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負け戦の殿(しんがり)
会社のような組織では、割の悪い役目を果たさなければならない事もある。
例えば、こじれたビジネスの修復とか、クレーム処理などがこれに当たる。まっさらな状態から始めるのと違って、初めから難しくなっているものを元に戻すのは骨が折れる。しかし、しょせん手直しの仕事の出来映えは良くはない。労多くして功少なしである。
しかも、人の後始末をやっている姿は、往々にして、その人自身がへまをやったように見えるものである。溶接部の仕上げを80番で荒っぽくやって深くえぐれた凸凹を、別の人が120番で丁寧に直そうとするのに似ている。通りがかりに見ればその人の仕上げがまずいように見える。実に損な仕事である。
こういう巡り合わせは「負け戦の殿」という。負けて退却する味方の部隊を敵の追撃から守りながら、戦い、かつ逃げるのであるが、犠牲は大きくて負けてばかりいるように見える。
一方、要領がよくてこすい者は、雲行きの怪しい状況では先頭に立たない。もっともな理由を言い立てて、巧妙に真ん中から後ろの辺りに陣取って存在感を示しつつ、あまり働かない。逃げるときは180度反転するから先頭集団にいる。
何か仕事を頼むと、「私にはできない」「時間的に無理だ」「そういうのはやった事がない」「他に頼めないか」という具合に矛先をかわしてすり抜ける。
正直に投げて15勝15敗の成績の投手と、肩が張るとか筋肉がどうとか御託ばかり並べて、相手チームが2線級投手でくると分かった試合だけ投げて10勝2敗を残したピッチャーと、果たしてどちらがチームの為になったか。
これを一番把握しているのは、ほかならぬチームメイトである。
「評判」というような漠然としてつかみどころが無いものの中に、同僚の厳しい評価が込められているのである。
不器用であたふたしている姿も、ぐちゃぐちゃの仕事に振り回されている時も、クレームでお客様から叱られて謝っている状態も、
「格好の悪い」仕事ー
こそが、その人の真価を表している場合が多いのである。昔の人は負け戦のしんがりこそ勇者の証と認めていた。
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