見出し画像

イ・チュンヒョン監督インタビュー日本語訳

パク・シネ、チョン・ジョンソ主演の<THE CALL>は、製作段階から多くの注目を集めた話題作だ。25歳で演出した短編映画<Bargain>で国内はもちろん、第41回トロント国際映画祭、第52回シカゴ国際映画祭等まで進出し、世界的な注目を集めたイ・チュンヒョン監督が5年ぶりに発表した長編デビュー作であるからだ。今年の3月に公開される予定だったがコロナ19の余波によって公開が延期されていた<THE CALL>が、Netflixを通じて観客のもとにやって来た。流麗などんでん返し、実験的な挑戦で異彩を放った<Bargain>と同じくらい、新鮮な衝撃を与えてくれる作品の誕生。公開された瞬間、好評一色の反応を引き出し、「成功的なデビュー」という評価を受けるのに成功したイ・チュンヒョン監督に会い、<THE CALL>について色々な話を交わした。

画像1

―初めての長編映画の公開を目前にしていますね。Netflix行きを選び、全世界の観客がデビュー作<THE CALL>を視聴することとなりましたが感想はいかがですか。
=実は製作する時点でも、こうなるとは思っていませんでした。全世界の観客が見てくれると思うと…嬉しいです(笑)楽しんで見てくれたらいいなと思います。

―<THE CALL>はマシュー・パークヒル監督の<恐怖ノ黒電話 >(2011)が原作となった映画ですね。演出を任される前から原作を知っていましたか?
=作家さんが書いたシナリオで、<THE CALL>に初めて触れました。シナリオを読んでから原作を見たのですが、やっぱり原作ご覧になりました?(見たと答えると)両作品の内容がかなり違うんです。原作のコンセプトを長所と考えてその部分だけ同一に維持し、原作よりはシナリオにさらに神経を使いました。

画像2

―<THE CALL>のシナリオを初めて読んだ時の第一印象はどうでしたか?
=ひとつの映画の中にいくつかのストーリーがある点が好きでした。シークエンス別にストーリーがどんどんひっくり返って、さらにひっくり返って。こういう話が好きなんです。そういう部分が気に入って「やってみよう」という風に思ったような気がします。

―主人公たちの選択によってストーリーが変わるので、インタラクティブコンテンツみたいだなと感じました。
=そうでなくとも、観客がソヨンと同一線上に立ってこの映画に没入し、体験できるやり方を取れたらいいなと思っていました。序盤部分のシナリオを書く時は、YouTubeのホラーゲームなんかをすごく参考にしたりもしました。日本のホラーゲームみたいなもの。ゲームと映画は似ている点が多いです。同じストーリーテリングでもありますし。

画像3

画像4

―二人の女性キャラクターがぶつかり合って、最後まで突っ走るという設定が興味深いです。それに、ヨンスク(チョン・ジョンソ)は韓国映画界ではあまり見かけなかった20代女殺人魔キャラです。キャラクターのコンセプトを定めるまでの過程が気になります。
=原作と違う風にしようと最初に思ったのが、二人の人物を同年代で構築するということでした。ある論理に従うというよりはストーリー的な直観だったのですが、キャラクターの対決構図を置いてみた時が、より良い気がしたんです。それから、二人の人物の似ている点を作り、中後半部で彼女たちをそれぞれ違う方向に進ませようと思ったんです。

―ヨンスクを演じたチョン・ジョンソさんの演技に本当に驚かされました。どういう理由からヨンスク役にチョン・ジョンソさんを思いついたんですか?
=シナリオを書く時、<バーニング>を三回ほど見ました。三回目はチョン・ジョンソさんを見るために見たように思います。彼女に関する情報があまりない状態ではあったのですが、「チョン・ジョンソさんがヨンスクを演じたらすごく面白そうだ」という直感があったんです。基本的にチョン・ジョンソさんが持っている「あの人は掴めない」、そんな神秘的な雰囲気に惹かれてシナリオを渡しました。

