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ゲーム関連だけど真面目、なのに楽しめる課題:北米事例と日本での可能性

eスポーツクラブで「ゲームの枠を飛び出す課題」を出す

こんにちは、NASEF(North America Scholastic eSports Federation/北米教育eスポーツ連盟、以下NASEF)日本支部です。前回はテーマ:COVID-19 x ツール:『マインクラフト』で Interest-Driven Learning(直訳的には興味駆動学習、噛み砕くと関心分野だからこそ生じる能動的な姿勢が生み出す学び)を促した事例を紹介しましたが、今回は同記事後半で紹介した「Beyond the game Challenge」についてお話ししてみたいと思います。

「Beyond the game Challenge」(訳すならば「ゲームの枠を飛び出す課題」でしょうか)とは、NASEF参加校でeスポーツクラブ活動をしているメンバーが、業界における「競技選手以外の仕事」に挑むことを促す課題です。

課題は複数用意されていますが、その内容は動画編集や配信といったコンテンツクリエイター系、イベント運営系、アナリスト系、など業種別に分けられていますが、内容としては明日から役立つようなもの(DiscordサーバーにBotを実装してみよう!)もあります。

北米事例ではこれを加盟校全体のコンペ形式で実施し、審査~賞品提供まである大規模な取り組みとなっていますが、個人的に他校との競争や賞品という部分は必須要素ではないと考えています(理由は後述)。

なお、参加する課題はひとつ~すべてまで各自が選べ、さらに個人応募とチーム応募も選択可能です。つまり学生は、興味がある分野にだけ、興味があるメンバーで参加できるわけです。ここは興味駆動学習では殊更に重要なポイントでしょう。

「なぜ今」これを特集するのか

今回これをテーマに選んだのは、教育関係者の方々がCOVID19の影響下で検討に値する取り組みとなると感じたためです。具体的には次の4点に注目しています。

■物理的に集まれない状況でのクラブ活動と相性が良い
■課題のデザインに配慮すればソーシャルディスタンスを保てる
→「新しい生活様式」における活動の持続可能性を高める

■生徒一人から参加でき、興味のある分野にだけ挑戦できる
■興味駆動学習を取り入れる最初のステップとして試金石になる
→学校・クラブの規模に関係なく実施可能

次項では課題の具体的な内容を紹介してみましょう。

2020年春の課題概要

以下は2020年春に実施されたBeyond the game Challengeの課題です。なおコロナ禍前に立案されたものです。このため新しい生活様式では実施が現実的ではない#3「試聴イベント企画運営」のようなものもあります。一方、それ以外は今でもソーシャルディスタンスを維持しながら取り組める内容です。

#1  映像・写真撮影と公開
#2  活動内容の配信
#3  試聴イベント企画運営
#4  プロにインタビュー
#5  デジタルファンアート制作
#6  コスプレ制作
#7  絵画的手法を用いたファンアート制作
#8  クラブの運営資金調達
#9  チーム紹介動画制作
#10 健康的なゲーム生活スケジュール立案
#11 Discordサーバーにボットを導入
#12 メタ修正案を作成
#13 好きなマップを『マインクラフト』で再現して自分なりに改善
#14 試合を見直して重要局面を分析

これだけを見ると、「ああ、よくある課題っぽい」と思われるのではないでしょうか。実は私も最初に一覧を見た時は肩透かしをくらったような気持ちになりました。

しかし各項目の応募要項をよく読んでいくと、「デジタルファンアート制作」のような課題であっても「著作権について適切に扱うために調査する」、「事前に必要なツールやテクノロジーを洗い出す」、「選出条件を明らかにする」といった、デジタルネイティブ世代に求められる感覚を身につけるべく設計されていることが見えてきます。

各チャレンジの具体的な内容はこちらのページで各チャレンジ横の>>をクリックして展開し、「Download Challenge」をクリックするとPDFで確認できます(内容はすべて英語)。英語が苦にならない方はぜひご覧になってみてください。

課題の意図を読み解いてみる

2020年春では課題が14個ありますが、すべてが「コンテンツクリエイター」、「イベント運営者」、「ストラテジスト」、「起業家」という4つの領域に分類されています。

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関心を寄せていない領域に属する課題に無理やり取り組ませても無意味ですから、参加者は自分が興味のあるものを選んで取り組むようになっています。

これで「eスポーツ産業に興味のある若者が」「自らの将来的キャリアをある程度見据えて」「興味駆動学習式の課題を」「自主的に選ぶ」という流れができます。

では次に、各課題の内容とその意図を読み解いてみましょう。今回は「 #10 健康的なゲーム生活スケジュール立案」を取り上げます(英語版の応募要項PDFはこちら)。

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要項では、まずこの課題が「イベント運営者」と「ストラテジスト」領域にまたがるものだと示され、続いて業界の現状が要約されて示されます。この部分にはだいたい以下のようなことが書かれています。

競技的eスポーツプレイヤーのスケジュールは戦略に関する議論から練習まで様々ですが、それに耐えうる身体的な健康増強もまた欠かせないものです。たとえばUCI Esports奨学生は担当の運動指導士(運動生理学専門家)の指導に基づくフィットネスプログラムに取り組むことで、ゲームで負荷がかかる身体部位の強化や疲労軽減を行っています。このフィットネスプログラムには有酸素運動、筋力トレーニング、ストレッチ、栄養管理が含まれます。またゼネラルマネージャーやコーチも、プレイヤーが最高のパフォーマンスを出すために身体的・栄養的状態を一定に保つことを推奨しています。

