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【マイノリティデザイン】誰もが隠れマイノリティ

ハサミ、メガネ、片手で使えるライター、曲がるストロー、タイプライター、iPhone、セブン銀行のATM…。社会的弱者のために作られ、いつの間にか社会に欠かせない物となっている商品は数多くあります。

もしかしたらその悩みを抱えているのは世界でたった1人かもしれない。そんな誰かのためのアイデアが、社会全体のためになることがあるんです。そして、そんなアイデアを思いつくことができるのは、その悩みを抱えている世界でたった1人の自分だったりするんです。

それを発見したのが、コピーライターの澤田智洋さんです。

「マイノリティデザイン」では、息子さんに視覚障害があることが発覚したのをきっかけに、澤田さんがマイノリティのための仕事をするようになった経緯が書かれています。

障害の有無や性的少数者だけでなく、スポーツが苦手な人、海外で生活している人、集団でのコミュニケーションが苦手な人など、様々な分野で誰もがマイノリティになる可能性があります。これまでは、マイノリティであることはハンデとされてきました。しかし、考え方を変えるだけで、それが強みになるんです。

多様性が重んじられる社会になった今、マジョリティを意識した広告の時代は終わりを迎えています。それを肌で感じている澤田さんが考えたマイノリティのためのデザインは、その枠に入らない人にとっても価値があるのではないかと感じるものばかりでした。

中でも特に印象に残ったものをご紹介します。

マイノリティは「社会の伸びしろ」

澤田さんはこれまで、義足をファッションアイテムとして再解釈する「切断ヴィーナスショー」や、視覚障害者と寝たきりの人がお互いに必要な感覚を共有するためのボディシェアリングロボット「NIN_NIN」、高齢者をアイドルとして売り出した「爺-POP」など、様々な「マイノリティな人・もの・悩み」を起点にしたプロジェクトを手掛けてきました。その中で、「自分だってマイノリティだ」という気付きを得たと言います。

マイノリティの定義は多義的で、わかりやすく線を引けるものではありません。すべての人の中にマイノリティな部分とマジョリティな部分が共存していると言うのです。

この考えにはハッとさせられました。自分の中にも思い当たる部分があったからです。

そして、澤田さんは、マイノリティとは「今はまだ社会のメインストリームには乗っていない、次なる未来の主役」だということに気づいたそうです。マイノリティは社会的弱者ではなく「社会の伸びしろ」。そう考えると、自分の中の弱みだと思っていた部分も、強みになる機会があるのではないかと思えるようになりました。

全国ワースト2位の高齢県が売り出したアイドル「爺-POP」

澤田さんが高知県の高齢化問題に取り組む中で生まれたのが、平均年齢67歳(当時)のアイドルグループ「爺-POP」です。

このビジュアルのインパクトと耳に残る音楽がたまりません。

県民の3人に1人が65歳以上という超高齢県・高知県で生まれたアイドルで、日本にとどまらず、海外でも話題になりました。高知県の観光や移住にも大きく貢献したそうです。

たしかに「爺-POP」には会いに行きたくなるキュートさがある…。

日本では高齢者はもはやマイノリティではなく、むしろマジョリティになりつつありますが、社会的弱者であるというイメージは根強いです。そんなネガティブイメージを逆手に取ったアイデアに唸りました。

ボディシェアリングシステムロボット「NIN_NIN」

視覚に障害がある人々は、横断歩道を渡るときに「勇気と度胸と勘」で渡っているという話に衝撃を受けた澤田さんが作ったのが、「NIN_NIN」というロボットです。

まずこのデザインと名前がかわいい!忍者をモチーフにした「NIN_NIN」というロボットを通して、感覚をシェアするというこの発想、天才じゃないですか?

視覚障害者は視覚を補ってもらい、気軽に外を出歩けない障害を持っている人は外出という経験をシェアすることができます。これは「ボディシェアリングシステム」と名付けられました。

どうしても社会的弱者のサポートとなると、助ける側と助けられる側の間に上下関係ができてしまい、それが原因で関係がギクシャクしてしまうこともあると思います。それを解消し、弱みと強みを交換し合いながら身体機能をシェアするという考えがすごくいいなと思いました。

私も「NIN_NIN」使ってみたいです。

「ひとり」のためのファッションブランド「041」

澤田さんがユナイテッドアローズとタッグを組んで作ったのが、041というファッションブランドです。

041公式サイト

スカートを履きたいけど車いすに巻き込まれるから難しい、脱ぎ着しやすい服にはオシャレなデザインのものが少ない…といったニッチな悩みに特化した服を作ることを目的としています。

この服がまたすごくかわいい!ジッパー付きでタイトにもフレアにもなるスカートなんて、私も欲しいです。

メガネだって、かつては視覚にハンデを抱えた人のためのアイテムでしたが、今はオシャレの一因になっています。コンタクトも同じですよね。

だれかひとりの悩みを解消するためのアイデアが、多くの人のニーズに応える商品になるというのはとてもおもしろいです。

誰でも楽しめる「ゆるスポーツ」

スポーツが苦手な人も、障害のある人も、身体能力に関わらず楽しめるスポーツを作りたい!という思いで考えられたのが「ゆるスポーツ」です。

その数は紹介しきれないほどたくさんあるのですが、私が好きなのは「いもむしラグビー」と「ハンぎょボール」。

「いもむしラグビー」は匍匐前進の速さが肝になるスポーツで、日頃から匍匐前進で生活しているような車椅子ユーザーの人なんかはかなり有利です。

「ハンぎょボール」は、ブリを脇に挟んでハンドボールをするという、ブリが特産品の氷見市で考えられたスポーツです。しかも得点が決まるたびにブリが出世していって大きくなるという…。もう聞いているだけでおもしろいです。

強者と弱者が一緒にスポーツをするとき、強者にハンデをつけるというのがスタンダードですが、澤田さんは弱者を特別扱いせずにみんなで楽しめるスポーツを考えだしてしまうんです。誰も負い目を感じることなく一緒に遊べるっていいなと思いました。

幼稚園や学校でもこういうスポーツを取り入れてほしいなぁ。

最後に

今回は澤田さんの取り組みをメインに紹介してきましたが、本の後半に書かれている「企画の作り方」は、自己分析のヒントになるようなものも多くてたくさんの学びがありました。

就職において障害者雇用という枠がありますが、企業によっては採用実績を稼ぐためのものとして使われ、個人の特性を活かすような仕事の割り振りができていないところも多いようです。

どこかに弱みを抱えているからこそ、別の部分が他の人より優れていたり、その弱みがあるからこそ気づける部分があったり、そういうことってあると思うんです。みんながそういった個性を活かして働くことが出来たらいいですよね。

そのためには、自分で自分のことをよく知らなければいけないなと思いました。誰もがマイノリティになりうる今、自分の強みも弱みもうまく活用できるようになりたいです。


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