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【汝、星のごとく】痛みを共有したその先にある愛

「汝、星のごとく」本屋大賞受賞おめでとうございます!

本を読んだのは随分前ですが、読み終わってすぐは物語の強さに押し潰され、呆然としてしまったことを覚えています。感想を書きたいと思ってメモを残していたのですが、消化に時間がかかってしまいました。

ここからは物語の展開のネタバレがあるので、未読の方はご注意ください。

月に一度、わたしの夫は恋人に会いにいく。

「汝、星のごとく」凪良ゆう

という1行目のインパクトがすごくて、ぐんぐん物語に引き込まれました。これはただの恋愛小説ではないぞと気を引き締めてページをめくったことを覚えています。そしてその予想は大当たりだった。

父親が堂々と浮気をしていることで、傷ついた母親の毒のはけ口になってしまっている暁海と、恋愛依存症の母親を持つ櫂。2人の家庭環境は、高校生が抱えるにはあまりに重くて、学生時代のシーンは読んでいて苦しくなりました。

櫂はさみしさを埋めたい母親に縋られ、暁海は父親を取り戻したい母親にかすがいの役目を強いられます。

小さな島の中で、すべての行動は筒抜け。そんな場所から早く出て行きたいのに、親から離れないと自分の人生が壊れてしまうこともわかっているのに、親を見捨てるということが子供にはなかなかできません。

自分はきちんと離婚もせずに愛人の家に入り浸っているくせに、娘が彼氏と一緒にいるところを見ると説教を始める暁海の父親はあまりにも身勝手。

愛人の家に火をつけるほど追い詰められている妻を目の前にしても、妻をフォローすることも、思い切って切り離してあげることもしないのは、臆病だからでしょうか。目の前で全ての惨劇を娘が見ているのに、父親の目に娘の姿は映っていなかったのでしょうか。

長く一緒にいると、夫婦生活に不満が出てきてしまうのも、他に好きな人ができてしまうことも、仕方ないのかもしれません。きっとそういうこともあるのでしょう。でも暁海のお父さんには、せめてきちんと手順を踏んで妻と娘を解放してから瞳子さんの元へ行ってほしかった。面倒なことからは目を背け、自分だけ好きなように生きているなんてずるいよ。

何より暁海がつらいのは、母親よりも父親の浮気相手の瞳子さんの方がかっこいい女性に見えてしまうことだと思います。母親の肩を持ちたいけど、母親は瞳子さんに勝てないことを誰よりもわかってしまう。

なんならいつも情緒不安定で娘を縛ろうとする母親よりも、自分の力で立ち、支援を惜しまないと言ってくれる瞳子さんの方が頼れる存在だと感じてしまうのは相当きついと思います。

しかし、17歳で母親を背負うことになった暁海よりも、幼い頃から母親を背負い続けてきた櫂の方がさらに世界を諦めていました。

俺たちは親につかまれた手を離せない。振り払ってしまえば楽なのに、それがわかっているのに、俺たちは、どうしようもなく、愛を欲している。

「汝、星のごとく」凪良ゆう

母親を支える暁海を見ながら語られる櫂の言葉がはとても重い。守られる子供と守られない子供の差は運でしかないと達観するしかなかった17歳の少年の胸中を思うと苦しいです。

櫂は暁海と一緒に生きていたいと思っているのに、自分も暁海も母親を捨てられないことも誰よりもわかってる。そして、自分には両方の親を背負うだけの力もないことを。

それでも暁海の母親はなんとか自分の力で立ち上がってくれたから、暁海も自分の人生を生きることができるようになります。でも櫂は、自分が崩れ落ちるまで母親の支えであり続けました。

この物語では、小さな島で繰り広げられる日常が閉塞感たっぷりに綴られています。仕事でもプライベートでも大きく感じる男女格差、異質な行動をとるとすぐに島中の噂になってしまうこと、いつも誰かに見張られているような感覚。

櫂は何度も「京都は都会やない」といいますが、島育ちの暁海からすると京都は十分都会に見えたのではないでしょうか。

読み進めれば読み進めるほど、暁海も櫂もなんとか幸せになってほしいと願ってしまうけど、最後はプロローグの1文に戻ってくるのだとしたら幸せな結末ではないのだろうか...と不安になりました。

共依存の関係はある意味心地よくて、そこに恋愛が絡むとその心地よさはより一層甘さを増すような気がします。ただ、自立がともなってないとその関係は簡単に破綻してしまう。

長い間ヤングケアラーとして母親を支えてきた暁海と櫂は、対等でい続けることにこだわり、自分がどうしようもなく困った時ほど、相手から距離を取ろうとします。2人とも誰かに寄りかかることを恐れているのです。寄りかかられる側の大変さが誰よりもわかってしまうがゆえに。

この物語の結末がハッピーエンドなのかどうか、私には判断がつきません。でも、暁海が選んだ家族の形は素敵だなと思いました。

⇩⇩⇩⇩ここから追記⇩⇩⇩⇩

続編「星を編む」も読みました。「汝、星のごとく」を読んだ時にこんなにつらい話を二度も読むなんてできないと思ったけど、「星を編む」を読んでそのトラウマが少し消化された気分です。

「星を編む」は短編集ですが、「汝、星のごとく」の完結巻でもあると思います。というか、ここまで読まないと終われません。まだ読んでいない人はぜひ。

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