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読んだ本 2023年11月号

専門書を2冊、ビジネス書を3冊、技術書を1冊読んだ。


軍事学入門

★★★★☆
軍事力が持つ様々な役割や歴史的な推移、陸上・海上・航空戦力と作戦、情報やミサイルなど現代の各種戦力の解説などが書かれている。軍事力の国際的な役割や、抑止の為の戦略などが分かり、おもしろい。

本書は6章構成になっている。

第一章 理論(軍事力とはなにか)
 第一節 軍事力の概念 / 第二節 軍事力と外交 / 第三節 国際法と軍事力 / 第四節 リーダーシップ
第二章 軍事力の歴史的研究
 第一節 軍事史 / 第二節 軍事力の変遷と意義 / 第三節 戦略・戦術概念の体系化の軌跡と趨勢
第三章 現代軍事力の様態
 第一節 現代の陸上戦力 / 第二節 現代の海上戦力 / 第三節 現代の航空戦力 / 第四節 統連合作戦
第四章 現代の各種戦の様態
 第一節 指揮統制組織と戦争 / 第二節 ミサイル戦 / 第三節 電子戦 / 第四節 NBC戦 / 第五節 平和維持活動
第五章 後方支援と軍事力
第六章 科学技術と軍事力

軍事力は戦時における破壊力として使用されるだけでなく、平和時にも、緊張が次第に高まる準戦時においても、また戦争事態が収束した後の平和回復・維持にも広く利用される。

軍事力の機能 p.19

冒頭から軍事力の用途や要素、軍事に関する国際法の解説などが展開される。武器を使用できるかの指針を与えるROE(Rules of Engagement)や「軍事力の限定使用」の概念は興味深い。

ROEは、いつ、どこで、誰に対して、どのように軍事力を使用できるかに答えるものである。...自国が「軍事力を限定使用」することはなくとも、諸外国では外交交渉の一つとして「軍事力を限定使用」は十分あり得るのである。

軍事力と外交 p.44,47

歴史的研究では、抑止としての核兵器の説明がされている。

核兵器の出現による人類滅亡を招く全面核戦争を回避するため、「戦争(戦勝)のための戦略」に加えて、「抑止のための戦略」が生まれた。抑止には戦略核戦力による制裁的抑止、在来戦力を主とする拒否的抑止がある。

戦略・戦術概念の体系化の軌跡と趨勢 p.132

陸上・海上・航空戦力の解説では、比較的詳しく各戦力の要素が説明されていて、これも興味深い。
指揮系統に関する記述では、C4Iがおもしろいと感じた。

C4Iシステムは、人間にたとえれば頭脳と神経および目、耳、鼻、舌、皮膚にあたる。...C4Iシステムはこれらの人間の機能を空間的、時間的に拡大し、情報を計算機により処理し、必要な情報を指揮統制センターに送り指揮官による判断がなされ、それが指揮官の決心となり、指揮統政権の行使として、命令が通信系を経て各端末期間に送られ行動に移される。

指揮統制組織と戦争 p.228

本書はビジネスには直接は関係ないが、アナロジーでふとした時に応用が効く可能性もあるだろうと感じた。本書で複数回紹介されていたリデル・ハートの戦略論についても機会があれば触れてみたい。
11/11

自己言及性について

★★★★☆
社会システムで知られるニクラス・ルーマンの自己言及性についてのエッセイ。

以前「ニクラス・ルーマン入門」を読んだが、冒頭では見事に入門書で一冊かけて触れられた考え方が書かれていた。2冊目であるからかもしれないが、内容は理解できないものの、スムーズには読み進めることができた。
本書では、ルーマンの独特な用語の使い方や感性の一端にも触れることができる。

冒頭付近で、オートポイエーシスと要素、コミュニケーションについて以下のように書かれる。

オートポイエティック・システムは、単に自己組織的なシステムであるというだけではない。つまり、みずからの構造を生産し、やがて変更するというだけではない、その自己言及は、構造以外の構成要素の産出にも同様にあてはまる。

