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深海の秘密基地ー香織の物語

あらすじ 短編。ヒロミと香織はShipで火山から地下に向かう。そこからさらに深海の秘密基地に連れて行ってくれる。そこは異星から来た宇宙人たちの行きかう。海底2万マイルの登場人物ネモ船長と同じ名前の人が「ネムティ」というバーをやっている。海底2万マイルが子どもの頃大好きだった香織はネモ船長と意気投合してヒロミとバーを楽しむ。同じネモ船長という名前ではあるが、キャラ濃いめ。

ヒロミ(一六三)さん談
私たちの基地は地の中や水の中にもあるわ。特に火山の火口なんかは大型母船を隠すのに都合がいいの。人が来ないからね。水の中の基地は宇宙船を海の底に沈めてるイメージね。私たちは水の中だけじゃなく岩や地の中にも入れるけど…。
ああ、ちょっと説明が必要だわね。私たちは地球という3次元の生物ではないわ。むしろ霊体、ほら、あなた達が‘ゆうれい’とか呼んでいる者たちに近いのね。もしくはこんな言い方もできるわ。
あなたが眠る時に、寝てしまうかしまわないかの間際をうとうとしている時の状態。その時の脳波の状態が私たちに会うBestな状態なの。
私たちは自由に夢の世界に出入りできるわ。夢の中でコンタクトを受ける者が少なからずいるのはそんな理由からよ。
あなたも夢のなかで自由自在に空を飛んだり、やけに物の質感がハッキリしたクリアな夢を見たことない?最近はあなた達の夢の中も次元上昇をしているからね。―そういえば香織には覚えがたくさんある。
ああ、脱線したわ。岩や地の中も地球の3次元的に見ればその中に入る事なんてできそうにないように見える場所にも次元が違うから存在することができる。同じ所だけれど、場所が違うといえばいいのかな。
 実際行った方が早いわね。宇宙船で移動する。じゃあ、今から六甲山の中に入るから。なにか感じる?なんにも?宇宙船の中はゆらぎもしないし、音もしない。
「見てみましょう。」
 カメラからの映像だけが土の中と伝える。
これってどういうこと?
あなた達が聖地と呼んでる場所にはこのピラミッド型をした宇宙船が入っている事が多いの。これにはとってもエネルギーがあって、その地のエネルギーを増幅させる効果がある。もちろん元々良いエネルギーが出てることがほとんどよ。神社なんかでもね、多いわ。
「着いたわ。」
今まで開いたことのなかった扉が開いて、
「ちょっと見たいでしょうから、ついてきて。」
 こんな時のヒロミさんはすてきだ。(乙女だ)あの着物みたいなの(男織り)着てススススーッと進んでいってしまう。ヒロミさんの着物と髪の毛は光を放つように白っぽい輝きを放っている。3次元を超えている、と言われてもこれなら確かに、と納得してしまえる。自分も進み始めてあれ、なにこれーっ。進むというか足を動かすと2,3歩長い距離を進んでいる事に気づく。
「ヒロミさん!」
 と呼びとめると、5,6歩前を行っていたヒロミさんは長い髪を後ろにみせたまま笑顔で横顔をみせ、
「なあに。」
と言うと気づいて、
「ああ、これね。これは思考を読み取って地面が勝手に動いてくれるの。あくまで補助だけれど。」
 宇宙船の壁は膜に包まれたゼリーみたいだ。ボーッと青白く発光している壁に触ると、プルンとまではいかないが、弾力があっておもしろい。ヒロミによればこれは室内事故防止のためらしい。扉はアーチ状になっているし、この中は直線ってことがほとんどないみたいだ。
「下へ向かおう。ここは深海だよ。」
丸い大きなエレベータ状のもの、枠はあるが他は透明のカプセル。大きな筒状のものを短く切った形状。大きさは教室の半分くらいで結構広い。乗るとものすごい速度で景色が変わった。
連れていいてくれたのは深海バー。永遠に続くテーブルが曲線を描いて続いている。
「ここにはいろんな星の人たちが来ているからね。」
 人間と思われる人もいれば、肌の青い不思議な頭の形をした女性。白いターバンをした男性と一緒にいる。インド人のようだ。
「彼女はガネーシャだね。」
「ガネーシャってあのインドの神様?宇宙人なの?」
 
 
 小さい人もいれば、大きい人もいる。
バーの名前はネムティ。
「ネモ船長の海底2万マイルのお話知ってるでしょ?」
彼女いやヒロミさんは香織が子どもの頃から本好きなのを知っている。
「本当はネモ亭というの。それをもじって、ネムティ。ここの主が寝るのが好きだから、とも言われているわ。主がいるはずよ。ネモ船長よ。」
 
