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(13)全きは共存共栄-竹簡孫子 謀攻篇第三

東洋哲学のキーワードの中で「全」「全き」という字は、すべてという意味以上の深い世界がある。

この世界のすべては完璧で何一つ欠けているものはなく、すべてが美しく正しいと、偉大な説学者たちは、世界をそのように見た。また「全」という字には、「サムシンググレート」や「アカシックレコード」、仏教の「阿頼耶識」、心理学の「超意識」、量子力学の「ゼロポイントフィールド」、純粋倫理の「幽界」、東洋思想の「道(タオ)」もしくは「天」、古今東西の不可思議な世界をイメージさせる。私たちの住む現実世界は、見えない世界が映し出す影であり、また波間の泡だという表現もある。この見えない世界は統一されており、それを西洋では「愛」、東洋では「仁」という。

宇宙法則は、「愛」であり、「仁」であり、「全」であり「一」という。

哲学的な深い意味を理解しながら、「孫子」の中に出てくる「全」を読んでいくと、不思議なことに深い意味が認められてくるではないか。「全」という字は、全体の結論である火攻篇の結文、正の兵法の奥義を語る地形篇第十の結文などの重要な箇所で使われている。そこには著者の孫武の深い意図を感じられずにはいられない。

故に曰く、彼を知りて己を知れば、勝乃ち殆(あや)うからず。地を知りて天を知れば、勝乃ち全うす可しと。地形篇第十

故に明主は之れを慎み、良将は之れを警(いまし)む。此れ国を安んじ軍を全うするの道なり。火攻篇第十三

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では、この「全き」を私はどのように解釈するか。これは「共存共栄」と解釈すると現代のビジネスで活用できる。経営の神様松下幸之助氏は、ライバル企業、ライバル店との共存共栄を掲げてビジネスを展開していった。

謀攻篇第三では、「必ず全うするを以て天下に争う」と述べている。勝利ではなく、天下を争うためには「全き」が必要であるということは、自軍の状況だけでなく、敵軍の状況も含んでいることがわかる。松下幸之助氏のようにライバルを敵に回さない、味方にしていくという理念、戦略方針が見えてくる。

この共存共栄の理念を「謀」にすることが、「孫子」最大の知恵であると思います。

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「計謀」という文字が、九地篇第十一に出てきますが、「計」と「謀」は、「陰陽」の関係になります。

「謀」が「陰」。「計」が「陽」になります。

また陰陽相待原理では、物質だけでなく、概念、動きや状況などあらゆるものを陰陽に分解しますが、「全体」と「個体」を陰陽に置き換えると、「全体」が「陰」で本質、「個体」が「陽」で末節と考えます。

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そう考えると、「謀攻」で全体を対象にし、「全き」(共存共栄)を目指すのは陰陽相待原理、自然の摂理、宇宙法則と合致していると言えるでしょう。

「共存共栄」を目指すものが、勝利する、戦略目的を達成するのです。


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