esportsにプロライセンス制を導入すれば高額賞金大会を開催できるのか?→できるっぽい!
※2018年3月18日追記
大会と賞金についてめちゃくちゃ分かりやすくまとめられている記事を紹介。この議論は現状で最も妥当で実用的な着地点だろう→ゲーム大会・景表法・JeSU: 論点はどこにあるのか、包括的に整理する
※2018年3月13日追記
賞金と景表法問題は解決した模様→ 消費者庁がeSports賞金に関して「プロ・アマを問わず」景品類に該当しないとコメント(DAMONGE)
esports関係の大きな話題の一つに、大会賞金に関する問題がある。一般的には、「景品表示法によれば10万円を超える賞金の大会が開催できないため、国内esportsが発展しない」という形で言及される。
浜村弘一がインタビュー「国内eスポーツの未来とは?」(「週刊ファミ通 2017年11月2日号」より)で述べたように、「プロライセンス制を導入すれば高額賞金大会が開催できる」という言説も存在するが、その根拠と論理が不明瞭で、一部で疑問の声が上がっている(なお、高額賞金とは10万円を超えるものを指す)。
浜村 大会賞金については、日本の法律の問題があります。景品表示法によって、ソフトメーカーは最大で10万円までしか賞金が出せず、プロゲーマーのモチベーションにはなりづらい状態です。ただ、そういった問題も、国内の各eスポーツ団体がひとつに統合され、正式なプロライセンス制を導入すれば解消できると思います。正式なプロライセンスを持ったプロの選手にとって、ゲームは生計を立てるためのものなので、日本でも毎週のように、高額賞金付きの大会を開催することも可能になります。
また、浜村は「隆盛「eスポーツ」に法の壁 賞金たった10万円」(「College Cafe by NIKKEI」より。原文は「日経電子版2017年7月19日付」)で、日本のesportsが海外に比べて出遅れている理由を高額賞金大会が開催できないことに求めている。
日本市場は諸外国に比べると出遅れているという。理由として「eスポーツの主流であるパソコン上のゲームがそれほどなじみがなかったこともあるが、それ以上に大きかったのが景表法の壁だろう」と話す。
ゲーム会社が主催者や共催者となり、賞金の出し手となる典型的なeスポーツの賞金大会が、「景品規制」に抵触すると明文で回答された。これ以降、「リスクがあるということで資金の出し手が及び腰になったのは事実」(浜村氏)という。
以上の引用部分にはいくつかの論点が含まれているが、おおまかに言えば次のようになる。「高額賞金大会を開催できないために、プロゲーマーが充分な収入を得られずモチベーションが減退し、さらにそれらがesportsの発展を妨げている。しかし、プロライセンス制を導入すれば高額賞金大会を開催でき、2つの課題を解決できる」。
先に挙げたように、鍵となるのは「プロライセンス制を導入すれば高額賞金大会を開催できる」という部分だ。今回はこの仮定と結論の間に存在する根拠を検討し、一般論として「どういう形式の大会であれば高額賞金をつけても大丈夫なのか」をまとめる。
ただし、上記の引用のように高額賞金大会を開催できないことが2つの課題の主要因とするのは考えにくく、因果・相関関係があるのかはまったく定かではない。むしろ、ほかの要因を議論したほうが建設的なようにさえ思われる。本記事はあくまでも高額賞金大会の問題を議論するに留まる。
なお、主に参照するのは木曽崇の記事「総括:賞金制ゲーム大会を巡る法的論争」(「カジノ合法化に関する100の質問」より)と、白石忠志の論考「eスポーツと景品表示法」(「東京大学法科大学院ローレビュー Vol.12」より)である(引用において句読点は「、」「。」に統一した)。法律的な観点や解釈はすべてこれらに依り、独自の法的見解はない。
結論だけを知りたい読者は最後だけ読んでもらいたい。
景表法の意義
そもそもなぜ景表法が必要なのか。白石は下記のようにまとめている。
景品規制の趣旨は,需要者がどの商品役務を選ぶか(「商品選択」)は当該商品役務の価格や品質(「良質廉価」)に重点を置いて行われるべきであり,景品が良いからという理由が本体の商品役務の選択を大きく左右してはならない、という思想に求められている。
