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急性心不全を在宅・通院で治療するための指導ポイントについて

 米国の救急外来では急性心不全で受診する患者のうち20%ほどが帰宅し、外来治療を受けるようです。しかし、救急外来から外来治療に移行した場合、入院治療を受けた場合よりも再入院率や死亡率が高いために対策が必要でした。これを打開するために、救急外来から帰宅後の安心アフターケアパックみたいなものを作成してこの効果をみた論文です。

 なぜこの試験が存在するかを考えてみると、救急外来では十分な検査や説明を受けるマンパワー、時間がないために心不全の病態説明や患者自身へのセルフケアの指導が不足するのだと思います。本論文で介入した4つのポイントもこれらを抑えたものになっています。

 Effect of a Self-care Intervention on 90-Day Outcomes in Patients With Acute Heart Failure Discharged From the Emergency DepartmentA Randomized Clinical Trial
JAMA Cardiol. Published online November 18, 2020. doi:10.1001/jamacardio.2020.5763

 今回は簡単に理解するために、PICOに沿ってまとめてみます。PICOは、どのような患者(Patient)に、どのような介入(Intervention)をすると、何と比較して(Comparison)、どんな結果になるのか(Outcome)について論文を4つの要素に分けて定式化するフォーマットです。これら4つの頭文字をとってPICOを呼ばれることが多いです。

【Patient】 対象患者
 救急外来を受診した急性心不全の患者

 479名が参加し、235人が下記【Intervention】記載のアフターケアを受け、244人が通常ケアを受けた。平均年齢は63歳。

【Intervention】 介入群
①救急外来受診後7日以内に、専門スタッフが自宅訪問
②3か月間、2週間に1回電話での患者指導を行う

 これらは下記4つのポイントに基づいて患者指導や薬物調整などを行います。
 A、心不全の教育(心不全悪化の初期兆候の認識など)
 B、生活習慣の指導(禁煙、毎日の体重測定の指導)
 C、ガイドライン基づく投薬管理、ペースメーカ/除細動器の検討
 D、救急外来から帰宅後7日以内に自宅訪問

(個人的には、このような患者ケアに関する具体的な行動をまとめて、そのパフォーマンスをこのような論文で評価して改善させていく努力が必要だと感じました。)

【Comparison】 対照群
通常ケア
 1、帰宅時の説明
 2、処方確認(Medication Reconcilation)
 3、外来受診の推奨

 通常ケアは、従来まで行われている救急医の対応というイメージでよいでしょう。

【Outcome】 結果
 90日時点の心血管死、心不全イベントには両群で有意差がなかった。
 下記Figure2は心血管死や心不全などが発生しなかった割合を0日~90日まで追跡したものです。若干Intervention群で少な目に推移していますが有意差は認めませんでした。

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【個人的感想】
 心不全を含めて、救急外来を受診した後に疾病の説明や教育、次回外来受診の予約など調整する内容は多岐に渡りますが、これらを網羅したり、医師・看護師含めて全スタッフで共有している医療機関は少ないと思います。

 本研究では有意差はでなかったものの、受診後のアフターケアを充実させていく努力、オンライン患者指導・診療などで診療の質を改善する試みは今後も継続され、臨床アウトカムを改善させる内容が今後出てくると期待しています。

 私も、今回取り上げられた、急性心不全の救急外来受診後4つの指導ポイントは意識してみようと思います。


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