社会システムのオートポイエーシス p.11

社会システムは、オートポイエティックな再生産の社会システムに特有の様式としてコミュニケーションを用いる。社会システムの要素は、コミュニケーションであり、このコミュニケーションは、コミュニケーションのネットワークによって回帰的に生産され再生産されるものであって、かかるネットワークの外部では存在することができない。...情報、伝達、そして理解、それらはシステムのーシステムから切り離して存在することのできないー局面であり、それらは、コミュニケーションの過程の内部で、同時に造られる。

社会システムのオートポイエーシス p.12

社会システムについて書かれた章では、社会システムと大抵構成要素と見なされる人間について以下のように書かれる。

各々の社会を社会システムとして把握することは、身体と精神を有した人間存在が社会の「構成部分」であるといった伝統的な認識を排除する。...社会システムは、コミュニケーションによって、当該システムを作り上げている出来事(行為)を構成し、相互連結させる。この意味において、社会システムは「オートポイエティック」システムである。

社会システムとしての世界社会 p.195

入門書とほぼ同じく、本書でもシステムの対象として考えられているものは、政治、社会、芸術、法である。

各システムの議論の展開は、既存のシステムの捉えられ方を前提にして考えられているように見えて、例えば社会システムでは人間を構成要素から排除するための議論が展開されているようにどうしても解釈してしまう。
つまり、人間が構成要素として扱われている社会理論が前提になかったとしても、ルーマンの理論展開は有効なのだろうかという気持ちになってくる。

途中の文章でポール・ヴァレリーの一節が引用されていることに意外性を感じた。

ポール・ヴァレリーの技法を凝らさない定式でいうところの「多くのものとして生まれながら、私は一人のものとして死んだのだ」ーの精緻化とみることもできよう。

個人の個性 p.105

上の引用は自己言及的システムがパラドキシカルであることについての記述の中でされている。この辺りでは、もはや使われている用語が日常的な意味を超えてルーマンの理論の一つの概念を指す別の用語になってしまっているように感じて、やきもきする。結局は、日常的な用語のフリをして、一つ一つの用語がすでに多くの他の意味を含んでいるところにルーマンの理論の難しさがあるような気がした。

他にも手頃な関連書があれば読んで理解を深めたい。
11/12

選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義

★★★★☆
宗教によって制約が多かった著者の実体験に基づく「選択」について、「選択」について直感に反するような研究結果の紹介などが書かれている。

著者のように選択の自由を宗教上制限されていたとしても「自分の人生を自分で決めている」という意識を持つのは可能である、といったように、選択についての疑問の答えが調査によって明らかにされる。

本書は7つの講義から構成されている。そのうち著者の直接の経験に大きく関わる講義ははじめの2つで、残りは著者の研究に関する話や、一般的な認識と異なる研究結果の紹介になっている。

個別の話の内容について書くと、本書の結論を盗み書きしているような記述になってしまうのでここには書かない。

巻末には養老孟司による解説が添えられていて、これを読んであまりに上手くまとめられていて詳しい感想を書く気持ちが削がれてしまった。

著者が有名になったのは、店頭に並べる商品の数は、せいぜい七つほどが限度だ、という調査をしたからである。...自由に選択することは幸か不幸か。著者は後半で、障害児のいわば安楽死問題に関する両親の選択を扱う。決して自由な選択が万能薬だなどとはいっていない。よく目配りされた内容である。ぜひ本書をお読みいただいて、人生における選択について、もう一度考えていただきたいと思う。多かれ少なかれ、今後の人生を生きる参考になるはずである。

解説 養老孟司 p.460

11/12

LEADING QUALITY

★★★★☆
思想には共感できる一方、方法論の記述が少ないので実効性に欠けるだろうという印象を持った。分量は少なく、手軽に読むことができる。


本書は3つのセクションと合計10の章から構成される。

セクションⅠ 品質リーダーになるには
 第1章 品質と価値 / 第2章 3つの品質ナラティブ / 第3章 品質文化醸成
セクションⅡ 戦略的に品質の意思決定を下す
 第4章 手動テストと自動テスト / 第5章 プロダクトの成熟度と品質 / 第6章 継続的テストとフィードバックループ / 第7章 テストインフラへの投資
セクションⅢ 成長を加速させるチームにする
 第8章 チームと会社の成長指数 / 第9章 ローカルペルソナ / 第10章 品質戦略のリード

