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ヘルシンキの毛糸屋さんと趣味の話

去年のヘルシンキ滞在。何日か暮らすように過ごすうちに街にもなれてきた。市内の道を歩いていると、ふと毛糸屋さんが目に留まった。「そうだ、編み物をしよう」そう思い、お店に入った。

壁一面に高くつまれた色とりどりの毛糸。ひとつひとつの毛糸に産地や素材が書いてある。お客さん何人かと、店員さんたちも忙しそうにして、お店は賑わっていた。

海外の街でポイントカードを


編み物は初心者。難しいものは編めないが、真っ直ぐなマフラーなら編めるだろうと、マフラーを編むことにした。冬の暗いコートに映える黄色のマフラーがいい。黄色のやわらかな毛糸を探しはじめるとすぐ、黄色の毛糸がほとんどないことに気がついた。とくにマスタードのような黄色はひとつもなかった。その一方で、青みのピンクやベイビーブルーはいろいろなバリエーションがあった。きっとフィンランドの人にあう色が多く取り揃えられているのだろう。

その中からモヘア混紡の卵焼きみたいな黄色の毛糸を見つけた。何個買おうかと悩んでいると、店員のおじさんが声をかけてくれた。どんなものが作りたいのかを説明すると、何個必要かを教えてくれ、いっしょに棒針も選んでくれた。来週にはロヴァニエミに戻ることを話し、毛糸が足りなくなったらまた来ますと、お店のポイントカードを作った。

頭がすっとする編み物

ほわほわの毛糸玉をかかえて、気持ちはほくほく。ロバーツコーヒーでダーティチャイを買って、ヘルシンキ大聖堂の階段の上の方に座った。YouTubeを参考に、見よう見まねで編み始める。慣れてくるとどんどん進むのが面白い。

頭がぼうっとしてきたと思えば、今度はいろいろな考えが浮かんでは消えていく。集中しているようで、散漫した状態。友達に会うまでの空き時間はあっという間に過ぎた。

趣味を聞かれて答えられない私は

以前、編み物にハマっているという日本の友人に「暇なの?」と笑いながらツッコミを入れたことがある。失礼な話だ。いわゆる若い人の趣味や余暇の過ごし方は、出かけたり何か”充実しているっぽいこと”をしなくてはけないと思っていた。とても間違っていた。

フィンランドの人は多趣味だと言われることが多い。私の周りのフィンランドの人にも、習い事に通っている人や過密なほどに趣味が多い人もいる。フィンランドではカルチャースクールに通うハードルも低い。もし始めてみて合わなければそのときはやめていい。始めるのは何歳でもいい。フィンランドでは、そういう雰囲気が確かに感じられる。

多趣味なフィンランドの友人たちに感化されて、手に取った毛糸と編み針。今なら編み物が趣味だといった友達の気持ちがよくわかる。何をして自分をワクワクさせようか、どうやって気分よく日々を過ごそうか。その手段はなんだっていい。チームでスポーツをしても、陶芸を習っても、森で一人で座ることでもいいのだ。趣味を楽しむということは、自分の生活を自分で満たすことのできる、自立したひとの行為なのだとわかった。


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