この考え方は重要だろう。なぜなら、大会の賞金を目当てにゲームを購入・課金することは望ましくないと考えられていると言えるからだ(おおもとは公正取引委員会の研究会によるもの)。とはいえ、プロゲーマーとして生計を立てるなら、賞金つきの大会が頻繁に開催されているゲームを選ぶのは当然とも言える。これに関する議論は別途行なうべきものなので、今回はしないでおく。
※大会に出場することが賞金目当てにならないようにするためには、コミュニティと大会の関係を吟味すれば深い示唆を得られるかもしれない。
賞金の有無を基準とした大会の形式
まず、賞金の有無を基準とした大会の形式をまとめる。景表法では賞金額10万円(正確には商品価格の20倍以内)が分水嶺となるのは周知のとおりだ。
a.賞金のない大会
b.賞金が10万円未満の大会
c.賞金が10万円超過の大会
い.賞金の拠出者が、商品の購入・課金および大会の開催によって直接的に利害が生じる個人・法人の大会
ろ.賞金の拠出者が、商品の購入・課金および大会の開催によって直接的に利害を生じない第三者の大会
「cい」の「商品の購入・課金および大会の開催によって直接的に利害が生じる個人・法人」とは、基本的にはデベロッパーやパブリッシャー、オーガナイザーなどのゲームや大会に関する権利者のことである。
また、大会の賞金に関して、景表法とは別に賭博法によって制限される場合がある。出場者から参加費を徴収し、それを成績優秀者に配布するのは賭博法に違反するため開催できない(木曽によれば、その場合も「1万円以内程度の日用品」が商品であれば大丈夫とのこと)。参加費の拠出者と、参加費から捻出される賞金の受領者が一致するとダメということだ。
ゲームの性質を基準とした大会の形式
そして、ゲームの性質を基準とした大会の形式をまとめる。木曽が「有料プレイヤーが大会において有利になると考えられるゲーム」と「有料プレイヤーが大会において必ずしも有利にならないゲーム」を分類しているためだ。
X.プレイする(ゲーム内技術を高める)ために商品を購入する必要があるゲームを用いた大会
Y.基本プレイ無料で商品への課金がゲーム内技術に影響するゲームを用いた大会
Z.基本プレイ無料で商品への課金がゲーム内技術に影響しないゲームを用いた大会
「ゲーム内技術」はプレイヤー自身の技術のほか、カードゲームなら試合で有利になるカードも含む。「X」と「Y」は実質的に同じである。
問題なく開催できる大会
「賞金の有無を基準とした大会」と「ゲームの性質を基準とした大会の形式」には、ほかの形式がどうであれ問題なく開催できる形式の大会が存在する。以下に列挙する。
a.賞金のない大会
b.賞金が10万円未満の大会
c.賞金が10万円超過の大会
ろ.賞金の拠出者が、商品の購入・課金および大会の開催によって利害を生じない第三者の大会
Z.基本プレイ無料で商品への課金がゲーム内技術に影響しないゲームを用いた大会
「a」と「b」に関しては特に言うことはない。「cろ」はスポンサー(個人・法人問わず)が賞金を拠出する形式の大会で、木曽の記事で問題ないと明言されている(ただし、スポンサーは大会の開催により間接的な利害が生じるが、この点への言及はない)。スポンサーではなく「間に中間業者を立てた賞金拠出」については法的不利益を被るリスクがあるとのこと。
また、「Z」も賞金の制限はない(例えば、課金対象がスキンなどでゲーム内技術に影響を与えない『LoL』など)。これは、賞金が商品の購入・課金(してゲーム内技術を高めること)に顧客を誘引するための手段にはならないからである。白石によれば、賞金が制限される要件として、賞金が商品の購入・課金に「顧客を誘引するための手段として」設定されている場合とある(大会参加への誘引ではない点に注意)。
※『クラッシュ・ロワイヤル』は課金がゲーム内技術(カードの有無)に影響を与えるが、11月12日(日)に開催された「クラロワ 日本一決定戦」では無課金を自称するフチが優勝した。こうした実例は景表法の適用と解釈に影響するのだろうか?
なぜ高額賞金大会を開催できないのか?
