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【 カウンセリングのこと(第1話) 】

私が初めてカウンセリングを受けたのは19歳のときです。
その前の年から私は東京で一人暮らしをしながら、医療系の専門学校に通っていました。
「対人援助職に就く人は、どんな相手とでもすぐに打ち解けられなければならない」
そういった理念のもとで授業が進められていきます。

授業には講義と学内実習があり、そのほかに臨床現場での実習もありました。
講義の中で頻繁に行われるグループワークでは、毎回メンバーが変わります。
学内実習や臨床実習も同様で、私はそれを負担に感じていました。
80人近くいるクラスメイトの中には、全くかかわったことがない人もいます。
もしもメンバーが固定だったら、それほど疲弊しなかったのかもしれません。
グループワークや実習中はひどく緊張し、不安感に押しつぶされそうでした。

そんな生活を続けているうちに、私の心は壊れていきました。
それはコップに入った小さな傷が、だんだんと大きな亀裂になっていく感じによく似ています。
自分でも気づかないくらい静かに少しずつ、でも確実に崩壊していきました。
そして2年生の5月に初めて精神科を受診することになります。

当時はまだ学生が携帯電話を持てる時代ではありませんでした。
パソコンも然りです。
東京で一人暮らしをしていた私には医療機関の情報がありません。
そこで私は公衆電話に置かれている電話帳から、精神科を標榜する医療機関を探しました。

私が受診先に選んだのは3駅先にある精神科クリニックです。
予約なしで診てもらえたので非常に助かりました。
初診時に告げられた病名は『対人恐怖症』です。
(現在は『社会不安症』に病名が変更されています。)

・人が怖い
・電車に乗るのがつらい
・学校に行くのが苦痛である
・とにかく不安で苦しい

問診票に記載した主訴はこんな感じだったと記憶しています。

診察室で私はひと言も話すことができませんでした。
ずっとうつむいて自分の足元を見ながら、小刻みに震えていました。
相手が精神科医であろうと、とにかく怖くてたまりません。
診察の最後に医師からカウンセリングを勧められました。
一日も早く回復したいという思いが強かった私です。
人と話すのは怖いけれど「やらなければならない」という強迫観念から、その場で承諾し予約を取って帰宅しました。

翌週の土曜日、初めてのカウンセリングがありました。
カウンセリングはクリニックとは違う建物で行われます。
そこはおしゃれな洋館風の建物でした。
私が呼び鈴を鳴らすと若い女性が現れて、私を部屋まで案内してくれました。
その女性こそが臨床心理士の方だったのです。

これが初めてカウンセリングを受けるまでのお話です。
第2話以降で実際のカウンセリングの様子や、私の感情の動きなどについて触れていこうと思っています。

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