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走れ!ライトマン#1

「これは、先ほどの映像と何がちがうか、さっき説明したんだからわかるよな」

前山は、北沢と榛名に問う。
榛名は真っ先に、
「暗いです」と答える。

問題の内容は、色温度。
二回映像を見せられて、後に見せられた映像は、赤いか青いかで回答を求められているのだ。

バチコーン

榛名のビール腹を叩いた前山は、顔を近づけて言った。

「さっき説明したすべてを忘れたのか、豚が」
「青いです」
「そ~、右上に5000Kと表示されている、比較的青いのだ。正解だよ北沢クン」

上司前山は比較的気性が荒いものの、腕利きのライトマンだ。

そう、ここは毎日テレビ放送網報道部の技術チーム。
北沢はその後、ディレクターとしてではなく、技術チームに入所することになった。
今行われているのは、カメラの基礎知識の講習、そして白を撮ることの必要性に関する講習だ。

技術チームの新米は北沢一之と、榛名新次郎の2名だった。


ライトマンとは、報道部ではカメラマンアシスト、音声、照明を担当する人間の総称である。
先端にモフモフしたものがついている棒をもっている彼も、撮影時綺麗に映るように調整するライティングする彼女もライトマンだ。

これは、突如バラエティ部門から緊急的に報道部へと派遣された、北沢一之の物語である。


「君はなんでライトマンしてるんだい」
「僕はディレクターになる予定だったんだけどな」
「手違いか~」
「まあね、この仕事でも悪くないと思えるといいんだが……」
「俺は親父の紹介!」
「はあ」

昼を迎え、雑談をしながら飯を食う。
話を聞くには、榛名の実家は太いらしい。

「この前の講習会、参加費100万円だったんだ~、さすがにしんどかったよね」
「何の講習会?」
「お金持ちになるための、投資の講習会さ」
「詐欺じゃない?」
「これまでインターネットビジネスもねずみ講もマルチにもひっかかってきたけど、今回は詐欺じゃないね」
「なぜだ」
「感だね!」

実家が太いならではのお金の使い方かもしれない。
もしくは、単純に騙されやすいか。

「お疲れ様です~」

でかいクーラーボックスくらいある鞄と小バック、長めの三脚を担いだ少女と、サンタクロースのようなカメラマンが現場から帰ってきた。

夜勤組だ。

ニュース内容は、交通事故。
緊急性のある突発的なニュースは、警察署担当の記者からすぐに映像技術担当者へ連絡が来る仕組みになっている。
この手の内容は、交通事故の他に、火災や突発的な事件、季節ものなどがある。

「いいな~、何食べてるの?」
荷を下ろした少女は、新米たちに話しかけた。

「俺は、麻婆豆腐丼と~、パンと~」
「すみません、お疲れ様です。北沢です。今日から配属になりました」
「いいな~、私もお腹すいちゃった」
「もうこれから帰宅ですか~?」
「そ!夜勤明け!私はライトマンの堀江です。よろしくね」

つやつやした肌にポニーテール、明るく気さくな女の子だった。

「すげーな~、俺もいつか夜勤やらされるんかな~」
「さあな」

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