「賞金の有無を基準とした大会の形式」と「ゲームの性質を基準とした大会の形式」のうち、「cい」「X」「Y」は景表法に違反するため開催できないとされている。
c.賞金が10万円超過の大会
い.賞金の拠出者が、商品の購入・課金および大会の開催によって直接的に利害が生じる個人・法人の大会
X.プレイする(ゲーム内技術を高める)ために商品を購入する必要があるゲームを用いた大会
Y.基本プレイ無料で商品への課金がゲーム内技術に影響するゲームを用いた大会
これらはいずれも同一の理由による。前述のように、大会の賞金が商品の購入・課金に「顧客を誘引するための手段として」設定されているからだ(その意図がなくとも)。現実的にはゲームの大半がいずれかに該当するため、ほとんどのゲームで高額賞金大会を開催できないことになる。
出場者と観戦者を基準とした大会の形式
では、このハードルを法律の改正を経ずにクリアするにはどうすればいいのか? 白石は上級プレイヤー(ゲーム内技術が特に高いプレイヤー、プロゲーマーを含む)と一般プレイヤー(ゲーム内技術が初級~中級)の区別を重視している。そこで「出場者と観戦者を基準とした大会の形式」をまとめる(ちなみに、木曽の記事では両者が区別されていない)。
α.上級プレイヤーのみが出場する大会
1.観戦者が存在する
2.観戦者が存在しない
β.上級プレイヤーと一般プレイヤーが出場する大会
3.観戦者が存在する
4.観戦者が存在しない
γ.一般プレイヤーのみが出場する大会
5.観戦者が存在する
6.観戦者が存在しない
このうち、実際に開催されるのは「β」が最も多いのは想像に難くない。また、上述のように今回の議論では出場者のうち上級プレイヤーと一般プレイヤーを区別しておくことが要点になるので、一般プレイヤーが出場する「β」と「γ」は実質的に同じである。
どうすれば高額賞金大会を開催できるのか
白石はまず「α」と「γ」を区別し、「α1」については「cい」「X」「Y」の形式であっても高額賞金大会を開催できる可能性を示している(おそらく問題ない)。
その根拠として、白石は「α1」の大会における賞金の意味を検討している。
ゲーム内技術を競って勝ち上がった上位者に賞金が授与される大会は、白石によると過去に存在したオープン懸賞告示の「優等懸賞」に該当し、その基準は「高度の能力を必要とし、一般消費者が容易に応募することができない」大会とされている。オープン懸賞告示では「基準を満たす優等懸賞について、 「顧客を誘引する手段とは認められない」と明確に述べ」られている。
賞金が商品の購入・課金に「顧客を誘引するための手段」でない場合には景表法の適用範囲となる。つまり、「α1」での賞金は「顧客を誘引するための手段」ではないので、賞金額に制限はないと考えるのが妥当だろう。
ただし、オープン懸賞告示は現在では有効ではないため、白石の記述は「基準を満たす優等懸賞は「顧客を誘引する手段とは認められない」という考え方が、オープン懸賞告示とオープン懸賞告示運用基準の廃止によって損なわれることは、なかったず」という消極的な態度に留まっている。
さらに、大会に参加する上級プレイヤーは、一般プレイヤーに大会を視聴させ(てゲームのプロモーションを図)るという仕事をしている事業者と見なすことができるため、賞金は「仕事の報酬等」に値すると言っても相違ない。「仕事の報酬等」は景表法が定める景品類に当てはまらず、その金額は制限されない。なお、ここで言う仕事は売上に繋がるアクションを促すことだけでなく、視聴者数など何らかの指標を満たすことでもいいのではないだろうか。
※賞金が「顧客を誘引するための手段」なのではなく、大会や試合、上級プレイヤー自身が誘引の手段である。また、「α2」は観戦者がいないので仕事が成立しないが、賞金は変わらず「顧客を誘引するための手段」ではないので問題ないように思える。
よって、「α1」においては「cい」「X」「Y」であっても高額賞金大会を開催して問題ないと解釈できる。そして上級プレイヤーを事業者としてより確たる存在にするための制度が、プロライセンス制だと言えよう。つまり、プロライセンス制を導入すれば高額賞金大会を開催できるようだ。
トッププレイヤーを招待して開催したTOPANGA LEAGUEのような大会は、高額賞金をつけても大丈夫だったと考えられる。
※プロライセンス制がどういう形式になるかは定かでないが、ゲーム権利者やプレイヤーと利害関係を共有しない第三者が上級プレイヤーを高度なゲーム内技術を持つプレイヤーと認定する、という骨子は通用するだろう。
一般プレイヤーが出場する大会は?