―その恐ろしいエネルギーを打ち返すソヨン(パク・シネ)も、やはり侮れないキャラクターです。パク・シネさんのどんな面にソヨンを見出したんですか?個人的には今まで見れなかったパク・シネさんの顔を見ることができて、印象深かったです。
=パク・シネさんを見るたびに、しっかりしていて、中心を上手に捉えていらっしゃるといった印象を受けます。男勝りな雰囲気もお持ちになっていて。何よりも目がすごくいい女優さんだと思っていて、ジャンル映画で力を発揮できるという確信がありました。パク・シネさんが今まで見せてこなかった姿を<THE CALL>で見せるのも面白そうだなと思いました。ソヨンのキャラクターは我が国において、パク・シネさんがもっとも似合っていると思います。バランスが良かったです。

画像5

―パク・シネさんが以前、「俳優が今まで考えもつかなかった細かい部分まで、ぎっしりと書かれたスマホのメモを見てびっくりした」とイ・チュンヒョン監督の几帳面さについて言及していました。どんなメモを書いておいたんですか?覚えているメモはありますか?
=短編映画は撮ったことがありますが、独立映画は産業映画とシステムがかなり違うじゃないですか。几帳面にやろうとしたにも関わらず、初めてなので準備しきれない部分もあったんです。なにしろ現場では大忙しなので、いつも撮影の前日に監督として準備しておかなければならないものをメモしておいたように思います。キム・ソンリョン先輩が経験豊富でいらっしゃるので技術的なことや、調和の仕方などを上手に説明してくれたようにも思います。現場も現場ですが、新人監督と既存監督のもっとも大きな違いは後半の作業をやったことがあるか、ないかの違いではないかなと、今はそんな風に思います(笑)そういう点で学ぶ点が多いです。

―初めてだからこそ記憶に残る撮影現場でのエピソードがいっぱいありそうですね。
=現場でマニトをやりました。誰かがこっそりプレゼントを隠して、持ってきてくれて、そういうのがすごく面白かったです。そのお陰でおやつがいっぱいある現場でした。
※韓国でよくやる遊び。マニトはイタリア語で「秘密の友達」で、くじ引きで自分のマニトを決め、相手にばれないようにお菓子をあげたり何かを手伝ったりしてマニトが喜ぶことをする遊び。

画像6

―通話によって多くのシーンが繋がっていますよね。俳優たちが別々に撮影するシーンが多かったと思いますが、演出者として大変な点はありませんでしたか?
=別々に撮影はしましたが、俳優さんたちが撮影のないターンにも来て、セリフを通してトーンを合わせることに集中できるように来てくださったんです。お陰で大変な点はありませんでした。遊びに来るたびにおやつなんかを買って来てくださって(笑)甘いものをいっぱい食べました。

―電話機が題材の映画なので、10代の観客にとっては新鮮だったかもしれませんね。
=若い観客が見るには馴染みのない小道具がいくつかありますね。無線電話機の概念をよく知らないと思いますし。家の電話というものがどんな反応を呼ぶかも気になります。僕も完全にその世代ではありませんが、撮影しながら懐かしい小道具をたくさん見ました。そういう小道具を集めるのは楽じゃなかったです。電話機を手に入れることから大変でした。前もって考えておいたデザインの電話機が、思ったよりも出回っていなくて。

―ヨンスクのいる時代を1999年に指定した特別な理由はありますか?
=1999年がヨンスクを表現するのにちょうどいいと思ったんです。世紀末、混乱、終末論、ミレニアム…「この先どうなるのか」そういう混乱の多い時期だったように思います。ファッションにしろ、色合いにしろ。現在「レトロ」として入ってくる1990年代の文化が、今よりもだいぶ原色的だと思うのですが、そういうところもヨンスクのキャラクターとよく合いました。ソテジが2000年代にカムバックするという点もぴったりでしたし。

画像7

画像8

―どうしてソテジだったのか気になります。(※劇中、ヨンスクはソテジのファンである)
=本当に一つの時代を代表する人物じゃないですか。ソテジの持つ方向性、流れに逆らおうとする感じ、こういうのがヨンスクによく似合ったんです。

―私もソテジ世代ではないので、<THE CALL>を見て「ウルトラマンだ」を初めて聴きました。歌詞を見てみるとヨンスクの覚醒曲のような印象を受けました。
=そうです。ソテジの歌の歌詞とヨンスクをマッチングしてみると重なるところが多いんです。ヨンスクの日記にソテジの「Come Back Home」の歌詞が書いてあったりもしますし。

