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【映画感想119】アナザーラウンド/トマス・ヴィンターベア(2021)


余裕がなく止まってしまった週2回更新の映画感、4カ月ぶりに再開しました。
200本目指してまた続けていきます。

【あらすじ】
血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる」という理論を確かめることにした高校教師4人組。
毎朝の飲酒のおかげで授業もプライベートも絶好調になっていくが、徐々に飲酒量が増えてゆき…

【感想(ネタバレ)】
この映画に出てくるのはノルウェー人の哲学者フィン・スコルドゥールの理論で、

人間の血中アルコール濃度は0.05%が理想」「0.05%に保てばリラックスした状態で気持ちが大きく持てる」というもの。
(ワインならグラス1〜2杯くらいらしい)

あらすじを読んだ時はアルコールで主人公達の人生が破滅していって「過ぎたるは及ばざるが如しですよ」みたいな教訓めいたお話になるんだろうな〜と思っていたのですが、ちょっと意外な方向に着地した感じの映画でした。

面白かったのは、さっそく朝からアルコールをキメた主人公(歴史教師)の最初の授業。

「今から3人の候補者を並べるので、誰に投票するか選べ」

という内容で、

候補者①は、
・ポリオの後遺症で障害がある
・高血圧症と貧血を患う
・他にも深刻な病気を抱えている
・目的のためなら嘘をつく
・政治を占星術師に相談する
・愛人がいて愛煙家
・マティーニが大好き

候補者②は、
・肥満
・すでに3回落選している
・うつ病に苦しむ
・心臓発作を繰り返している
・鼻持ちならない男
・葉巻を吸いまくる
・就寝前に浴びるように酒を飲む

候補者③は、
・勲章を受けた英雄
・女性に敬意を払う
・動物を愛する
・タバコは吸わず酒もめったに飲まない

で生徒たちは当然③を選ぶのですが、
実は③はヒトラー。
えええええ!!!と湧く生徒たち。
(ちなみに①はルーズベルトで②はチャーチル)

主人公は「この話には重要な教訓が含まれている。世の中は期待通りにはならない」

と締めますが、わたしは「結局最後に何を成すかが1番重要である」がこの映画の主張なのではないかなと思いました。

飲酒に歯止めが効かなくなった結果いろんなことが起きてしまうのですが、一方で主人公含めた4人の教師陣に人生を救われた生徒は1人2人ではないんですよね。
生徒側から「救われた」とかそういう類のセリフがあるわけではないのですが、終盤、サッカー少年が自分に寄り添ってくれたコーチを見つめる姿は考えさせられるものがありました。
彼はたぶん、一生その人のことを忘れないんだろうなという。

酒は悪くない、その人の人間性を酒が暴くだけなのだ…という飲酒を擁護する意見は数多くありますが、悪いのは理性のリミットを外す酒でもなく、
自制心を失う人間でもなく、酒を飲まなきゃやってられないような「何者かでなければならない」という常に心が緊張する社会ではないでしょうか。彼らの日常が破綻した原因って、単純に飲酒量が増えたからじゃなくて酒以外で緩和できないストレスが降りかかってしまったことが大きいと思う。

冒頭で家庭や職場で擦り切れた主人公が酔っ払って子供のようにはしゃぐ姿は、あんなに無邪気に笑ったのはいつぶりなんだろう…と切なくなりました。酒はやめろと取り上げのは簡単ですが、それは精神の牢獄に囚われたままでいることを強いることでもある。

ゴリゴリに固くなりすぎた心はもうアルコールとか強力なものでないと緩めることができなくなるのではないかと思うので、私たちがするべきは酒を省くことではなく、日常的に心を緩める手段や場所を複数もつことが大事なのかもしれないと思いました。

でもそれでも耐え難い膨大なストレスがある日突然好みに降りかかったとき、じゃあ自分はどうなるんだろうなあと考えると、
やっぱ飲むんだろうなあ。


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