2024.1.4『ぼくの死体をよろしくたのむ』川上弘美


18作品からなる短篇集。予備知識も何もなく初めて飛び込んだ川上弘美の世界観は、ひとことで言うと「浮遊感」だった。現実と非現実の境をふわふわしていて、登場人物がはっきりとしない物言いで展開する話が、妙に心地よく感じていた。ただ、そのはっきりしない部分が作品の魅力を引き立てているようにも思う。読者の感受性や想像力に委ねているような、ヒントのようなキーワードを適度に散りばめているからこそ逆にのめり込んでしまうようだった。

家族や恋人の話があると思えば、そうとも言わない絶妙な距離感の関係の話もあり、そのどれもが誰かの愛を感じるようでもあった。結局のところ、人は愛がなければ生きられないのかもしれない。そう思うのは私自身が愛を欲しているからでもあり、もし別の人が読めば180度異なる感想を持つのだろうとも思う。いずれもを受け入れるような懐深い作品だと感じた。

ただ、その分言葉の強制力は少なく、何となく何か答えのようなものを探して本を手に取ったときには心深くは刺さりづらいのだろうと思う。季節や時間帯、心情によって映る色が変わり得ると感じるのは、やはり余白の多さがそうさせるのではないか。

今の私にとっては本作を読んでいる間は、浮遊感が少し長く続く、どこか切なくも居心地が良い時間だった。のめり込みすぎず、注意が散漫しすぎず、ほどよい距離感で居られる作品だと感じた。また違ったタイミングで読み直してみようとおもう。

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