渚流ゆな

細々と小説を書いています。

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最近の記事

短編小説 キミノハナトコトノハ

 りーんりーんと鈴の音。肌寒い夜に虫の声。  ボクは部屋の窓を開け放つ。中秋の名月が綺麗だ。  ベッドサイドにはチョコレートコスモスが生けてある。キミが好きだった花だ。  ボクはベッドに寝転がると目を閉じる。鈴虫の音色が心地よかった。 「……ねぇ、聞いてるの?筆、止まってるよ?」  はっと我に返ると、キミが目の前で手を振っていた。いくら声をかけても返事がないから側まで来てくれていたようだ。 「ごめん……ぼーっとしてた」 「モデルをほっといて、ぼーっとしないでよね!こっちだっ

    • 短編小説 人と魚の狭間にて

       美しい歌声が聴こえるーーー。  優しく美麗に響き渡るソプラノの女声。  その歌声に引き寄せられるかのように歩き出す。  魅惑に囚われた人間が何処かへと消えていったーーー。 「私の肉を食べたいの?……いいわよ?あなたに不老不死の力をあげるわ」  僕が我に返ると目の前には人魚がいて、なぜか僕はナイフを握りしめていた。ここはどこだろうかと辺りを見渡すと、どうやら洞窟のようで眼前には暗い海と砂浜。  人魚は上半身を海から出している状態でそう言った。  僕は不老不死になりたい

      • 短編小説 しだれさくら

         桜の木の下には死体が埋まっている……そんな都市伝説がある。  桜の花弁の綺麗な薄ピンク色は死体から血を吸い上げて咲くからだとか。  そんな事ある筈ないのに……と、私は思う。  それでも、そんな都市伝説が根付いてしまうくらい桜の木には不思議な魅力があるのだろうーーー。 「今年も咲くかなぁ、この桜。私の唯一の楽しみなんだけどなぁ」  パジャマ姿の痩せ細った白髪混じりの女性が、病院の中庭にやって来た。  この病院には樹齢1000年は過ぎてるであろう一本の大きな桜の木があるの

      短編小説 キミノハナトコトノハ