本書では品質に関する文化に注目することが多い。文化に関して提唱されている「3つの品質ナラティブ」はわかりやすい考え方ではある。

責任ナラティブ:誰が品質に責任を持つか考えられ、語られている
テストナラティブ:品質向上につながる正しいテスト技法はどれか・どのツールを使うべきかが考えられ、語られている
価値ナラティブ:品質に投資した場合の見返りが考えられ、語られている
組織における品質リーダーとして重要なのは、どのナラティブが自分たちを目標から遠ざけているかを認識し、手を打てるようになることだ。

3つの品質ナラティブ p.20

上記の3点は、気持ちや考え方を変えることで解決する問題ではなく、相当に技術的な解決能力が求められるように感じる。例えば、テストナラティブについて以下のような記述があり、これを解決できるのは技術や知識によってだろう。

テストナラティブがよくない方向にいってしまうのは、テスト戦略が誰かの手による既存のものの猿まねにすぎないときだ。...10人のエンジニアに同じ機能を実装するように依頼したら、10通りのアプローチを目にすることになる。...テストをどうやるかを考えるにあたって、チームの成熟度・インフラ・予算といったものを考慮しなけえれば、おそらく良い結果にはならないだろう。

3つの品質ナラティブ p.22

他部署との連携などの文脈でも以下のような記述がある。

味方につけたい人が話している言葉やコンテキストを捉え、その人が重要視していることを見つけて、注意をひくような言葉を使って問題をフレーム化しよう。機能や情報ではなく、あなたのアイデアがどんなメリットを提供できるかにフォーカスしよう。特に彼らが心配していることや望んでいることとどんな関わりがあるかを話すべきだ。

品質文化醸成 p.31

これは相手の業務や組織的な課題を言語化して、それについての解決策を提示する必要があるということを言っていて、とても難しい。

本書を活用するためには、事業責任者やエグゼクティブが読むだけでは足りなく、本書で言及されている領域について手を動かしているエンジニアと共通認識を持ち、一体となって動く必要があるだろうと感じた。
その際に本書の方針に従うと技術的な理解が避けられないことが辛いところではあるが、お互いにとって客観的に理解できる指標(これはおそらく成長指標ではない)を導入して認識を合わせながら進めるのがいいのだろう。
11/23

取締役会の仕事

★★★★☆
経営コンサルタントの視点から見た取締役会の歴史的な方針の変化や求められる役割、多くの有名な会社の経営者の動きの具体例が書かれている。

関わる人が限定されている内容なので引用するのが難しいが、取締役会というものの立ち位置を知る入り口としての書籍としては、読みやすく優れていると感じた。
11/24

実例からわかる 特許化の要点

★★★★★
特許の発明に対する基本的な考え方、新規性・進歩性の考え方や活用方法など、多くの事例を交えて説明がされていて、理解がしやすく特許の基本について学ぶことができる。

実際に公開されている特許を読んだり、事例を調べるための準備として読んでおくとちょうどいいだろうと感じた。


本書は8章構成になっている。

1 特許の基本
2 特許における発明
3 出願書類の基本
4 新規性と進歩性
5 先行技術調査
6 進歩性の出し方
7 権利範囲の決め方
8 出願後にする重要なこと

特許における発明についての解説によって、発明といったときに想像するイメージの矯正を無理なく行うことができる。

一般に,発明とは「それまで世になかった新しいものを,考え出したりつくり出したりすること」と言われていますが,特許法では「発明は自然法則を利用した技術的思想のうち高度なもの」と定義されています(特許法第2条第1項).

発明の条件 p.13

インターネットなどに関わる特許が上の枠組みで捉えられるかなども書かれている。

権利範囲と新規性・進歩性についてはかなり多くの実際の特許の例を提示して解説がされているので、理解がしやすい。有利な効果と阻害要因によって進歩性を肯定する方法もおもしろい。権利範囲の具体的な説明についても同様で、本書で説明されている概念で例を提示していないものはないのではないかというくらい丁寧に書かれている。

利用発明や出願後にできる手続きについても簡潔に書かれていて、これも事例や制度を調べるいいきっかけになる。
11/25

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