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飛行機


2021年9月

9月に入ったがまだ暑い、部屋ではクーラーを掛けているが暑さが部屋に染み込んで来る

俺は中咽頭がん(喉のがん)の治療中で殆ど寝たきり状態だ

口の中は放射線治療の副作用でただれて、ものを食べることが出来ない
かわりにお腹に開けた穴から直接、栄養剤を流し込む毎日だ
もう三ヶ月は口からものを食べていない

口の中が激痛をやわらげるためにモルペスと言うかなり強い痛み止めを処方してもらってる。平たく言うと医療目的のモルヒネだ。一日2回決まった量の粉薬を飲むがそれでも痛みが抑えきれないことがままあり、そのときは頓服で液体のモルペスを飲む。まあ殆ど毎日2,3回は頓服を飲んでいる。

放射線治療で体力を奪われ、家の中を歩くことさえままならない。加えてもルペスの副作用の眠気で禄に起きていることも出来ない。起きていたところで痛みを感じるだけで頭はボーっとしてしまって何も出来ない。

ただ寝ているだけ、それでもお腹は減る。お腹が減ると目が覚める。栄養剤は1階にあり、自分の部屋は2階だ。だるい体を起こして立とう試みる、まずベットから上半身を起こしただけで激しい頭痛に見舞われてめまいがして頭がクラクラする。30秒から1分くらい頭痛が引くのに時間が掛かる。恐らくそんなもんなのだろうが、体感は5分以上苦痛を味わっているように感じる。痛みが引いたらベットから立ち上がる。すっかり足腰が弱ってフラフラして倒れるまではいかないまでもバランスが上手く取れなくて怖いので腕を伸ばし壁を触りながら、足幅せまく歩き出す。
階段を降りるだけで一苦労。必ず手摺りを掴まなくては降りられない。

一階の台所に栄養剤のパックと栄養剤を流し込むための接続チューブを取りに行く、取ったらまた階段を登って2階へ上がる。

点滴など引っ掛ける医療用ハンガーに栄養剤を引っ掛けて、お腹に設置したプラスチックの蓋を開け接続チューブと接続して椅子に座りお食事タイム。栄養剤の甘ったるい匂いが鼻につく。もう何ヶ月も栄養剤を流し込む度に同じ匂いを嗅ぎ続けてる。

外を眺めると飛行機が飛んでいる。いつ飛行ルートが変わったのかは知らないが自分の部屋からこれから着陸するであろう飛行機をよく見るようになった。青い夏空に白い雲を背景にただゆっくりと感情があるのか無いのかわからない風に飛行機は遠くへ飛んで行き小さくなってゆく。

栄養剤を流し切るまで約20分、その間ただぼーっとしてるだけだ。ただぼーと窓の外の空を眺める。空の青さと雲の白さだけで外の暑さが伝わってくる。

お食事が終わったら、接続チューブを外し、カラになった栄養剤のパックをもってまた階段を降りて1階の台所へ。ヘロヘロなのに接続チューブを洗わなくてはいけない。それだけできつい。

2階へ戻ったらベッドへ。

痛みに耐えるだけの日々

こんなんで生きてる意味あるのかな?って何度も自問自答した。


いま2年後、飛行機が飛んでいるの見るとこのときの感情が呼び起こされる。



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