―ヨンスクの衣装もソテジとかぶっていましたよね?ストライプのトップスに赤いベルト、ジーンズ、ナイフとの組み合わせからチャッキーみたいだなとも思いました。
=ああ、確かにそうですね(笑)あれはソテジが着ていた衣装と同じものです。ヨンスクが暴走し始めてからは、ソテジが雑誌の撮影で着ていたコーディネートをレファレンスにして、ヨンスクにそのまま代入しました。

画像9

―原作にはなかったシャーマン、シンママを持ってきた点も新鮮ですね。
=シンママ(イエル)はヨンスクにとってブレーキのような人物でした。シャーマンの持っている能力の一つが未来を見る力じゃないですか。未来を見れる人物がタイムスリップに混ざっているのも面白いなと思って。タイムスリップとオカルトの接ぎ木でもあり、そういう面でいい役だと思いました。イエルさんの持つ雰囲気がすごく卓越しているので、彼女の存在自体でキャラクターを上手に作ってくださいました。

画像10

―ソヨンとヨンスクの家もまた、一人の主人公ですね。ひとつの空間が色々なバージョンで活用されるという点が興味深かったです。ソヨンとヨンスクの家を具現化するにあたって、どんな点を最も重要視しましたか?
=質問の通り、家も一人の主人公です。家がひとつの生命体であるかのように、ソヨンとヨンスクの状況に合わせて変化していくんです。ストーリーが揺れ動くにつれて、その感情に合わせて家がどんな状態とコンディションを維持するか、そういう点が重要でした。<THE CALL>はたくさんの感情、それに付随したたくさんのトーンのシークエンスを持った映画です。もっとも多く登場する場所である家は、その揺れ動く感情をシンプルに説明し、盛り込むことのできる空間でなくてはなりませんでした。

―状況に従って運命が変わる、特に家が変化するCGのシシーンは具現化するにあたってたくさん悩んだように思います。
=難しかったです。CG担当のチーム長がたくさん頭を悩ませていましたし、常に方向性を上手に提案してくださいました。他のシーンよりも、家が変化するシーンをどう表現するかについて長い議論を交わしたように思います。既存のジャンルと如何にして違った表現をするか、CGっぽさをどうやって消すか(笑)

画像11

―イ・チュンヒョン監督ご本人についても気になっている読者が多いと思います。映画に興味を持ったのはいつからでしたか?
=中学生の時、芸術学校が上演した「フェーム」というミュージカルを見て、「あの学校に通って芸術をやりたい」と思いました。芸術学校に入学すると演劇映画科を専攻して、まず演技の授業を受けました。当時、クラスに映画をやっている子たちがいたのですが、ストーリーをはじめとする何かを作り上げることがすごく面白そうに見えたんです。なのでパートを映画に移して、映画を学びながら「これだ」と思いました。「映画をやらなくては!」というよりは、芸術高校に入って面白そうだと思ったことをやって、それから映画に夢中になったように思います。

―この先どんな話をやってみたいですか?
=スリラージャンルをいまだに愛してはいますが、まったく違うジャンルをやってみたいとも思います。音楽映画、ドラマジャンルの映画もやってみたいですし。今もっとも遠く感じるのは恋愛ものなのですが、恋愛ものもいつかはやってみたいです。ひとつのジャンルだけをやりたくはない気がします。色んなジャンル全部やってみたいです。

画像12

―<THE CALL>は初の長編作でした。どんな経験だったか一言で定義するとしたら?
=「初めて」という単語が合う気がします。すべてが新しくて、それに合わせて一生懸命やりました。多くのことを学びましたし。初めてだからこそいっそう面白かったし、「映画をずっとやっていけたらいいな」と思えた作品でもあります。「いい俳優さん、いいスタッフの方々に出会えてラッキーだった」とも思います。

―<THE CALL>は本来、劇場公開を目標にしていた作品ですね。Netflixユーザーたちに特別におすすめしたい鑑賞スタイルがありますか?
=スマホで見るにしても、イヤホンを付けて見ていただけたら嬉しいです。サウンドと音楽の作業に本当に神経を使って、丹精を込めたので。そのままスマホで見るのとイヤホンを付けて見るのでは、サウンドが天地の差です。もう少し面白く楽しもうとするなら、イヤホンを付けてご覧ください。このコメント必ず使ってくださいね!(笑)

出典元 http://naver.me/GyjG1uok


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?