呼んでいるのがわかったのか、口ひげと髪の濃い、かっこいいおじさんが振り向いた。目は茶色だ。船長にしてはラフな格好だ。
「こんにちは、ネモ船長。お元気?こちらは地球人の香織さん。私が見守ってる子よ。」
「ハーイ、こんにちは。香織ちゃん。××。」いきなりキスのまねをされて思わずうしろに後ずさる香織。ヒロミの服のかげにかくれる。キスは空中にされた。
「あら、驚かせちゃった?大丈夫、こわくないよー。」とこわがっている犬にでもいうみたいに手を伸ばして、必死に笑顔で言うところがおもしろい。この人悪い人じゃないんだな。香織は思った。
「きみは誰に対してもサービス精神旺盛だね。」ヒロミさんがあきれたようにネモ船長に言う。笑いながらそっと香織に手を添え、支えてやる。
ネモ船長も笑顔になり、
「ここまで来てくれた人にはそれくらいしないと。」と笑いながらも真面目な調子でいう。
「さぁ、せっかくだからお話きいてみよ。ほら、海底2万マイルの…。」
とヒロミさんにうながされて、
「えっ、ああ、あのお話って実話だったんですか?」
と香織が聞くと、ネモ船長はヒロミさんに目くばせしてから香織にウインクして、
「ああ、そうだよ。あれは元々宇宙船だったからね。理由あって潜水艦ということになってはいるけど。機能としては惑星間移動なんかも視野に入ってくるくらいの乗り物だったわけだ。乗組員が何人かここのスタッフになっているよ。」
私はバーの店員さんになったのかと思ったけどそうじゃないらしい。ここを運営している母体の技術系の職員らしい。
「あのお話、小さい頃大好きだったんです。」というと、
「光栄だよ。」と言って握手を求められた。
「ネムティっていうのはなんで日本語なんですか?」と言うと、ネモ船長とヒロミさんが腕を組んで、「分からない?ここの公共語は日本語だよ。(そうよ。とヒロミさん。)まあ、今の日本語とは昔にわかれた言葉だから、知らない単語もあるかもしれないけどね。」
 
「ここはいろいろな銀河からの訪問者を受け入れてる学術コミュニティみたいなものかな。ここから船も出てるし、銀河間も出てるし、地球の中の行き来もできるようになっている。」(さっき見せたでしょ。エレベーターでね。地球を移動するのに一番早い道はどこを通ることだと思う?うーん、空?飛行機?私たちは地球の内部を通るわ。マグマ?私たちには問題にならないわ。さっき言った通り次元が違うから私たちはどこでも通れちゃうわけよ。
 
「ネモさんって地球人だったんですか?」
「いい質問だね!」
「ぼくは地球生まれ、宇宙育ちのまた地球に帰ってきた人間だよ」
 
意外だったのが子どもくらいの大きさの河童を見た事。全身青色でたしかに頭の上にお皿がのっている。その河童は母子連れだったらしく、さらに小さい子どもくらいの河童がいてその場に場違いに不安そうに母河童の手を握っていた。
「彼らは故郷の星へ帰るところですよ。彼らの星は水とガスの星、雲母(うんも)星雲と言うのですが、日本が住みにくくなったといって、帰っていく者が最近多いのです。水質悪化や山の木の伐採などが主な原因です。」
 とネモ船長が解説する。
「ここからは直行便が出ているから、ああして親子で帰る河童もめずらしくありません。」
 母河童の背中にはさらに小さい小河童がおんぶされていた。
 
ネモ船長が先に歩いていってしまったので、香織が小声で、ヒロミさんに聞く。
「なんかネモ船長ってキャラ違くないですか?もっと怖い人かと思ってました。」
「彼もあれよ。培養された人だから。同じ遺伝子でも育て方によって性格って変わるの。彼はとてもチャーミングだわ。」
 
先にバーのカウンターにたどりついたネモ船長が言う。
「カクテルを頼むなら、ぜひ、“私のしびれるハート”をためしてみることをお勧めする。私が考案したカクテルなんだ。」
運ばれてくると、ブルーハワイに金色の粉がキラキラして、赤いハートが浮かんでいる。結構変わった見た目だ。香織が飲んでみると、
「えっ、苦い。」
ネモ船長はにやっと笑って、
「緑茶ベースで100%地球産を使っている。海をイメージして、色は変えちゃったけどね。アクセントにレモンやかぼすの皮が入っているんだ。海に私のハートが浮かんでるってわけさ。心配しないで。お酒は入っていないから。」
さらに衝撃だったのは赤いハート。食べてみると、
「なにこれー?」
甘ずっぱくて、かみごたえがある。
「あー、それはドライトマト。イタリア産だよ。実はイタめしも大好きでね。ここのバーでもイタリアンのメニューを出してるよ。」
ヒロミさんは何にする?私もお酒はちょっと、ということで、
運ばれてきたのはチョコアイスだ。銀の丸いお皿にのって三角形のウエハースが添えられている。生チョコをかけて食べるらしい。おいしそうだ。
「こちらカムロさん。腕利きのシェフなんだ。美人でしょ。さっきのカクテルを実際に作ってくれたのも彼女だ。」
ネモ船長が紹介する。
地球人のような外見でおかっぱの黒髪美人の女性だ。活発で元気そうな人だ。まだ若い。香織より何歳か上といったところだ。
「カムロさんはね、お父さんが地球人、お母さんがとある惑星から地球に調査に来ていた人と恋におちてね、そして生まれたの。」
ヒロミさんが昔話をするかのように言う。
「まあ、ヒロミさんたら。」
ヒロミさんと顔見知りらしく、親しい感じでしゃべっている。
「私の父は早くに亡くなって。でも、わたしは地球にいたかったから、ここで働くことにしたの。」
「香織とは逆のパターンね…。」
ヒロミさんが物思いにふけりながら言う。
「わたしは宇宙船の中で生まれたと母に聞いたわ。街も公園も湖や農園まである大型母船でね。故郷の環境と似たようになっているの。故郷まで帰るのはちょっと遠かったから、なるべく近い環境のなかで子育てしたいということだったらしいわ。おかげさまで母はまだ現役よ。また調査で、いろんなところをまわっているわ。」
「ここは変わっていて、地球で妖怪として有名な人たちも一緒に働いていたりするの。他の宇宙からやってきた人もいるし。すごくコスモポリタンな感じよ。」
 

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