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【短編ホラー小説】黒い男

家に、いたくないんです。

家で仕事することも、家で眠ることも、全てが苦痛です。

今の時期は、みんなそうだから我慢しないと?
我慢できそうにはありません。頭がおかしくなってしまいそうです。

今、外出することは不謹慎?
はい、それは分かっています。
ただ、私の事情は、あなたが思っているような事とは違う。


このまま家にいては、私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は




黒い、男でした。
肌や、服装がというわけはありません。
男の見た目に、黒という色はありませんでした。
ただ、感じたんです。あらわすなら黒だと。

男を見たのは公園でした。
ごく日常的な、噴水のある大きな公園。

最近の自粛で、在宅勤務が続いていた私は、仕事の気晴らしに、たまに公園に散歩に出かけていました。
平日の公園は、私には新鮮で、息抜きにはちょうど良かったんです。

頭に、仕事のことをうっすらと浮かべながら、夏が近づく春の陽気を歩く。

遊ぶ子供たち、ベンチで本を読んだり、ウォーキングしたり、犬の散歩をしたり、思いのままに過ごす人々。
広場の噴水を中心に、穏やかな空間が広がっていました。

流れていく景色の中で、何かが、私の目に目に留まる。
違和感でした。私がそれに感じたものは。

私と噴水を挟んだ先。隅にある木陰のベンチ。
男は立っていました。

周りには誰もいない。
公園は人で賑わっているのに。その周辺だけに誰も近づいていない。
何かを避けるように。

枯れ木のように、力なく立つ男。
背後に立つケヤキ。手招きするかのように、風で揺れる葉。

怖いもの見たさでしょうか。
わざわざ避けて通る必要もない。
道すがら、男の立つベンチに近づく。

近づけば近づくほど、私は孤独になっていった。
まるで、男と私と、2人の存在しか存在しなような感覚。

暗い。
近づくたびに、暗く。

見えない。
ぼんやりと、抽象的のまま。

雑音。
ノイズ。
ざざざざ。
警告。

これ以上は駄目だ。
壊れる。
取り返しがつかない。

足を止め、何事もなかったように、去らないと。
決して、男に、気づかれてはいけない。私を。

男をから視線を外し、進路を変えようとした、その時でした。

男の。
首。
回った。

見られた。

鼓動が鳴り止まない。

逃げないと。

振り返らず、足早に。
何故だか、走ってはいけない、そう思いました。
私が逃げていることを気づかれてはいけない。
あくまで、何もなかった。そう思わせないと。

足音はない。
しかし、男が、少しづつ、少しづつ、近づいている。
振り返らなくても分かる。

目が合ったはずのなのに、男の顔は分からなかった。
しかし、一つだけ、私の目に焼き付いたものがある。

公園は何も変わらない。
すれ違う子供も、大人も、変わっていない。
私以外は、何も。

私は、祈りました。
何も確証はありません。
公園から出れば終わる。
きっと、そういうものだ。と。
そう、すがるしかない。

もうすぐ、出口が見える。

見えた。

終わる。もう、少し。

道を開けてくれ。頼むから。

広くない出口を目指し、人を避けながら、進む。

やっと、出口。

公園を出た瞬間。
終わった。そう直感しました。
安堵しました。心の底から。

これで、日常に、戻れる。

私は最後に失敗した。

振り向いてしまった。確認、安心するために。

私の視界には。

男の。

目。

黒い。

何も無い。

虚。




私が家にいたくない理由。
分かって貰えたでしょうか。

2人きりは、嫌なんです。

もう、耐えられない。

見ているんです。私を。



あのめ、めめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめめ

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