見出し画像

【映画感想78】アメリカン・ユートピア/スパイク・リー(2020)

ブロードウェイで上演されたデヴィッド・バーンの舞台「アメリカン・ユートピア」をスパイク・リーが映像化した映画。

(デヴィッド・バーンを知らないず「すごい舞台の映画があるぞ!」とだけ聞いて鑑賞)

何もないグレーの空間を、同じグレーのスーツを見にまとった裸足のデヴィッド・バーンと音楽隊が、肩から下げたコードレスの楽器を演奏しながら歩きまわっていく。

サーカスのような派手なアクロバットがあるわけではないけれど、待機中に足踏みするつま先をみると見られることを意識したような綺麗な角度をずっと維持していました。

つわり1時間半強ずーーーっと演奏とマーチングバンドのような姿勢とフォーメーションを保ち続けるわけで、実はかなりハードな内容のステージ!

印象に残ったMCが、「録音ではないか?(録音でもいいのではないかというニュアンス)」という問いにデヴィッド・バーンが「聞こえているのは素晴らしいバンドの生演奏だ」と返して、

直後に演奏した
boun under punchesの歌詞が

この手を見てくれ、手は語る
take a look this hands,the hands speak

だったところ。

最近はAIが絵も描ける時代になってしまって、おそらく作曲も、このステージ全部をロボットがトレースすることも技術的に可能なのだと思う。ある種の聖域だった芸術分野がテクノロジーに侵略されつつあるいま、「それをAIではなくひとが作る意味」が切実に必要で、そしてその答えがここにある気がしました。

死ぬほど楽器を弾いた手、
終演後にいい公演だったとハイタッチする手、
画面の端に見えたテーピングをしている手、

いろんな経験を経た美しい手も舞台に落ちる汗も機械にはないもので、人を感動させるのはそのバックにある物語が大きいのではないかと思いました。AIがゴッホ風の絵を描いたところで本物と同じ値段がつかないのと同じく。

このMC以降、とくに後半以降はボルテージがあがってきく感じがしたのですが、呼応するようにカメラアングルが客席を写したりドラマチックになる感じがしました。
この会場の渦を巻く空気感を表現するのも、監督が人だからこそできたのではないかと思います。


曲ひとつひとつに込められた主張が全体から感じたのでいい舞台だなあと思いました。
そして出演者の服が一緒で、それぞれメイクもアクセサリーもみんなばらばらなのもよかった。
この良さは機械にはわからないんだろうな。
 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?