では、「β3」と「γ5」(一般プレイヤーが出場し、観戦者が存在する場合)における「cい」「X」「Y」はどうだろうか。
β.上級プレイヤーと一般プレイヤーが出場する大会
3.観戦者が存在する
γ.一般プレイヤーのみが出場する大会
5.観戦者が存在する
c.賞金が10万円超過の大会
い.賞金の拠出者が、商品の購入・課金および大会の開催によって直接的に利害が生じる個人・法人の大会
X.プレイする(ゲーム内技術を高める)ために商品を購入する必要があるゲームを用いた大会
Y.基本プレイ無料で商品への課金がゲーム内技術に影響するゲームを用いた大会
白石はこれらの形式の大会について明言していないが、基本的には木曽の記事を念頭に、高額賞金大会は開催できないのではと示唆している。だが、もし高額賞金をつけることが可能だとすれば、やはり賞金を「仕事の報酬等」と言えるかどうかだと述べている。一般プレイヤーが大会に出場することを仕事とみなせるだろうか?
この問題の答えを即座に見つけるのは難しいが、一般プレイヤーであれど上級プレイヤーと同じ仕事をしていると考えても差し障りはないように思われる。一般プレイヤーが100人出場する大会であれば観戦したいと思う人がいるだろうし、1000人も参加するならそのゲームに興味がなかった人でも気になって視聴するかもしれない。そしてゲームを購入する可能性がある。
特に発売されたばかりのゲームであれば上級プレイヤーがおらず、一般プレイヤーがプロモーションの主役になる。一般プレイヤーしか出場していない大会の視聴者が商品が購入・課金するのであれば、一般プレイヤーの大会出場は仕事であり、賞金は「仕事の報酬等」となりうる。
発売されたばかりのゲームでプロモーション効果が見られるなら、発売してしばらく経ったゲームでも成り立つだろう。大会の主催者が「一般プレイヤーにもプロモーションの役割がある、仲間を増やそう」と訴えかけておくのが有効なように思う(賞金額を執拗にアピールして大会参加や商品の購入・課金を促すのは得策ではないのかもしれない)。
ただし、「β4」「γ6」の大会は、上級プレイヤーの場合と異なり、一般プレイヤーの出場を仕事と見なす別の論理が必要だ。
β.上級プレイヤーと一般プレイヤーが出場する大会
4.観戦者が存在しない
γ.一般プレイヤーのみが出場する大会
6.観戦者が存在しない
なんらかのデータや結果をデベロッパーやパブリッシャーに提供するモニターないしテスターという役割なら仕事と見なしうるかもしれない。しかし、デベロッパーやパブリッシャーが関与しないコミュニティ主催で出場者以外観戦できない大会の場合、主催者が高額賞金を出すことは、景表法に照らせば難しそうだ。
どういう形式の大会であれば高額賞金をつけても大丈夫なのか
最後に、どういう形式の大会であれば高額賞金をつけても大丈夫なのか、簡単にまとめておく。これを参考に高額賞金大会を開催して不利益を被っても、弊誌は一切の責任を負わない。あくまで参考であり、利用は自己責任で。
●個人・法人を問わずスポンサーが賞金を全額出す大会
●基本プレイ無料で、ゲーム内での課金がゲーム内技術に影響しないゲームを用いた大会
●出場者が視聴者にゲーム購入・課金を促しうるなど、権利者や主催者のために仕事をしていると見なせる大会
※出場者から参加費を集めて、それを賞金にするのはダメ。
開催しようとしている大会が上記のいずれかに該当するなら、ほかの条件を問わず、高額賞金大会が可能であると考えられる。
より詳しく知りたい読者は木曽の記事「総括:賞金制ゲーム大会を巡る法的論争」と、白石の論考「eスポーツと景品表示法」を一読することを強くお勧めする。
大会を開催しても問題ないか分かるYes/Noフローチャート
大会の形式をYes/Noで答えて開催しても問題ないかを検討できるフローチャートを下記に用意した。弊誌へのサポートも兼ねて、300円で購入していただいた読者に限り閲覧できる(追記や注釈などは特にない)。購入と利用は自己責任で。
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