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仕事のこと⑤~人の善意が見える仕事~

みなさんは自分の仕事のいいところ、どう考えているでしょうか。
私が携わっている障害者の就労支援の分野では、「人の善意」を如実感じることが少なくありません。「人の善性」とでも言えるかもしれません。
それは障害者本人に感じること、障害者が働く企業の担当者に感じること、障害者を支援する支援者に感じることなど、いろいろな場面で感じています。
これは一方的な感情になりますが、その時に、自分はじんわりと「ああ、いい仕事だな」と思えるのです。

企業は障害者雇用をおこなう義務を担っていたり、社会貢献のためだったり、社長の想いがあったりして障害者を雇っています。中にはハローワークから指導を受けて、やむにやまれず渋々雇用している会社もあります。
様々なスタンスで企業、つまり管理側の人が障害者を雇用しますが、実際に障害者や支援者に対応するのは現場の人。何も「障害者雇用の担当者」ばかりではありません。私たち支援者の窓口や本人にアドバイスや日々の業務相談に乗ってくれているのは、店長さんや、工場長さん、主任さん、事務員さん、パートさんなど様々な立場の人です。

障害者雇用をすることが、直接企業の利益につながるわけではありません(ここでは生産性や働きやすさへの影響などの障害者雇用でよく言われる“障害者を雇うことのメリット”とは違う意味でこのように表現しています)。つまり、障害者雇用の「企業担当者」と呼ばれる人は、多くの場合通常業務の上に障害者に対する対応(ここではあえてマイナスのように表現してしまっています)が入ってくるのです。
障害者の人は働く上で様々な配慮を必要としています。もっと言えば、配慮が必要だからこそ障害をオープンにして働いているわけです(=障害者手帳を持っていても働く上で配慮が不要なら“働く上では障害者とは言えない”とも言えます)。なので、いわゆる健常の従業員よりも「手間」がかかるのは当たり前のことなのです。

まあ別に健常者の従業員でも手のかかる人はいますからね。乱暴に言えば雇用管理的には同じ課題なので(むしろ障害をオープンにされている方が周りは納得しやすいかも)、業務の管理者として丁寧に対応するのは当たり前かもしれませんが。

それでも、わざわざ通常業務を抜けて支援者や本人との面談に加わってくれて、忌憚のない意見を下さる担当者の方はありがたい気持ちでいっぱいです。
あまつさえ、まだまだ課題の多い本人の少ない強みを評価してくれる方や、会社としての基準をビシッと示してくれる方、他の従業員とのバランスを取ってくれる方もいらっしゃる。
本人の幻聴や妄想にもしっかりと事実確認をしてくれる方もいるし、通院に同行してくれた方もいました。退職する際には本人の行く末を心配してくれたり、はっきりと「辞める判断は甘い。ここでもう少しゆっくりと経験を積んだらどうか」と言ってくれる方もいたりしました。また「正直、転職も考えているかな?って。長い目でみるとそれもひとつだと思っていまして。ただ、うちで正社員への道がないか考えてもいるんだけど…」と支援者に打ち明けてくれる担当者の方もおりました。

忖度なく、職場の上司としてだけではなく、時には人生の先輩としてアドバイスをくれる担当者の方もいます。ご自身の経験を支援者もいる前で語ってくれて、引き留めようとしてくれる方も(引き留めると企業側にも負担になるようなケースだというのに)。
これらは決して、担当者の方の独りよがりに見えることはなく、本当に心配してくれている、考えてくれているんだな、と思える距離感を測りながら話して下さる。
一方的なお節介をする方もいますが(これは申し訳ないが大分きつい)、それとはまた別の雰囲気があるのです。

大抵の場合、本人には伝わらない(もともとの障害や症状の影響も多分にあるのが実際)ことも多いので、中立の立場にある支援者は断腸の想いでみております。
そんな支援者に、最初はお叱りベースの方もいますが、支援者がどう本人に話してきたかを伝えると、大抵納得して下さるわけで。ああ、人間ができているなと思う次第。

本当に多くの担当者の方が、「辞めてしまっていいんですか?」と本人のいないところで支援者に確認されることは多いのです。支援者としては辞めるリスクや、現在の職場環境を振り返った上で本人に再確認している手前、それを伝えつつ「本人が決めたことですので」としか言えない歯がゆさ。ああ、自己決定の支援とはいったい・・・。

今回かなり語弊が生じるような書きぶりがみられましたね。障害者雇用に関するそもそもの私の考え方や視点をどこかでまとめられるといいんだろうけれど、結構センシティブでそれはそれで語弊や注釈が多くなりそうなので難しい(日和っています)。

障害者雇用自体は企業に負担ばかりではないとも思います。ただ、採用する側はよく考えて、責任感を持って雇用に踏み切る必要がある。
支援者は就職前・訓練の段階でよくよく本人の自己理解を促していく必要がある。そして支援するならやはり企業が本人を支えられるように環境づくりや企業への助言・支援は欠かせない。そして適切なタイミングで支援を切っていく(薄くしていく)ことが重要でしょう。
今の制度的に投げっぱなしの支援機関が多いので。
もちろん私自身も精進する部分はあるでしょう。

ともかく、企業担当者の方には平素からお世話になっております。
本人・企業・支援が三者でしっかりと雇用契約を支えられるように話し合っていくことが重要だと考えます。企業の担当者の人間的な温かさは貴重。
本来業務ではない、企業には経済的な利益がないところで、打算的ではない言葉に触れられる。そしてそれを感じ取った時に本人は、素直に感謝し、変わっていくきっかけにもなる。人の善性が人に影響していく。その場面に出会えるのはこの仕事の醍醐味だと考えています。

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