参加者はここで業界の現状を把握し、続けて課題の内容へと読み進めます。

課題:
所属チーム/クラブ向けの健康的なゲーミングプランを立案する
課題詳細:
調査: eスポーツ業界における運動指導士、医師、トレーナーのキャリアについて調べる。従来のスポーツ(アメフトや野球など)のケースを含めても良い。
下調べ: ゲーミングやeスポーツ分野の健康維持について書かれたブログや記事、Webサイトを読む。
立案:健康的なゲーミングプランを立案する(次の内容を含めること)
 →クラブメンバー全員がゲーム前に実施できる短い運動/体操
 →クラブメンバーと共有する「健康的なゲーミング」の知見のリスト(身体に関する情報や栄養素など)
 →身体状態と栄養状態がゲーム時のパフォーマンスに与える影響の調査結果
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作成したゲーミングプランはハッシュタグ #esportsBTG を付けてクラブのSNSに投稿する。
本課題は生徒個人単位でのみ応募可能とする。
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審査基準
審査はNASEFチーム、関係者、パートナーにより、次の基準を用いて行われる。
影響度:プランの魅力。クラブ/チーム内で興味を引くことができたか。
革新性:クリエイティブ性。新たな手法や既存手法の改善点があるか。
テクノロジー:立案に利用したテクノロジー。新しいテクノロジー、プログラム、プラットフォームを用いたか?
進捗管理:プロジェクトの進捗は管理できたか?管理にどのようなツールを使ったか。
貢献度:所属チーム/クラブへの貢献度。チーム/クラブ、あるいは学内コミュニティにどれだけポジティブな影響を与えたか?

ここからは私見になりますが、課題の内容は「大人が仕事をする際の物事の進め方」をベースとしたものとなっています。そして手を抜こうと思えばいくらでも手を抜くことができる一方、本当に独創性や実益性のあるものを生み出そうと思えばいくら調査しても足りないくらい奥深いものでしょう。

仮にこれが「押し付けられた課題」であればやる気も出ないかもしれません。しかし本人が将来のキャリアを見据えた上で希望している場合には興味駆動学習の利点が最大化されることでしょう。

NASEFのスローガンにもなっている「Meeting kids where they are」(子どもたちのいる場所に行く)というのは、結局この興味駆動学習という強力な手法を学生自らが実践・実感する環境を「大人が、教育者が用意する」ということに他なりません。プラットフォームも、学生リーグも、カリキュラムも、この点を外していたら教育にeスポーツを採用した意味がなくなってしまうのです。

日本で「大量の加盟校によるコンペ」など一朝一夕にはできないが…

確かに北アメリカのBeyond the game ChallengeはNASEF加盟校によるコンペであり、賞品も出ています。しかし私は、日本でも、単校でも、「ハレの場」さえ用意できればすぐに流用できるしくみではないかと考えます。

まず思いつくのが文化祭などの学校の催しでしょう。eスポーツ部がエキシビジョンマッチをやるのも盛り上がりますが、一方では「多くの人に取り組みの成果を見てもらえる場」としても機能するのですから。

また、活動のストリーム配信や動画投稿なども発表の場になるかもしれません(その場合はコメント欄をどうするかという問題もありますが)。

あるいは、学校からメディア向けにプレスリリースを打つというのもひとつの手かもしれません。ただし、これらはいわゆる「外発的動機づけ」です。上手く使えば非常に強い効果がありますが、教育をこれのみで達成することはできません。

一方、興味駆動学習は「内発的動機づけ」です。誰のためでもなく、自分の好奇心のために走り続けます。もしかすると、学生自身が内発的動機づけ・興味駆動学習の強みを理解してくれることが最大のメリットとなるかもしれません。ただその強力さは素晴らしいですが、自律性の高い「外発的動機づけ」と両立させることができれば、効果はさらに高まることも間違いのないところです。

学校の宿題のようにとにかく終わらせるための課題ではなく、自分が興味を惹かれたから取り組む。その上で、「ハレの舞台」を用意してあげる。ここさえ配慮できれば、小規模でも始められるのがこのBeyond the game Challengeの強みだと私は考えています。

おわりに

以上、簡単ながらBeyond the game Challengeの詳細説明と日本での可能性についての考察でした。今後もNASEF日本支部では「新しい生活様式」に向けた対策を練っている教育関係者の皆様に何らかのアイデアを提供できればと考えています。また、特に興味がある分野などありましたらお知らせください。確約はできませんが、可能な限りフォローしていきたいと考えています。

日本支部窓口のお問い合わせ先は以下のとおりです。取材や相談などお気軽にご連絡ください。

【お問い合わせ窓口】
公式ウェブサイト(英語): https://www.esportsfed.org/
日本支部窓口(日本語/英語): hnaito@esportsfed.org
Twitter:@nasef_japan

北米教育eスポーツ連盟(略称NASEF)は、教育を受け、想像力に富み共感力のある人材を育て、すべての生徒が社会におけるゲームチェンジャー(改革者)になるための知識やスキルを身に着けるために取り組む教育団体です。