体概念と関係概念
 → ラズウェルの権力論(実体概念の例)
 → ダールの権力論(関係概念の例)

このように上位・下位の関係を整理する作業が「構造化」である。

そして、「ウェーバーの権力論」と「権力の実体概念と関係概念」は同レベルの項目なのだが、実は「ウェーバーの権力論」における「自己の意思の貫徹」をどのようにして達成するかを説明したものが「権力の実体概念と関係概念」、という関係になっている。

ウェーバーの権力論
↓(どのように?)
権力の実体概念と関係概念

「ストーリー化」とは、このように同じレベルの情報同士の関係を明らかにする作業である。

3 読み方の順番

まず一周目では記述の「ブロック化」をしていく。しばしば全体の構成を把握せよと言われるが、右も左も分からない状態でいきなり全体を見ても何が何だか分からないだろう。マクロな読み方をする前に、ひとまずミクロに読んでいき、基礎的な概念を頭に馴染ませたほうが良い。この時点で知識を暗記しようとする必要は無い、というかしようとしても出来ない。

そのうえでマクロな読み方、すなわち「構造化」と「ストーリー化」を進めていく。具体的には、ブロック化した知識同士がどのような関係になっているのかを洗い出していく。上位/下位の関係を把握するのが「構造化」であり、原因/結果の関係を見つけるのが「ストーリー化」である。体系が複雑なものについては、二周目に「構造化」、三周目に「ストーリー化」という形で作業を分けることを勧める。

最後にもう一度ミクロな読み方に戻る。ただし、一周目とは異なり「要件化」をしていく。最初にブロック化した知識を、細分化して要件形式に整理していく。この局面に至ると、一周目にブロック化したときと比べて圧倒的に理解・暗記のスピードが速まっていることに気付くはずだ。

参考書を適宜の分量(例:章ごと)で区切ったうえで、以上の「一巡」をやっていく。

4 書き込み

補足や強調すべき箇所が出てきた場合は、マーカーやボールペンで書き込みんでいくことになる。ただし、書き込みをするのは「ブロック化」を終えてからである。一周目の「ブロック化」の段階で書き込みやマークをしようとすると、書き込みの対象範囲はほぼすべての記述に及ぶことになる。それでは補足や強調にならないし、時間がかかりすぎる。そのため、二周目以降の「構造化」「ストーリー化」や、最後の「要件化」で書き込みを行うべきである。

「構造化」「ストーリー化」「要件化」の各局面においては、知識同士の関係をロジックツリーやベン図を用いて余白に描く、知識間を矢印でつなぐ、要件ごとにスラッシュで区切る、といったことをよくやっている。

5 読み直し

このような作業を経ると、自ずとオリジナルの教材が出来上がる。この教材を「ブロック化」しながら読み直せば、必然的に「構造化」「ストーリー化」「要件化」に必要な情報が入ってくるため、効率よく復習することが可能になる。

以上の「読み」方は、大学の期末試験から国家公務員総合職試験、予備・司法試験に至るまで実践してきた方法だ。元々感覚的にやっていたことを無理矢理言語化したため、分かりにくい箇所も多いが、有用な手法であることに変わりはないと思う。ぜひ一度試してみてその威力を感じてほしい。






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