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一足先にフィンランドの夏に心を飛ばせて


3月も末だというのに、また冬の寒さが戻ってきた。三寒四温で春になっていくのだろうが、春のコートで日陰を歩いたときの風の冷たさは堪える。

そこで、こころだけでもフィンランドの夏に飛ばしてみたいと思う。私がこれまでに一番よく訪れたフィンランドのコテージにこころだけ。

馴染みのコテージ

そのコテージ(mökki:みょっき)はホストファミリーのお母さんの妹、つまりおばさんのもので、湖のほとりのサウナと、豪邸ではないがそれなりの設備を揃えた建物が一つある。植物を育てるのが趣味のおばさんは庭に畑をどんどんひろげ、温室にはとうがらし、花壇にはお花がきれいに植っている。

おばさんは旦那さんと2人で日々のかなりの時間をこのコテージで過ごしている。建設業に従事するおじさんが自ら少しずつリノベーションを重ねて、内シャワーやトイレ、暖房も整った近年は冬でも快適に過ごせる。

私は10年前初めてフィンランドに滞在したとき、ここが初めてのコテージ体験だった。そのときに森で初めてブルーベリーを摘んだ。ここで初めてサウナ後の全裸湖ダイブをした。ホストブラザーとボートで釣りをして、私だけ2匹釣れた。冬には凍った湖でアイススケートをし、氷上のトラクタードライブもした。

湖のほとりで、フィンランドに戻る


私のフィンランド経験がたくさんつまったこのコテージに、去年また戻ってきた。ほんとうの姪のようにぎゅっとハグをして歓迎してくれるおばさんとおじさん。なんならおじさんのハグが誰よりも強いぐらいだった。

サウナが温まるまで、コテージの周りを散歩した。変わったこと、変わらないこと。湖に浮かべたデッキが不安定なのは相変わらずだ。

さぁっと風が吹いて、水草が揺れる。その静けさに、今本当にフィンランドにいるのだとハッとする。すこし鼻の奥がきゅっとする。息を吸って、ああ気持ちがいい。少し暗くなってきた白夜のロヴァニエミの空はピンク色で、ぼうっと見ていたくなる。

サウナで心をはだかに

サウナが温まると、おばさんとホストシスターと私の女子3人でサウナに入った。サウナ室の上の方に置かれたシャンプー液が熱湯のようになっていることに気づかず手に出して火傷をした。サウナストーブで沸かしたお湯と湖から汲み上げた水を割ってちょうどいいお湯をバケツにためる。それをひしゃくで掬って頭と体を洗う。

ベンチに座って一息。おばさんがどんどんロウリュを投げる。ジャーッという音とともに蒸気が充満する。薪がぱちぱちはぜる音と逃げたくなるような熱い蒸気が心地いい。しばらく3人でおしゃべりをする。おばさんが先に湖へ、続いて私たちも水着をきて湖へ向かった。

水が浅いため、飛び込みはしない。でももたもたしていても仕方がない。覚悟を決めてつま先から水に入っていく。肩までつかって辺りを平泳ぎでひと泳ぎし、そそくさとサウナに戻る。フィンランドでは湖で泳いだ後に外気浴をすることはあまりない。整うタイムがないのだ。ビールをサウナに持ち込み、水分補給をしながらこれを繰り返す。といっても3回ほどで十分だ。


フィンランドのサウナは正直になる場所。フラットに話せる場所だ。だからサウナではいろいろな話をする。おばさんは若い私たちに気を使って先に出ていった。ホストシスターと、会わない期間に起こったいろいろな人生の出来事について話した。そして、もう10年も経つんだね、と信じがたい時の流れにも関わらず、変わらずにいられた私たちの関係を振り返って、有難い気持ちになった。

お風呂上がりの居間のようなゆるんだ時間

サウナを出て、男性陣と交代。男性陣はサウナストーブで大きなソーセージを焼いてきてくれた。フィンランドの定番だ。食卓でソーセージを食べながらみんなでいろいろな話をした。日本でサウナが流行っていることや、フィンランドではサウナのないアパートがまた増えてきていることについてだ。昔ここでモノポリーをしたのを覚えている。


帰り際、おばさんは初めて畑でとれた小さなジャガイモと、いちごをたくさん持たせてくれた。車からは牧草地から霧が立ち上るのが見えた。





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