見出し画像

(38)利と害の両面思考-竹簡孫子 九変篇第八

孫子の兵法の将軍の能力(智信仁勇厳)の筆頭は「智」です。孫子のいう「智」は、「利」と「害」の二つの側面から思考できるかどうかです。

私の新解釈は、自然の摂理である陰陽の原理を土台にしておりますので、陰陽で物事を考えられかということでもあります。

スライド72

両面思考ができると一体どういうメリットがあるのでしょうか。
プラスの面、利益に対してマイナス面、損害について考えることで確実に達成することができるようになります。

マイナス面、損害に対しては、プラス面、利益について考えることで、不安や憂いを打ち消すことができます。不安や憂いは心のダメージになります。

スライド73

それではこの両面思考をどうやって使うのでしょうか。孫子では外交での駆け引きを例にあげています。

【書き下し文】
是の故に、智者の慮(りょ)は必ず利害に雑(まじ)う。利に雑うれば、故ち務め信なる可(べ)し。害に雑うれば、故ち憂患(ゆうかん)解く可きなり。是の故に諸侯を屈する者は害を以てし、諸侯を役する者は業を以てし、諸侯を趨(はし)らす者は利を以てす。

【現代訳】
九変の術を使いこなす智者の思慮は、ある一つの事柄を考えるにしても、必ず利益と損害の両面から考察するのです。利益に対しても、損害の側面からも考察することで、その仕事を間違いなく達成することができます。損害に対しても、利益の側面から考察することで、不安や憂いを消すことができます。
だから諸侯との外交においては、損害によって攻撃を立ち止まらせ、名誉や功業によって戰を仕掛けさせ、利益によって同盟を促すのです。


ここは漢字の解釈が難しく、これまでの解釈では文脈がつながっていませんでした。

故に諸侯を屈する者は害を以てし、諸侯を役する者は業を以てし、諸侯を趨らす者は利を以てす。

の一般的な解釈は、「諸侯を屈服させるのに損害を持ってし、使役させるには事業を持ちかけ、利益で持って奔走させる」というもので、直前まで言及していた「利」と「害」の両面思考から話題が逸れてしまいます。

私は「字源」など他の中国古典でどのような使われ方をしているのか本箇所の漢字について調べてみました。

その結果、次の漢字にしたような意味があることがわかりました。

役=戦争する
業=いさお 名誉や功業
趨=うながす(同盟や提案を)

その結果、本文は、「だから諸侯との外交においては、損害によって攻撃を立ち止まらせ、名誉や功業によって戰を仕掛けさせ、利益によって同盟を促すのです」という意味が見えてきます。

そうすると諸侯との外交のシーンで、三つの利の提案と害の提案とさらにもう一つの提案をしている様子が見えてきます。「故ち務め信なる可し」「故ち憂患解く可きなり」、必ず実行でき、不安が消えるという内容とも整合性が取れます。

スライド74

九変篇のここまでの話があってはじめて、敵が攻めてこないことを頼むのではなく、攻めてきても待ち受ける準備があることを頼めという有名な言葉に続きます。

「害」を「利」にするのは、とっさの思いつきではなく、「待つある」「攻むべからざる所」、つまり綿密な準備や攻撃できない体勢を予め作っているということなのです。

【書き下し文】
故に用兵の法は、其の来たらざるを恃むこと無く、吾れの以て待つ有ることを恃むなり。其の攻めざるを恃むこと無く、吾が攻む可からざる所あるを恃むなり。

【現代訳】
このように用兵の原則は、諸侯(敵軍)がやってこないことに期待にするのではなく、我が方に待ち受ける体勢が整っていることに期待します。諸侯(敵軍)が攻撃してこないことに期待するのではなく、相手が攻撃することができないだけの準備や体勢があることに期待するべきなのです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?