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(33)軍隊の動かし方-竹簡孫子 軍争篇第七

本項は、孫子の兵法で最も有名な言葉の一つ「風林火山」が出てくる回です。風林火山は戦国武将の武田信玄が孫子の兵法の言葉を旗に記したもので、敵はこの旗を見ただけで恐れたようですね。

軍争篇は、敵と味方の主導権争いについた解説する篇ですから、「風林火山」も主導権争いで勝つための一つの方策として書かれたもので、その言葉だけでは学びは多くありません。その前後の文脈から内容を追っていきます。

ここから軍隊の動かし方について述べるのですが、非常に段階的に内容が展開します。

まず最初は、挙兵前の準備についてです。二つ目は、挙兵時の動き方です。三つ目が、状況に応じた軍隊の動かした方、四つ目は、戦場での駆け引きのポイントについてです。

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一つ目、挙兵前の段階です。

【書き下し文】
是の故に諸侯の謀を知らざる者は、予め交わること能わず。山林・険阻(けんそ)・沮沢(そたく)の形を知らざる者は、軍を行(や)ること能わず。郷導(きょうどう)を用いざる者は、地の利を得ること能わず。

【現代訳】
このように「軍争」の重要性を考慮すると、周囲の国々の腹の中(謀略)を知らなければ、前もって我が国の有利になるような位置を確保ができないし、行軍予定の地形、山岳や森林、険阻な要害、水沢などの状況を調べておかなければ、軍隊を計画通りに進めることもできない。その地域の道案内を上手に使わなければ、「地の利」を得ることもできないのです。

軍争篇で「交」は、各国や拠点の関係性であると述べました。「交わる」とはボクシングなどの格闘技で、間合いを取る動作に似ています。パンチを繰り出す前にどこまで近づけているかです。

「山林・険阻・沮沢の形」は、地形の形であり、これを知らなければ、適切な行軍ルートに導き出すことはできません。

「郷導」は地元の道案内人で、地元の人の協力を得なければ、有利な場所や隠れたルートを知ることができません。

これらは挙兵する前の段階で行うべきことだと読み取れます。

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二つ目は、挙兵する時、軍を動かすときのポイントです。

【書き下し文】
故に兵は詐(さ)を以て立ち、利を以て動き、分合(ぶんごう)を以て変を為す者なり。

【現代訳】
軍事行動は敵国や近隣の諸侯を欺く形で挙兵し、利益によって誘導し、敵軍を分散もしくは集合させることで、「軍争」を有利に変化させるのです。

「詐」とは欺くこと、「立つ」は挙兵することです。まさか軍を動かすとは思っていないところで、意表をついて行動する。その次は、敵に利益を与えて誘導させることです。

この二つは、前述した「迂直の計」を上手に行うための考え方です。


三つ目、「分合を以て変を為す者なり」は、この後の記述である戦場での駆け引きのことになります。

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次は、状況に応じた軍隊の動かした方についてです。ここで先に述べた「風林火山」が出てきます。

武田信玄は「風林火山」の四つを挙げていますが、実際は「風林火山陰雷」の六つになります。

「風」は行軍の事です。風のように颯爽と形跡の残さないで移動します。
「林」は、待機の様子です。「静」の体制です。
「火」は、侵略、敵の領土での行動です。苛烈に攻め奪います。
「山」は、防御の体勢、どんな状況でも動くことはありません。
「陰」は、「無形」の体勢です。秘匿し、敵は我が軍を把握できません。
「雷」は、進軍する様子です、電撃的に攻撃します。

孫子では、状況に応じたメリハリのある行動が大切だと述べます。動くときはキビキビ動くが、その雰囲気で静かに待機することはできない。意気が盛んに攻撃する時に気持ちで、隠れて秘匿することはできない。状況に応じて振る舞いを変えられることは、敵を恐れさせ、自軍を奮い立たせることになります。

最後、四つ目です。
戦場で有利に戦うための駆け引きの方法で、「孫子」は三つを挙げています。

【書き下し文】
嚮(むか)うところを指めすに衆を分かち、地を廓(ひろ)むるには利を分かち、権を懸(か)けて而て動く。迂直の計を先知する者は勝つ。此れ軍争の法なり。

【現代文】
偽りの進路を指し示すために部隊を分けて、敵軍の守備範囲を広げるために利益を分け与えて、最終的な主導権の獲得をかけて軍隊を進軍させるのです。そして「迂直の計」を成功させるために、「先知」、つまり間諜(スパイ)を使って予め情報を得る者が勝利するのです。これこそが軍争の原則です。

(1)我が軍を二つに分けて、敵軍を偽りのルートに進ませることです。
(2)利益を与えることで、戦場を広げ、敵を分割させます。
(3)スパイを使って予め敵の行軍ルートや時期を調査しておく
この三つは連動します。

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ポイントの一つ目は、我が軍を二つに分けて敵軍を偽りのルートに進ませることで、地の利を得て、主導権を獲得します。

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ポイントの二つ目は、利益を与えて戦場を拡大します。これは敵を分散させることで主導権を獲得します。

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ポイントの三つ目は、予めスパイ(間諜)から情報を得ておくことです。いつ、どのルートから敵が攻めてくるのか知っているかということです。

ここで述べた軍隊の動かし方は、長文ですが、繋がりで理解することが大切です。
挙兵前、挙兵時、行軍時、駆け引きと全てつながっております。それらは主導権争いに勝つために、一つ一つロジックを積み上げて、有利にしていくという緻密な作業を教えてくれます。

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